2014年6月23日月曜日

古細菌を利用して電気をメタンに変換・貯蔵 ― 米共同チームが研究中

古細菌を利用して電気をメタンに変換・貯蔵 ― 米共同チームが研究中

2012年7月31日

http://sustainablejapan.net/?p=2235

スタンフォード大学とペンシルバニア州立大学の研究チームが、微生物を使ったエネルギー貯蔵システムの開発を進めている。古細菌の一種であるメタン菌を使って、太陽光発電や風力発電による電気をメタンに変換して貯蔵するという。

スタンフォード大の化学工学・土木環境工学教授 Alfred Spormann 氏は、「現在メタンの大部分が天然ガス由来であり、産業用の重要な有機分子の多くが石油から作られている」と指摘。今回の研究チームのアプローチでは、これらの化石燃料を使う必要がまったくなくなるとする。
メタン自体は温暖化係数がCO2の20倍ある温室効果ガスだが、微生物が作り出すメタンは安全に捕集・貯蔵でき、大気への漏出も最小限に抑えることができるという。
「微生物によるプロセス全体はカーボンニュートラルだ」と Spormann 氏は説明する。メタンの燃焼中に放出されるCO2はすべて大気由来であり、電気は再生可能エネルギーや原子力から供給されるものを使うためである。微生物によるメタン生成を利用することで、太陽光発電や風力発電からの過剰出力を吸収して貯蔵することも可能になる。
「ある種のメタン菌は電流からメタンを直接生成することができる。言い換えれば、それらの菌は、電気エネルギーを貯蔵可能な化学エネルギーとしてのメタンに変換する代謝活動を行っていることになる。この代謝プロセスの仕組みを理解することが、私たちの研究の主要テーマだ。メタン菌の遺伝子操作によってメタンが大量生産できるようになれば、画期的な技術革新がもたらされる」と Spormann 氏は話す。
メタン菌は、バクテリアに似ているが遺伝子的には系統が異なり、古細菌に分類される微生物である。メタン菌は酸素が存在する環境中では成長できず、そのかわりに大気中のCO2と水素ガス由来の電子を食べる。この食事の副産物として純粋なメタンが生成され、大気中に排出される。
研究チームは、メタン菌の代謝活動によるメタンを、航空機、船舶、自動車用の燃料として使用することを計画している。メタンの貯蔵・供給には既存の天然ガス用施設やパイプラインを利用することができる。メタン燃料を燃焼させると大気中にCO2が放出されるが、これはもともと大気中に含まれていたCO2をメタン菌がメタンに変換したものなので、温室効果の観点からはカーボンニュートラルであるといえる。
Spormann 氏は、エタノールその他のバイオ燃料と比べて、微生物利用メタンは環境負荷が低いと指摘する。例えば、トウモロコシを原料とするエタノールの生産には何エーカーもの耕作地が必要であり、化学肥料や農薬の使用、灌漑、醗酵なども行うことになる。これに比べて、メタン菌による代謝は、わずか数ステップの短時間のプロセスで済むため、はるかに効率的であるという。
ただし、この技術を商用化可能なものにするためには、いくつもの課題を解決する必要がある。そもそも、「メタン菌がどのようにして電子を化学エネルギーに変換しているのかについて、科学的にほとんど解明されていない」とペンシルバニア州立大 土木環境工学教授 Bruce Logan 氏は言う。
Logan 氏の研究室では、2009年に Methanobacterium palustre というメタン菌の菌株を使って電流をメタンに直接変換できることを実証する実験を行った。この実験では、富栄養水の入ったビーカー内に正極および負極を設けて、可逆電池を作製した。M. palustre とその他の微生物を混合したバイオフィルムを正極上に広げて電流を流すと、M. palustre によるメタンガスの生産が始まった。電気からメタンへの変換効率は80%程度あったという。
複数の微生物で混成されたコミュニティの下で、メタン生産率は高い数値を維持した。しかし、予め M. palustre だけを分離しておいた菌株を正極に配置すると効率が急激に低下した。これは、メタン菌が他の種類の微生物から分離された状態では、自然の生物種のコミュニティと比べて、メタン生産効率が低下することを示唆している。
「微生物のコミュニティは複雑だ。例えば、酸素を消費するバクテリアは、メタン菌の嫌う酸素ガスが集積することを防ぐことによってコミュニティの安定化に寄与している。一方、電子を食べるという点でメタン菌と競合する微生物も存在する。私たちは、コミュニティの組成の違いを特定し、時とともにそれらがどのように進化していくのかを理解したいと考えている」と Spormann 氏は話す。
こうした研究目的のために、Spormann 氏の研究室では、古細菌とバクテリアの混成培地に電気を流す実験を続けている。この培地には、CO2の消費でメタン菌と競合するバクテリア(CO2を使って酢酸塩の生成を行う)も含まれている。「酢酸塩やメタンの生成を完全に行うことができる生命体は、まだ特定できていないが、どこかにいるはずだ」と Spormann 氏。
Logan 氏の研究室では、メタン菌の成長を促してメタンの生産量を最大化させる技術の開発に加え、電極用の新材料についての研究も行っている。プラチナなどの貴金属触媒を一切使わないで済む炭素メッシュ生地の材料開発なども行う。「これまで、こうした材料はバクテリア系のシステムだけでしか研究されておらず、メタン菌などの古細菌のコミュニティという観点からの研究例はない」と Logan 氏は言う。
(発表資料)http://bit.ly/OFQT1Z

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