2013年5月26日日曜日

国会事故調 報告書 要約版 NO.2



 
 
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要約版

5部 事故当事者の組織的問題   

 第5部では、事故の原因、事前対策の不備、危機管理上の問題点、事故後の被害拡大防止策の 問題点など、これまで検証してきた事象について、ガバナンスの観点から分析することで、事故当事者である東電及び規制当局の組織上あるいは制度上の問題を明らかにし、今後の展望も含めて検討する。

5.1 事故原因の生まれた背景

今回の事故の原因は、何度も地震・津波のリスクに警鐘が鳴らされ、対応する機会があったにもかかわらず、東電が対策をおろそかにしてきた点にある。東電は、実際に発生した事象については対策を検討するものの、そのほかの事象については、たとえ警鐘が鳴らされたとしても、発生可能性の科学的根拠を口実として対策を先送りしてきた。その意味で、東電のリスクマネジメントの考え方には根本的な欠陥があった。

  こうした東電の姿勢を許してきた規制当局の責任も重い。規制当局は、その力量不足から、電事連を通じた電力業界の抵抗を抑えきれず、指導や監督をおろそかにしてきた。電事連側の提案する規制モデルを丸のみにし、訴訟上のリスクを軽減する方向で東電と共闘する姿勢は、規制当局としての体を成しておらず、行政側に看過できない不作為があったものと評せざるを得ない。
 
  例えば、耐震バックチェックは、最終報告まで至れば、地震・津波等の設計想定を超えるリスクについても確認される予定であったが、東電は耐震バックチェックを期限どおりに終了させず、結果として今回の事故を招いた。また、耐震バックチェックを事業者の任意の作業とすることを許したばかりか、その早期終了を促す努力を怠った保安院にも大いに問題がある。
 
また、海外での規制実施等を受けて、全交流電源喪失対策の指針への反映や、直流電源の信頼性に関する検討等が行われたが、指針改訂による規制化は行われなかった。その後、本事故に至るまで、長時間にわたる全交流電源喪失を考慮する必要はないとの内容が変更されることはなかった。
さらに、東電及び保安院は、勉強会等を通じて、土木学会評価を上回る津波が到来した場合に海水ポンプが機能喪失し炉心損傷に至る危険性があること、敷地高さを超える津波が到来した場合には全電源喪失に至ること、敷地高さを超える津波が到来する可能性が十分低いとする根拠がないことを認識していた。東電及び保安院にとって、今回の事故は決して「想定外」とはいえず、対策の不備について責任を免れることはできない。
 
5.2 東電・電事連の「虜」となった規制当局
 
  第1部で示した今回の事故の根源的原因のうち地震及び津波対策の未実施、シビアアクシデント(SA)対策の不備については、電事連がその責任の一端を負っている。電事連は任意団体ではあるが電気事業者のいわば連合体であり、その意味で電気事業者の責任も問われるべきである。電気事業者は耐震安全性の評価に係るバックフィット、SA対策等の規制強化につながる動きをかたくなに拒み続けてきた。その結果、日本では事故リスク低減に必要な規制の導入が進まず、5層の深層防護の思想を満たさない点で世界標準から後れを取っていた。規制及び指針類の検討過程の実態は、安全確保に必要な規制を策定するための健全なプロセスとは懸け離れたものであり、規制側も事業者側も「、既設の炉を停止しない」という条件を大前提に、体裁が整うような形で落としどころを探り合うというものであった。
 
  規制側と事業者側は、過去の規制と既設炉の安全性が否定され、訴訟などによって既設炉が停止するリスクを避けるため、両方の利害が一致するところで、「原発は安全がもともと確保されている」という大前提を堅持し、既設炉の安全性、過去の規制の正当性を否定するような意見が回避、緩和、先送りできるように、主に電事連を通じて、学界及び規制当局など各方面への働きかけを行ってきた。
 
  当委員会では、事業者と規制当局の関係を確認するに当たり、事業者のロビー活動に大きな役割を果たしてきた電事連を中心に調査を行った。その結果、日本の原子力業界における電気事業者と規制当局との関係は、必要な独立性及び透明性が確保されることなく、まさに「虜(とりこ)」の構造といえる状態であり、安全文化とは相いれない実態が明らかとなった。
 
5.3 東電の組織的問題
 
東電は、エネルギー政策や原子力規制に強い影響力を行使しながらも、自らは矢面に立たず、役所に責任を転嫁する黒幕のような経営を続けてきた。そのため、東電のガバナンスは、自律性と責任感が希薄で、官僚的であったが、その一方で、原子力技術に関する情報の格差を武器に、電事連等を介して規制を骨抜きにする試みを続けてきた。その背景には、東電のリスクマネジメントのゆがみを指摘することができる。
 
  東電のリスクマネジメントは、原子力に関するリスクを検討する会議体はあるが、それを、自然災害と併せて社会信頼の失墜や稼働率の低下に至るリスクとして扱っており、シビアアクシデント(SA)に至るリスクとして扱うことはなかった。その理由としては、原子力の安全は原子力・立地本部ラインの中で担保するもので、経営として管理すべきリスクとしては扱われていないが、そのことが、東電のリスクマネジメントのゆがみを招いた。学会等で津波に関する新しい知見が出された場合、本来ならば、リスクの発生可能性が高まったものと理解されるはずであるが、東電の場合は、リスクの発生可能性ではなく、リスクの経営に対する影響度が大きくなったものと理解されてきた。このことは、シビアアクシデントによって周辺住民の健康等に影響を与えること自体をリスクとして捉えるのではなく、対策を講じたり、既設炉を停止したり、訴訟上不利になったりすることをリスクとして捉えていたことを意味する。
 
   原子力部門の経営が厳しくなる中で、近年「コストカット」及び「原発利用率の向上」が重要な経営課題として認識されていた。そのため、原子力・立地本部や発電所の現場に対しては、「安全確保が最優先」と社内に号令をかけているものの、その一方で、実態としては安全確保と経営課題との間で衝突が生じ、安全を最優先とする姿勢に問題が生じていたものと考えられる。例えば、配管計装線図の不備が長年放置されてき たことなどはその象徴であって、このことが、今回の事故処理においてベントの遅れを招いた原因の一つになっている。
 
  本事故発生後、東電には事故を収束させる責任があるとともに、近隣住民をはじめ、国民及び全世界の関係者に対して、発生している事実について適時適切に公開する責任があった。この点、東電が行った情報公開は必ずしも十分であったとはいえず、結果として被害拡大の遠因となったと考えられる。例えば、2号機の格納容器圧力上昇に関わる情報公開については3月14日23時0分に海水注入についてのプレスリリースがあったが、実際に福島第一原発正門付近の線量上昇は同日の19時から21時ころであり、この時点での注意喚起はなされていない。また2号機の圧力抑制室の異常発生についても官庁への報告とプレスリリースの時期に大きなずれがあり、また深刻さを控えたものになっていた。
 
  3月14日8時の3号機の格納容器圧力の上昇に関して、保安院から、プレスリリース公表の差し止めを指示されたため行わなかったとの東電側の記録があるが、一方で官邸側は少なくともプレスリリースの際には官邸にも伝えるよう指示をしただけとのことであった。東電が、官邸や監督官庁からの指示に従って行動するということ自体は、合理的であると考えられるかもしれない。しかしながら、近隣住民等が危険にさらされている状況下において、情報の透明性よりも、官に対する事業者としての体面を重視していたことが明らかになった。
 
5.4 規制当局の組織的問題
 
  わが国の規制当局には、国民の健康と安全を最優先に考え、原子力の安全に対する監督・統治を確固たるものにする組織的な風土も文化も欠落していた。わが国の原子力行政にはどのような構造的欠陥があったのか、組織、法制、人材などの面にわたって徹底して解明を行い、反省点を見いだし、教訓をくみ取った上で将来に向けて抜本的な改革を図ることが必要であり、それこそが失われた国民の信頼回復にとり重要と考えられる。
 
  このためには、第一に、原子力安全が設備・施設の安全にとどまらず、住民・国民の安全にあることを前提に全ての規制の仕組みを再構築すること、第二に新しい規制組織の立ち上げに当たっては高い独立性、透明化を進めること、そして、専門的能力を有し職務に責任を持った人材を採用・育成し、事業者に対する監視能力を強化すること、第三に、事業者と規制当局との間の「虜」の関係を抜本的に変え、国際安全基準に沿いわが国の安全規制体制を継続的に向上させていくという「開かれた体制」に向けた思い切った舵の切り替えを行うこと、第四に緊急時の迅速な情報共有、意思決定、司令塔機能の発揮に向けた効果的な一元化を図る必要がある。
 
 6部 法整備の必要性
 
  第6部では、本事故の検証を踏まえ、法整備の必要性について検討する。さらに、将来にわたってあるべき原子力法規制の策定、実施が担保されるために必要な体制の整備についても検討する。
 
6.1 原子力法規制の抜本的見直しの必要性
 
本事故では、原子力法規制を抜本的に見直す必要があることが明らかとなった。日本の原子力法規制は、本来であれば、日本のみならず諸外国の事故に基づく教訓、世界における関連法規・安全基準の動向や最新の技術的知見等が検討され、これらを適切に反映した改定が行われるべきであった。しかし、その改定においては、実際に発生した事故のみを踏まえて、対症療法的、パッチワーク的対応が重ねられてきた。その結果、予測可能なリスクであっても過去に顕在化していなければ対策が講じられず、常に想定外のリスクにさらされることとなった。また、諸外国における事故や安全への取り組み等を真摯に受け止めて法規制を見直す姿勢にも欠けており、日本の原子力法規制は、安全を志向する諸外国の法規制に遅れた陳腐化したものとなった。
 
  まず、規制当局に対して、法律上、内外の事故に基づく教訓と最新の技術的知見等を反映する法体系を不断かつ迅速に整備し、これを継続的に実行する義務を課し、その履行を監視する仕組みを構築する必要がある。また、改定された新しいルールを、既設の原子炉に遡及適用(バックフィット)することを原則とし、それがルール改定の抑制といった本末転倒な事態につながらないように、廃炉すべき場合と次善の策が許される場合との線引きを明確にすることが必要である。
 
   さらに、諸外国で取り入れられている原子力の安全に関する考え方を反映すべく、原子力法規制の全体を通じて、原子力施設の安全確保に対する第一義的な責任は事業者にあることが明確化されるべきである。また、事業者がかかる責任を果たすことができるよう、原子力災害対策特別措置法(原災法)上、事故対応において、事業者とそれ以外の事故対応に当たる当事者との役割分担を明確にすることが重要である。そして、原子力の世界において、施設の安全確保のために最も重要な概念とされる深層防護(Defence in Depth)が原子力法規制上十分に確保されることが望ましい。
 
  上記に加え、日本の原子力法規制は、原子力利用の促進が第一義的な目的とされてきたが、国民の生命、身体の安全を第一とする、一元的な法体系へと再構築することが必要である。また、原災法は、複合災害を想定し、災害対策基本法から独立した一群の法規制として再構築される必要がある。なお、再構築にあたっては、最新の技術的知見等の重要性から、これを踏まえた検討が行われるべきである。
 

 
8 INES(International Nuclear Event Scale)とは、国際原子力機関(IAEA)が策定した原子力事故及び故障の評価尺度。
9 なお第 2部では、中央制御室のことを中央操作室又は中操ということもある。
10 福島第一原発ヒアリング(平成 24〈2012〉年3 月30日)


付録1 略語表・用語解説













  今回の事故調査において抽出されたさまざまな問題の多くについては、個々の処理の進捗と実施の状況を国会が継続監視すべきである。以下には、その中でも特に重要と思われるものを例として挙げる。これらが未解決事項の全てでないことは言うまでもない。



1. 安全目標の策定

  安全目標は、国民の健康と安全を守る観点から、定性的かつ定量的に策定すべきである。
個々の原子力施設に対しては、かかる安全目標への適合性が示されなければならない。
かかる安全目標の策定とは別に、原子炉事故が現実に発生し得るものであることを前提に、避難や緊急時モニタリングをはじめとした防災計画及び事故に伴う被害に対する適正な補償制度を含む充実した深層防護を確立する。

2. 指針類の抜本的見直し

  今回の事故により、原子力安全を担保しているはずの立地、設計、安全評価に関する審査指針など(以下「指針類」という)が不完全で、実効的でなかったことが明らかになった。現行の関係法令との関連性も含め、指針類の体系、決定手続き、その後の運用を適正化するために、これらを直ちに抜本的に見直す必要がある。
  指針類は、新たな技術的知見を踏まえて適宜改訂し、かつそのような技術的知見がない場合においても定期的に見直しを行うものとし、必要なバックフィットを適用することにより、安全目標への持続的な適合を図る。

3.
 バックチェックの完遂と評価結果の公開
 
 全ての原子力施設の全ての安全上重要な建物・構築物、機器・配管系(以下「施設」という)に関する耐震・耐津波バックチェックについて、事業者における最新の進捗状況の詳細を速やかに公開させ、原子力規制機関においては、その実施内容を厳正に評価し、その評価結果を公開するとともに必要な対策を取らせることが必要である。
そのようなバックチェックに当たっては、ほかの自然現象(過酷な気象現象、地盤災害、火山噴火など)はもちろんのこと、あらゆる内部要因と外部要因についても考慮すべきである。

4. 過酷事故対策の先取的取り組み
 
 今後の過酷事故対策では、地震、津波、強風、地滑り、火山の噴火等の自然現象、火災、内部溢水、デジタルコンピュータの共通起因事象による故障、さらには、テロ攻撃を含めたあらゆる内部、外部、作為的事象に対し、これまでのような対症療法的(リアクティブ)ではない、先取的(プロアクティブ)な対応が必要である。
原子力規制機関においては、事業者のそのような取り組みが可及的速やかになされるよう早急に指針類を整備し、監視する必要がある。

5. 複数ユニットの原子力発電所における運転体制の改善

  複数ユニットのある全原子力発電所において、同時多発した過酷事故を想定した対応手順書を速やかに整備する必要がある。複数ユニットにより運転されている原子力発電所では、緊急時に実務を統率することは容易ではなく、特に炉型が異なる場合にはその難度が増すため、発電所ごとに模擬訓練を反復し、それぞれにとっての最善の方法を見いだしていく必要がある。 
 
6. クリフエッジ効果のある事象に対する特別な配慮
  発生頻度は低いが一度起きると甚大な被害を及ぼす可能性のある「クリフエッジ」効果のある事象に関しては、その設計基準の定め方について、特に慎重な配慮が必要である。そのようなクリフエッジ効果のある現象としては津波が代表的ではあるが、そのほものがないか、慎重な洗い出しと検討を行う。

7. 地震の誘発事象に対する評価と対策

   地震は、原子力施設に地震動、断層変位、地殻変動(地盤の隆起・沈降)、津波という一次的な脅威を及ぼすほかにも、施設内及び施設外にさまざまな二次的影響を与える。例えば、原子力施設内の土木構造物や電気設備などの地震被災、タービンミサイル、原子力施設外の送電系統やダムの地震被災による外部電源喪失、洪水の発生等、考えられる限りの誘発事象を評価して対策を講ずる。

8. 事故解析ツール、モニタリング設備の整備

  各原子力発電所において、各ユニットの過酷事故進展に対しリアルタイムで更新できる予想解析ツールと、そのような解析ツールの活用に精通した専門家を配備する。そのような解析は、原子炉及び使用済み燃料プールにおける事故に対応できるものとする。放射能の飛散状況を予測し、被災拡大を抑制するための解析ツール及びモニタリング設備(環境放射線モニタリング並びに作業者や住民のための身体汚染、外部被ばく及び内部被ばくを測定するための設備)を整備する。
モニタリング設備の整備においては、機種の多様性、設置場所の分散化、情報処理の高速化などを考慮する。

9. 通信手段の強化
 
 災害時連絡回線として、多様な通信回線(衛星通信システム・市町村防災行政無線・J-ALERT)間の相互乗り入れ・共有が必要である。また、緊急時対策本部や事業者とのテレビ会議システムを早期に設置することも有効である。これら通信手段の確保に当たっては、地震対策の徹底にも配慮しつつ十分な防災対策を行い、プラント・事業者本社・オフサイトセンター・緊急時対策本部・被災自治体間での現状把握や情報伝達の手段を確保することが必要である。
中断による影響が大きい、地震・津波の被災者等の救助活動などにあっては、多くの場合、避難指示の発令後も活動が継続されることから、放射線被ばくの危険が増大したときなどの退避命令などの伝達手段として、通信障害発生の恐れの少ない通信手段の確保が重要である。

10. 避難区域の設定

  原子力事故発災時の避難の実効性を確保する観点から、避難経路などを含め、避難区域の見直しがなされる必要がある。一定範囲の半径に複数の原子力発電所が存在する地域に居住する住民は、より高いリスクの下に置かれていることになる。このような複数のユニットが集中して設置されている原子力発電所においては、より保守的な安全目標が設定され、避難区域なども見直される必要がある。
具体的には予防的防護措置を準備する区域(PAZ)や20km圏、30km圏の避難区域を設定し、これらを防災訓練に組み込み、住民に周知徹底することが必要である。

11. 自力避難困難者の避難支援の整備
 
 政府においては、避難区域になり得る地域に病院や介護施設が存在することを前提とし、原発立地自治体と連携して、地域防災計画やマニュアルの見直し、訓練、通信手段の整備、事故時に備えた自治体間の連携体制の整備などの緊急時避難体制を構築することが必要である。
20km圏以内に位置する病院が緊急時の患者受け入れ先やそこまでの搬送手段を確保できるよう政府及び自治体は支援体制を整える。

12. 生活圏回復のためのアクションプランの構築・遂行
 
 住民の生活圏回復という視点から、森林、河川・湖沼、農地、市街地などに場合分けした環境放射線モニタリングの結果を基礎として規制基準を設定し、これに基づいて除染などの個別具体的な対策を含むアクションプランを構築し、長期的に遂行することが必要である。

13. ヨウ素剤服用体制の整備

  適切な時間内にヨウ素剤の服用ができるように備蓄や事前配布を行うほか、連絡網、通信網を整備し、事故の状況に応じてヨウ素剤の服用指示が対象住民に適切に届くように準備、訓練を行うなど、緊急時の不手際が発生しないような体制を構築する。

14. 免震重要棟の整備
 
 今回の事故を超える過酷事故を想定し、免震重要棟の電源、正圧環境、緊急時(最悪時)にも対応できる体制、ホール・ボディ・カウンター、放射線分析機能、エアラインマスクの清浄設備等について十分な対策を取る必要がある。

15. 福島第一原子力発電所事故の未解明問題のフォローアップ
 
 未解明の部分の事故原因、今もなお続いている事故の収束プロセスの監視について、今後、第三者調査機関による継続した調査検証が必要である。これらの検証は、格納容器又は原子炉建屋内にあるために今後長期間検証できない問題を除いて、早期に行うべきである。併せて、1号機から4号機までの建物と原子炉の耐震安全性評価を行う必要がある。
以下は、未解明問題として、早期に検証すべき事項の例である。

 1)溶融物による侵食が、原子炉建屋の人工岩盤の深くにまでさらに進行した場合、既発生の状況を劇的に上回る規模で、放射性物質が外部環境に放出される可能性はあるのか。侵食が人工岩盤を貫通した場合にはどうか。
 2)原子炉圧力容器を直接支持している鋼製のスカートについては、今般の原子炉事故の進展によってどの程度劣化しているものと推定されるのか。高温のため座屈した可能性などはあるのか。
 3)原子炉圧力容器を支えるコンクリート部材は、どの程度劣化しているものと推定されるのか。現在は問題なくても将来はどうなのか。
 4)ペデスタルのコンクリートはどの程度劣化しているのか。コンクリートが崩れて、鉄筋が座屈してしまうことはないのか。原子炉圧力容器・生体遮へい間のスタビライザの支持能力は低下していないのか。生体遮へい・格納容器間のスタビライザの支持能力は低下していないのか。
 5)水素爆発の原因について、「第4の壁」である格納容器から、「第5の壁」である原子炉建屋への水素の漏えい経路がどこであったのか。このような漏えいが今後起きないための対策は何か。
 6)福島第一原子力発電所4号機においては、使用済み燃料プールに貯蔵されていた使用済み燃料の損傷とそれに伴う影響が懸念されていたと後日報じられている。それは、具体的にはどのような懸念についてであったのか。
 
16. 既設プラントに対する安全性向上のための検討

1)原子力発電所とサイバーセキュリティ
原子力発電所の稼働がコンピュータウイルスにより妨害されるサイバーテロは、海外で既に発生している(2003年の米国デービス・ベッセ原子力発電所、2010年のイランのブシェール原子力発電所など)。ウイルスは制御システムを狙い、原発のみならず、電力・ガス・水道や交通機関等の重要社会インフラをも停止させる威力を持っており、各国も警戒を高め、対策を講じている。NRC(米国原子力規制委員会)は2001年から本格的に取り組み始め、2009年に全原子炉に対しサイバーセキュリティに関する義務化を行い、さらに2010年にはガイドラインを発表している。IAEAも2011年に核施設におけるコンピュータセキュリティに関するガイドラインを発表し、メンバー諸国にも積極的に対策と訓練を行うように促している。日本国内の原子力発電所におけるサイバーセキュリティも世界と同レベルで万全の対策を取っていくことが必要である。
 2)「B.5.b項」の実施とシビアアクシデント対策の構築
「9-11対策」として2002年2月25日付のNRCからの命令書の「B.5.b項」で要求された内部事象に対する対策、外部事象に対する対策、テロ攻撃に対する対策にはシビアアクシデント対策との緊密な共通性が存在している。日本における原子力安全の取り組みにおいても、このような認識に基づくシビアアクシデント対策の構築が将来の不測の事態において役に立つ。事業者における最新のシビアアクシデント対策の詳細を直ちに公開、実施させ、原子力規制機関においてはその実施を厳正に評価し、その詳細を公開することが必要である。以下は、構築すべきと考えられるシビアアクシデント対策の例である。
 
 1)設計思想の統一化
  • 所外電源と所内非常用電源の優先順位
  • 非常用電源母線のクロスタイ
  • 代替低圧注水系統の仕様(ポンプの最低吐出圧力、最低流量)
2)分散化させた重要バックアップ直流電源の追加
3)高圧注水機能の追加
4)圧力抑制室プール水に対する専用ヒートシンクの追加
5)内部溢水対策
6)中央制御室と同室内電子機器類のためのバックアップ空調設備
7)遠隔停止操作パネルからの主要パラメータ読み取り用バックアップ電源の追加
8)テロ攻撃への防衛

付録3 委員会の概要
 
国会事故調査委員会・タウンミーティング
 
国会事故調(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会)では、情報公開を徹底するため、開催された19回の委員会、及び3回のタウンミーティングを全て公開で行った。委員会では、合計38 人の参考人を呼び、また、タウンミーティングでは合計400人超の被災された方にご参加いただき、生の声をお聞かせいただいた。福島第一原子力発電所訪問ののち福島市で行った第1回を除き、全てが日本語及び英語で動画配信されている。その模様は、国会事故調のホームページで視聴可能となっている。
 
1回委員会 平成231219日(福島ビューホテル)
  委員会運営/福島の事故後の現状
 
2回委員会 平成24116日(憲政記念館)
  事故調査説明聴取/政府事故調、東電調査、文科省検証
  参考人: 畑村 洋太郎氏(政府事故調委員長)/山崎 雅男氏(東京電力副社長)/渡辺 格氏(文部科学省科学技術・学術政策局次長)
 
3回委員会 平成24130日(市民プラザかぞ)
  参考人:井戸川 克隆氏(双葉町長)双葉町の方々とのタウンミーティング
 
4回委員会 平成24215日(衆議院第16委員室)
  参考人:班目 春樹氏(原子力安全委員長)/寺坂 信昭氏(前原子力安全・保安院長)
 
5回委員会 平成24227日(参議院議員会館内講堂)
  参考人:リチャード・A・メザーブ博士(元米国原子力規制委員長)
 
6回委員会 平成24314日(参議院議員会館内講堂)
  参考人:武藤 栄氏(前東京電力副社長)
 
7回委員会 平成24319日(参議院議員会館内講堂)
  参考人:ヴォロディミール・ホローシャ氏(チェルノブイリ立入禁止区域管理庁長官)他
 
8回委員会 平成24328日(参議院議員会館内講堂)
  参考人:武黒 一郎氏(東京電力フェロー)/広瀬 研吉氏(内閣府参与)
 
9回委員会 平成24418日(参議院議員会館内講堂)
  参考人:深野 弘行氏(保安院長)
 
10回委員会 平成24421日(二本松市民会館)
  参考人:馬場 有氏(浪江町長)他 浪江町の方々とのタウンミーティング
 
11回委員会 平成24422日(会津大学講堂)
  参考人:渡辺 利綱氏(大熊町長)他 大熊町の方々とのタウンミーティング
 
12回委員会 平成24514日(参議院議員会館内講堂)
  参考人:勝俣 恒久氏(東京電力会長)
 
13回委員会 平成24516日(衆議院第16委員室)
  参考人:松永 和夫氏(前経済産業省事務次官)

14回委員会 平成24517日(参議院議員会館内講堂)
  参考人:海江田 万里氏(元経済産業大臣)調査報告/論点整理(1回目)
 
15回委員会 平成24527日(参議院議員会館内講堂)
  参考人:枝野 幸男氏(前内閣官房長官)

16回委員会 平成24528日(参議院議員会館内講堂)
  参考人:菅 直人氏(前内閣総理大臣)

17回委員会 平成24529日(福島テルサ)
  参考人:佐藤 雄平氏(福島県知事)

18回委員会 平成2468日(参議院議員会館内講堂)
  参考人:清水 正孝氏(前東京電力社長)
 
19回委員会 平成2469日(参議院議員会館内講堂)
  調査報告/アンケート/論点整理(2回目)
 
 
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