2014年4月28日月曜日

新たなバイオエタノール燃料の普及可能性について

新たなバイオエタノール燃料の普及可能性について

https://www.pref.aichi.jp/ricchitsusho/gaikoku/report_letter/report/h24/sf02.pdf

平成24年2月10日

サンフランシスコ産業情報センター
駐在員 佐藤 賢児

本年1月19 日に、カリフォルニア州のベンチャー企業「バイオ・アーキテクチャ・ラボ
(Bio Architecture Lab)以下「BAL」」が、バイオエタノールの生産技術に関する研究結果を
発表し、大きな話題となりました。

バイオエタノールの原料と言うと、一般的にはトウモロコシやサトウキビなどがよく知られ
ていますが、BAL は、昆布やワカメなどの海藻類から糖を抽出し、バイオエタノールを生成
することに成功しました。先月、同社の研究結果について聞き取りを行いましたので報告し
ます。

【バイオ・アーキテクチャ・ラボ(BAL)の概要】
今回、BAL の創業者の一人で、最高科学責任者の吉国靖雄博士に話を伺いました。
同社は、2008 年に設立されたばかりの新興企業で、本社はカリフォルニア州バークレ
ー市にあり、また、南米チリのほぼ中央に位置するプエルトモント市にも事務所があ
ります。
現在、BAL 全体で約50 名の従業員がいますが、研究チームの中心メンバーには、
吉国博士の他にも米国内外の大手エネルギー企業や経営コンサルティング企業で、バ
イオ・テクノロジー分野に関する経験を積んだ研究者が、同社の所有する微生物工学
や海藻類の養殖、発酵/化学合成分野における特許をもとに、海藻類から再生可能燃料
と化学製品の原料を生産する研究・開発を行っています。

【海藻類からバイオエタノールの抽出に成功】
BAL の研究結果が大きな注目を集めた理由は、
同社の研究チームが、昆布やワカメなどの海藻類
に含まれるゼリー状の多糖類(アルギン酸)を、
バイオエタノールに変換する独自技術の開発に成
功したためです。

この研究結果は、1 月20 日付けの米国の科学誌
「サイエンス」の表紙を飾り、また、特集記事も
掲載されると共に、日米の新聞各紙もニュースと
して取り上げ大きな反響を呼びました。
吉国博士によると、海藻類からバイオエタノー


バイオ燃料の原料となる海藻
(ジャイアントケルプ)BAL 提供

ルを抽出する研究は、1960 年代頃から既に進められていましたが、海藻類に含まれる
多糖類(アルギン酸)の分解が技術的に難しく、今日まで効率的な利用方法が確立さ
れていなかったそうです。

BAL は、遺伝子操作した微生物を用いて、海藻類に含まれるアルギン酸という糖を
抽出し、これを化学物質やバイオ燃料に変換する“モジュール”のようなものを製造
することに成功し、現在、その独自技術の特許を既に16 カ国で60 以上申請中だそう
です。

BAL によると、バイオ燃料としての海藻類の特長としては、
○海藻には約60%の発酵性の糖類が含まれている。
○トウモロコシやサトウキビなどの従来のバイオ燃料と異なり、海藻類を生産する
ための耕作地や水分補給も不要である。
○環境にやさしく、海洋汚染を減少することもできる。
○食用の海藻とは異なり、傷が付いても構わず、密集した環境で養殖することがで
きるため、生産性も高く養殖自体の手間も小さい。
○1 年に2 回収穫することができる。

などが挙げられ、現在の植物由来のトウモロコシやサトウキビなどよりも、低コスト
で栽培し易い新たなバイオ燃料として期待されています。

BAL の独自開発によるモジュールによって、海藻類から抽出したアルギン酸を“再
生可能な中間物“に変換した後は、まず、化学合成処理を行うと、化学製品(シャン
プーなどに含まれる活面活性剤や、ペットボトルの原材料であるポリエチレンテレフ
タレート(PET)などの代替品)や、人間やペット向けの栄養補助商品などの原料に
なり、また、発酵処理を経ると、自動車向けのバイオエタノール燃料を製造すること
も可能です。

今回のような研究結果を発表するまで、BAL は、前述の独自技術(モジュール)の
研究開発を精力的に進めていましたが、現在チリにおいて、採取した海藻類からバイ

BAL のウェブサイトより

オエタノールを生成する工場を本年7 月の竣工に向けて建設中です。この工場の完成
により、チリ政府と共同で、海藻の収穫から乾燥、糖の発酵・抽出作業を経て市場に
出荷するまでの一連のサプライチェーンに乗せた実証実験を計画しており、本格的な
事業の実用化に向けた準備も着々と進行しています。

吉国博士によると、チリは、地形が南北に細長く沿岸部が長いというその地形の特
性上、海洋養殖業に適した国であり、また、石油やガスなどのエネルギー資源の輸入
依存度が高く、多角的にエネルギー源を確保したいという国情もあることから、チリ
政府もBAL と積極的に実証実験に取り組んでいるそうです。

その他にも、BAL は、ノルウェーの大手エネルギー企業のスタトイル(Statoil)や
米国の大手化学メーカーのデュポン(DuPont)、英国の大手エネルギー企業のBP と
デュポンとの合弁企業でバイオブタノールを生産するブタマックス(Butamax)、チ
リの政府系機関CORFO など、世界各国の大手エネルギー企業や関係機関などとも提
携し、海藻類からのバイオエタノール製造の実用化に向けた更なる研究開発を進めて
おり、今後のBAL の開発動向も注目を集めそうです。

一方、日本の自動車業界においても独自でバイオ燃料の開発に取り組む動きが見ら
れます。例えば、株式会社デンソーは、藻類からバイオ燃料を抽出し、将来的に自動
車用の燃料への実用化を目指した開発を進めており、また、昨年10 月にはトヨタ自
動車株式会社が、遺伝子組換え技術により、「セルロースエタノール(植物の茎などの
非食料を原料とするバイオ燃料)」の製造の発酵工程において、重要な役割を担う酵母
菌の開発状況について発表するなど、様々な原料を由来とするバイオ燃料の研究・開
発が進められています。

現在、プラグイン・ハイブリッドカーや電気自動車など次世代自動車の開発が盛んに
行われていますが、エネルギーの多様化の促進やCO2 排出量の低減という点におい
ても有効なこれらの新たなバイオ燃料の開発動向にも、今後も注目していきたいと思
います。


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