2014年4月16日水曜日

EUにおける環境対応と地域での取り組み: EUにおける環境対応・バイオマスエネルギー政策

12《研究レポート》EUにおける環境対応と地域での取り組み JA 総研レポート/ 2008 /冬/第4号

1. はじめに
 JA総合研究所では、統合前の旧地域社会計画センター時代から継続実施してき
た「欧州地域社会開発研修」(第32 回)を実施した。2007 年10 月1~ 12 日にかけて、
JAグループ関係者21 人の参加を得て、欧州5カ国を訪問した。

 今回の研修テーマの1つである環境問題への対応においては最近話題となってい
るバイオマスエネルギーの取り組みについて視察する機会を得た。視察できた国は、
訪問順に、スウェーデン、ハンガリー、ドイツであり、スウェーデン、ドイツはこ
の分野の取り組みではEUをリードする国である。

 わが国においても、「バイオマス・ニッポン総合戦略」が、2002 年12 月27 日に
閣議決定されて以来、2005 年2月における「京都議定書」の発効および同年4月の「京
都議定書目標計画」の閣議決定、さらに2006 年3月には「新バイオマス・ニッポン
総合戦略」が閣議決定された。こうしたなかで、バイオマス燃料導入の重要性が明
確化され、国産バイオマス燃料の利用促進について関係省庁間連携のもと、実用化
に向けた各種取り組み等が進められている。

 JAグループ等においても、現在、各地でバイオマス燃料の生産に向けた試みが
行われ始めている。今回の視察を通して得られた情報が少しでも参考となればと考
えている。

 そこで本稿では、①EU全体としての環境対応やバイオマスエネルギー政策への
取り組みの経緯について、②スウェーデン、ハンガリー、ドイツにおけるバイオマ
スエネルギー政策(概要)と視察先(施設等)での取り組み状況等について概略を
報告する。


2. EUにおける環境対応・バイオマスエネルギー政策

(1)背景
 EUでは、1970 年代から環境政策の主要な優先事項・目的を「環境行動計画」と
して策定し、これまで5次にわたり取り組んできた。現在、第6次環境行動計画(2002
年7月から2012 年までの10 年間)に基づいて、4つの優先分野、7つの戦略テー
マを策定し、取り組んでいる。このなかの優先事項として「気候変動」を挙げており、
地球温暖化防止との関係で、大気中の温室効果ガスの削減に向けた長期的な取り組
みが重視されている。
(2)京都議定書
 また、EUでは、「京都議定書」のもとCO2の排出を2008 年~ 2012 年の間に、
1990 年水準比8%削減することが求められているが、この目標達成のための1つの
手段として、EU全域を対象とした温室効果ガスの「多国間排出権取引制度(EU
-ETS)」を2005 年1月1日から世界で初めて稼動させている。
(3)バイオマスエネルギー政策の動向
 EUでは、温室効果ガス排出量の多くが運輸を含むエネルギーの生産・消費によっ
て発生しているとの基本認識のもとこれまでに以下のような対策が取られてきた。
・1997 年:アムステルダム条約で持続可能な発展を追求することがEUの目標とし
EUにおける環境対応と地域での取り組み
(社)JA総合研究所主任研究員赤川茂(あかがわしげる)
研究レポート 地域研究部
JA 総研レポート/ 2008 /冬/第4号 《研究レポート》EUにおける環境対応と地域での取り組み 13
て規定され、翌年公表された「再生可能エネルギー白書」では、再生可能エネルギー
比率を1996 年の6%弱から2010 年には12%とする目標が立てられた。
・2000 年:「運輸部門でのバイオ燃料あるいは他の再生可能燃料の利用を促進する欧州
議会・理事会指令」により、加盟国が国内市場で販売される自動車燃料に占めるバイ
オ燃料の割合を2005 年末に2%、2010 年末までに5.75%とする目標が定められた。
・2001 年:「再生可能エネルギー促進のためのEU指針」で電力で使用する再生可能エ
ネルギーの割合を13.9%(1997 年)から22%(2010 年)に増加させる目標が定められた。
・2004 年1月:「エネルギー税共通枠組み指令」が発効。
 これにより、最低税率の規定対象を石炭、天然ガス、電力に拡大する一方、石油
製品に対する最低税率を引き上げることで、エネルギー価格を上昇させ、エネルギー
利用の効率化と再生可能エネルギー活用を促進させることになった。それは、同指
令で従来の自動車燃料についてのEUの最低税額が引き上げられたが、再生可能エ
ネルギーの利用では課税の減免が認められたからである。
・2005 年12 月:「バイオマス分野での行動計画」を発表し、2010 年までのバイオマ
スエネルギーの利用拡大を打ち出した。
・2006 年2月:「バイオ燃料のためのEU戦略」を発表し、農産物からのバイオ燃料
の生産奨励に乗り出した。同戦略では、3つの目標が掲げられ、①EUと発展途上
国におけるバイオ燃料の普及、②コスト競争力をつけ次世代燃料としての研究を促
進し、バイオ燃料利用を加速する、③バイオ燃料生産を発展途上国に根付かせ持続
可能な経済発展に寄与する、と同時にバイオ燃料が及ぼす便益にも説明が及んでい
る(石油資源への依存回避、温室効果ガスの排出抑制、EU・発展途上国の農業従
事者への新たな市場機会の付与等)。
・2006 年6月:「欧州連合におけるバイオ燃料── 2030 年以降に向けてのビジョン」
により、2030 年までに道路運輸部門の燃料需要量の4分の1相当をバイオ燃料で賄
うという長期目標を立てた。このなかで示されたロードマップで、「第1世代(従来
型)バイオ燃料」から「第2世代(次世代)バイオ燃料」への移行が示され、主に
リグノセルロース系バイオマスを原料とする等、より幅広い原料から生成され、土
地と食料との競合を減らすことが期待された。
・2007 年3月:EUサミットでは、2020 年には再生可能エネルギーを少なくとも
20%利用すること(バイオ燃料使用は10%を義務付けることを目標)に合意した。
〈資料:日本機械工業連合会『EUの環境と産業』(平成17 年度版)参照。〉
(4)バイオマスエネルギーの生産動向
 こうした政策展開のなかで、EUのバイオマスエネルギー生産量は、表1のとおり、
2003 年から2006 年にかけて大きく増加している。特にバイオエタノール・バイオ
ディーゼルのバイオ燃料は、この間3.6 倍と大きな増加を示している。シェアが大
きいのは
木質エネ
ルギー等
であり、
2005 年に
は88.4 %
(2003 年
比11.8 %
増) を占
めている。
国別にEU内での順位をみると、木質エネルギー生産量が多いのは、スウェーデン、
ドイツである。バイオガス生産はドイツ、バイオディーゼル・バイオエタノールは
※バイオ燃料:バイオエタノール・バイオディーゼルの計。
(資料)出所「NEDO海外レポート」(No.1007)
【表1】EUのバイオマスエネルギー生産量推移(単位:Mtoe(石油換算百万t)
固形バイオマス
(木質エネルギー)
バイオガス
バイオ燃料※
バイオマスエネルギー計
52,488
3,912
1,514
57,914
55,587
4,277
1,933
61,797
58,678
4,708
2,992
66,378

5,347
5,376

2003年2004年2005年2006年
14《研究レポート》EUにおける環境対応と地域での取り組み JA 総研レポート/ 2008 /冬/第4号
ドイツ、スウェーデンが多い。なお、ハンガリーは木質エネルギー生産量の増加率
ではEU内で2番目となっている(表2参照)。
3. スウェーデン
 スウェーデンはEU内でも環境対応では先進的な国である。視察先として、ス
ウェーデン農業省を訪問した。同省の担当官より、スウェーデンの農業政策の現状
と課題、農業政策における環境問題の位置付けとバイオマス燃料政策についてヒア
リングを行った。以下、同国の環境対応とバイオマス燃料政策について概要を記す。
(1) 環境政策
 スウェーデンの農村振興計画(2007 ~ 2013 年)は、EUの承認を受けて、7年
間で350 億クローナ(約7000 億円)の予算を組んでいる。EUとスウェーデンで
半々で補助を行うものであるが、同金額はスウェーデン負担額である。この計画は、
環境と再生可能な農業を目指しており、地域住民の参加も視野に入れたものであり、
次の4つの項目からなる。
 ① 収益追求的な農業、林業
 ② 環境・地方の保全
 ③ 生活の質の改善・多様性
 ④ 地域のリーダー
 予算配分は、① 14%、② 69%、③8%、④7%であり、やはりスウェ-デンでは
環境保全への取り組みはこれまでも伝統的に行ってきているため、予算配分も多く、
国家としての重点課題である。また国民の環境問題に対する関心も高く、意見聴取・
公開討論会などを経て、国民の要望による効果的な規制が設けられているといった、
国民主導型の環境政策が採られており、エネルギーの獲得・消費よりも環境の持続
可能性が優先される仕組みとなっている。
 さらに、スウェーデンでは2050 年を見据えて「環境政策目標16」(1999 年)を
掲げて、それぞれ達成期限を定め、冊子(カラー図入り)を配布するなど国民に周
知させており、達成状況については国民に報告されている(以下16 項目)。
 ① 人間にとって安全な範囲内の気候変動
 ② 清浄な大気
 ③ 自然界レベルの大地や水源の酸性化
 ④ 毒物のない環境
 ⑤ 紫外線の影響を抑える能力を持つオゾン層
 ⑥ 安全な放射能被爆環境
 ⑦ 富栄養化の解消
 ⑧ 多様性豊かな湖と河川
 ⑨ 良質な地下水
 ⑩ バランスのとれた海洋環境、多様性豊かな海浜と群島
 ⑪ 生態系が豊かな湿地帯
※( )の数値はEU内の順位。
(資料)出所「NEDO海外レポート」(No.1007)
【表2】訪問国のバイオマスエネルギー生産(2005年)
スウェーデン
ハンガリー
ドイツ
EU合計
7.937(2)
1.112(13)
7.861(3)
58.678
29.8(15)
7.1(16)
1,594.4(1)
4,707.6
8,366(9)
0(-)
1,548.000(1)
2,245.093
144.509(2)
2.406(8)
144.640(1)
557.288
木質エネルギー
(単位:Mtoe)
バイオガス
(単位:ktoe)
バイオディーゼル
(単位:toe)
バイオエタノール
(単位:toe)
[写真]
スウェーデン農業省での
レクチャー。
JA 総研レポート/ 2008 /冬/第4号 《研究レポート》EUにおける環境対応と地域での取り組み 15
 ⑫ 多様性豊かな森林
 ⑬ 生産力・生物的多様性・文化的多様性豊かな農耕地
 ⑭ 雄大な山岳環境
 ⑮ 人の健康と環境を守る都市計画
 ⑯ 動植物が豊かな生態系
 (注)⑯は2006 年に追加。
(2) バイオマス燃料政策
 スウェーデンでは、現在、再生可能エネルギー(特にバイオ燃料)に関する長期
戦略を立てている。将来におけるスウェーデン社会は、バイオマス資源をより多く
需要する社会となることを予測の大前提としている。特に、農業・森林分野では2
つの新しい役割が期待される。1つ目は、産業としての再生可能な資源を生産する
ことであり、2つ目にはCO 2 削減にとって大変重要な役割を果たすことである。従っ
て、エネルギー、農業、バイオテクノロジー、森林、廃棄物等の分野では、バイオ
マス資源の生産増加について特に関心が高まっている。
 スウェーデンのバイオマス資源で最も多いのは、国土の約60%を占めている森林
である。農作物からのバイオマス生産は限りがあるが、将来、森林バイオマス資源
を利用したエネルギーへの貢献はさらに重要になる可能性がある。
 今日、バイオマスエネルギー利用のために生産されている主な作物は、“サリク”(ヤ
ナギ)注)であり、他に、藁、穀物、麻、クサ葦(イネ科)等である。
 2006 年には、穀物原料のエタノール生産量は、年間6万m 3(必要量の20%)、
5万台のエタノール車(エタノール含有率85%のガソリンE85を燃料として使用
できる)分を賄える量である。また、RME(ナタネ油メチルエステル)は、年間
4万5000 m 3 生産されている。今後、次世代バイオ燃料として、セルロースからの
エタノール生産、バイオガス化への期待が高い。
 次に、スウェーデンの税制についてである。首都のストックホルムでは渋滞税(乗
入税)が導入されているが、環境にやさしい車(ハイブリット車、エタノール車等)
や公共車には免除されている。また、特にCO 2 排出量が多い運輸部門からのCO 2
削減のために、ガソリンに二酸化炭素税(CO 2 税)とエネルギー税がかけられている。
そのため、ガソリン価格が高く設定されており、政府の補助金が投入されているエ
タノール(E85)価格の方が安く設定されている。
 このように、スウェーデンでは自国のバイオマス資源の強みを生かして、環境問
題への取り組みを進めているが、そのなかでも農林業の果たす役割をしっかり自国
の戦略で長期的な視点から位置付けて、しかもEUの農業・環境政策とも整合性を
とりつつ進めていることがよく理解できた。
   
4. ハンガリー
 ハンガリーは、2004 年5
月にEUに加盟した。現在、
2009 年の通貨統合を控えてい
る。同国におけるエネルギー
事情は、平地が多く、大規模
水力発電に適した地域がない
ため、化石燃料が1次エネル
ギー供給の大半を占めている。
以前は国内で生産される石炭
の比率が高かったが、現在は、
原油、天然ガス等ロシアから
注)主に大陸性の気候地
域で生育し、北部ヨーロ
ッパでは広く見られる。
典型的な平原や丘陵地帯
の植物であり、多数の枝
を持つ低木であり、スウ
ェーデンでは短期輪作作
物としてエネルギー源と
して利用されている(N・
EI バッサム『エネルギ
ー作物の事典』より)。
[写真]
ハンガリーの発電施設。
16《研究レポート》EUにおける環境対応と地域での取り組み JA 総研レポート/ 2008 /冬/第4号
の輸入に依存しており、エネルギー自給率は30%台と低い。最近では、国内発電の
主力は原子力発電であり、約4割を占めている。
 視察先は、ブダペスト市郊外センテンドレにあるウッドチップを燃料とした発電
施設(Bioho”-Energetikai)および同施設を管理・運営している「MoD Budapest
Forestry Co.、以下MoD(国防省森林局株式会社)」である。以下、当該施設とハン
ガリーのバイオマスエネルギー政策についての概要を記す。
(1)MoD(国防省森林局株式会社)の概要
 MoD は、ハンガリー国防省が所有・経営する森林10 万ha のうち3 万2000ha を
経営している。MoD の経緯は以下のとおり。
 ・1993 年 社会主義からの体制変革により民営化し国防省森林局株式会社とし
      て新活動分野に進出。
 ・1994 年 加熱発電を開始。
 ・2003 年 木材を利用した発電所を設立。
 ・2004 年 発電と熱供給を併せたコージェネセンター建設、運営。
 MoD の株はハンガリー政府が100%保有、利害代表は国防省。事業内容は普通の
企業と変わらないが、国防省の指令に基づいて運営を行っているので軍隊の利益を
最優先した活動を行っている。主な事業活動は、森林運営(主に森林の整備、戦争・
訓練で被害を受けた森の復活)、木材販売である。民営化後の新たな事業活動は、野
生動物・家畜の出生管理、肉の販売、エネルギー生産(発電)、地域開発、エコツー
リズム等である。木材販売から得られる収入が最も多く、政府からの補助金はない。
エコツーリズムの活動は、地理学による教育用山道整備・植物園・魚が獲れる人口
池の造成・森林学校の経営、観光客のための施設整備等である。
(2)発電施設の概要
 2004 年2メガワットと4メガワットのボイラーを設置。当該敷地内に暮らす3000
人分の熱エネルギーを供給。全システムはコンピューター管理されており、加熱温
度等も自動調整。燃え残った灰は圧縮し自動的に回収している。原料である薪の市
場価格が高くなってきており、木の皮・木材チップを使用してコスト削減を図って
いるが、最近はこれらの価格も高くなってきており、市場価格がある一定の水準を
超えた場合は国防省管理局から森林を調達することでコスト対策を行っている。
 また、加熱発電の原料を化石燃料(石炭・石油)から木材チップに代えたことにより、
二酸化炭素の排出は削減された。付加価値として、一酸化炭素、窒素化合物が発生
しない。
 作業工程は、薪の回収から発電までの工程、発電ラインは2 系列ある。木材使用
量は年間2 万2000 t、ボイラーに供給する薪の品質・数量を一定にして均一な発電
をするため、素材の内訳・種類を厳しく規制している。原料の薪は全国より集績し
ている。建築廃材の利用は将来的には可能で計画もあるが、経費・均一な原料調達
が困難という問題がある。
 発電所では電力の売買をしており、1 単価当たりエネルギーの購入価格は37 フォ
リント(約25 円)、販売価格は23 フォリント(約15 円)である。他のEU 諸国で
の販売価格は22 セント(ハンガリーの約倍の価格)。将来的にはEU 並価格での販
売も検討課題である。
 発電された電力は各地域の電力会社に直接販売する。購入電力は施設運転のため
で、施設を1 時間稼動させるのに必要電力量と発電電力量の比は、1:25 であり利
益が出ている。
 最近は採算が取れるようになり従業員も増員、現在、27 人が勤務している。施設
のオペレーターは全体管理が1 人、発電分配オペレーターが2人、機械設備オペレー
ターが5人。灰はゴミ置場に運んで処理する。農業用肥料、改良材として使用した
JA 総研レポート/ 2008 /冬/第4号 《研究レポート》EUにおける環境対応と地域での取り組み 17
いが農家の購買力がないため利用できていない。木材の調達価格が安いときには、
無料で運搬、分配していたが、高くなったためできなくなった。
 1 年間で機械の点検・整備・部品交換のための休み(定期修理)が1 週間、それ
以外は24 時間稼動。勤務体制は、1 日12 時間のシフト勤務制で朝6 時から夕方6
時までと、夕方6 時から朝6 時までの2 交代である。
 当該施設の建設・運営に当たっては、政府からの補助金は一切出ない。その理由は、
一次エネルギーの大半を輸入しているため石油業界や電力会社等の既得権益を擁護
しようとする業界の影響力が強いためである。
 ハンガリーの木材自給率は50%。薪の1 年間の収穫能力が1000 万~ 1200 万m3で、
その内400 万m3を発電に利用。80 年前と比べると倍増している。
(3)バイオマスエネルギー政策
 ハンガリーのエネルギー消費に占めるバイオマスエネルギー(木質、藁、バイオ
ガス等)の割合は現状では3%だが、近い将来、4 ~ 5%まで増やすことが計画され
ている。現状では、バイオ燃料生産は始まったばかりであるが、今後、バイオエタ
ノール、バイオディーゼルの生産を増やすことへの期待が高まっている。ハンガリー
の穀物生産可能農地450 万ヘクタールのうち80 万ヘクタールの農地はエネルギー生
産向け用地への転換が可能とみられることや、穀物生産が余剰であることが背景に
ある。
 さらに、EU指令「運輸部門でのバイオ燃料あるいは他の再生可能燃料の利用を
促進する欧州議会・理事会指令」(2000 年)では、2010 年までに自動車燃料に占め
るバイオ燃料の割合を5.25%とすることが求められているが、ハンガリーは取り組
みが遅れており、今後取り組みを加速化させる必要に迫られている。現在、政府で
は、バイオマス燃料生産工場・施設投資への支援、電力生産で使用されるバイオマ
ス燃料利用についての消費税廃止等の対策を取り始めているが、1次エネルギーの
大半を輸入に依存しているため、石油業界や電力業界等の影響力が強く、前記のよ
うな木質バイオマスを利用した発電施設や木質系からのバイオ燃料化への技術開発・
投資等に対する政府の支援策には限りがあり、今後の課題も多く残されている。
5. ドイツ
(1)バイオマスエネルギー政策
 EUにおける環境先進国ドイツでは、京都議定書による温室効果ガスの削減目標
は21%であるが、ドイツ政府は温室効果ガスの排出削減に向けた総合戦略において、
2020 年までに1990 年比排出量を40%削減することを決めた。そして、2000 年4月
に施行された「再生可能エネルギー法」を改正し、風力等の自然エネルギーによる
発電割合を2020 年までに現状の13%から25 ~ 30%に引き上げ、家庭暖房において
も新築の家では、15%
の太陽エネルギーある
いは50 % のバイオガ
ス等の化石燃料以外を
使用しなければならな
い、とした。しかも、
京都議定書で決められ
た目標である2012 年
までに温室効果ガスの
21 % 削減(1990 年比)
目標に対して、2005 年
時点では既に18.4%に
[写真]
ドイツのメタンガスに使
われる牛糞。
18《研究レポート》EUにおける環境対応と地域での取り組み JA 総研レポート/ 2008 /冬/第4号
まで実績が積み上がってきている。
 ドイツのバイオマスエネルギー生産は、前掲の表2でみたように、バイオガス、
バイオディーゼル、バイオエタノールにおいてEU内で最大の生産国であり、さら
には風力発電、太陽光発電においても先進的な国である。
 前述の「再生可能エネルギー法」により、電力会社は、企業や個人が再生可能エ
ネルギーで発電する電力を固定価格で購入することが決められたことから、急速に
再生可能エネルギーの生産が進み、2005 年には発電量のほぼ10%を再生可能エネル
ギーが占めるまでになっている。
(2)バイオガス施設
 視察先は、ミュンヘン市郊外にある市営のバイオガス発電施設(カールスホフ発
電施設)である。以下、その概要を記す。
 ミュンヘン市営のカールスホフ農園は400ha の規模で、うち120ha はバイオガス
供給源となる農地(うち60ha 強はトウモロコシ、40ha 強は牧草地)である。他にミュ
ンヘン市所有の農場が11 農場あり合計面積は2300ha となる。
 当農場では、自然エネルギーを積極的に利用している(ソーラーシステム、バイ
オエタノール、家畜糞尿、穀類、牧草等)。
 バイオガス原料として、穀類を作付けしていたが穀物価格の上昇から現在は原
料としての作付けは行っていない(以前は11 ユーロ/100kg、現在は20 ユーロ/
100kg)。
 なお、当農園では、小麦300t、大麦200t、トウモロコシ栽培、600 頭の去勢牛の
飼育を行っている。従業員は市の職員であるが公務員ではない。
 この農園のバイオガス施設は1999 年に造られ、140kw の発電能力(建物600 ㎡
程度の光熱費が賄える能力)がある。今後500kw の能力に増強したいが、それに
はさらに牛600 頭分の糞尿、140ha のトウモロコシ、100ha の牧草(3回採草/ 年)
が必要になる。熱エネルギーだけでなく冷却エネルギーとしても計画している。
 発電機のエンジンはディーゼルエンジンを改良しメタンガス用としたもので、能
力は70kw。通常のエンジンであれば500 ユーロで購入できるが改良したため2000
ユーロかけている。施設の稼働には1日当たり、12t の糞尿、4t のトウモロコシ、
4t の牧草が必要である。
 また、バクテリア活動の最適温度とするため、一次醗酵(30 日間)は加熱し50℃
とし、二次醗酵(30 日間)も加熱し38℃とするが、加熱はメタンガスを利用した熱
交換器で行っている。
 現在、年100kw を発電しているが、外部に売り(16 セント/ kw)必要な電気を
購入している(9セント/ kw)。この差額分が儲けとなる。
 1kw の発電の原価は8 ~ 9 セントだが、施設費(建物、機械の償却費等)を含
めると4000 ユーロ/ kw かかる。
 この施設で発電され
た電気は、自治体(イ
スマミング)に販売し
ているが、30 ~ 40 世
帯分の光熱費を賄って
いる。
 トウモロコシは3分
の1はバイオガス原料、
3分の2は牛のえさで
ある。バイオガスにて
発電後原料の残渣等は、
無臭の液体が残るが液
[写真]
ストックホルム郊外の農地。
JA 総研レポート/ 2008 /冬/第4号 《研究レポート》EUにおける環境対応と地域での取り組み 19
肥として農地に散布している。
 周辺100km 圏内で80 ~ 100 のバイオガス施設があるが、ミュンヘン市内ではこ
の農場だけである。バイオガス施設の安全性については、発電機のエンジンは、費
用をかけて改良し、また醗酵槽内のガスはガス化した時点で即利用し、かつメタン
ガス濃度を54%と低く抑えており、今まで事故はない。
 なお、市で農地を取得し運営している理由は、公共施設の建設、インフラの整備
等民間では簡単に土地を提供することできないが、自治体で所有していればその辺
をスムーズに対処できることと、工事のため農地を提供した農家の代替地としての
役割も持っている。
6. おわりに
(1) わが国のバイオマス燃料政策
 既述のとおり政府は、京都議定書が2005 年4月に発効し、温室効果ガス排出削減
目標を達成するために、バイオマス燃料を輸送用燃料に導入する必要を強く認識し
たため、2006 年3月に「新たなバイオマス・ニッポン総合戦略」を閣議決定した。
そのなかで、バイオマス輸送用燃料の利用促進を加速化させるために、政府が国産
バイオ燃料の生産拡大に向けた工程表を示し、関係省庁連携のもと、稲藁や木材等
のセルロース系原料や耕作放棄地を利用した資源作物からエタノールを高効率に生
産する技術開発等を伴う各施策が打ち出された。その中心がバイオエタノールの生
産、バイオエタノール3%混合ガソリン(E3)の製造・流通等に関するものである。
 すでにわが国では、関係省庁連携のもと、全国6か所(北海道・十勝地区、山形県・
新庄市、大阪府・堺市、岡山県・真庭市、沖縄県・宮古島・伊江村)等各地でバイ
オエタノール導入実証プロジェクトが行われており、また、農林水産省の「バイオ
燃料地域利用モデル実証事業(バイオエタノール事業)」によって、JAグループで
も2007 年度から北海道においてJAグループ北海道(北海道バイオエタノール株式
会社)、新潟県におけるJA全農による実証プロジェクトがスタートしている。また、
「バイオ燃料地域利用モデル実証事業(バイオディーゼル燃料事業)」でも、茨城県・
土浦市、福岡県・新宮町等での実証プロジェクトもスタートしている。
(2) 今後の課題
今後これらの実証事業が進展し、バイオマス燃料が普及・実用化される段階を迎
えるには、バイオマス燃料の生産拡大方法、生産コストの問題、既存燃料(ガソリン)
との価格面競争、流通環境整備、政府の支援策(税制含めて)、さらには環境面への
影響、食料需給動向等多くの解決すべき課題がある。現在、農林水産省において「農
林漁業バイオ燃料法案」を通常国会に提出する方針である。
すでにこうした問題に対して、EU諸国では、地球温暖化防止に向けた明確な危
機意識のもとに環境政策が議論・立案されてきた経験を有しており、そのなかでも
バイオマスエネルギーの利活用には今後大きな期待がかけられている。EU内でも、
国によりエネルギー・農業・林業事情はそれぞれ異なるものの、やはり政策の果た
す役割は大きい。また、バイオマスエネルギーの実用・普及化に向けて、燃料輸入
業界や電力業界等の協力などが必要不可欠であるわが国においても同様であろう。
参照資料一覧
1.スウェーデン農業省作成資料、ハンガリー国防省森林局(株)作成資料。
2.『平成19年度環境・循環型社会白書』(環境省)
3.『平成19年度食料・農業・農村白書』(農林水産省)
4.『バイオエタノールと世界の食料需給』(小泉達治)
5.『BIO FUEL』(天笠啓祐)
6.『欧州地域社会開発研修(第32回)報告書』(JA総研編集)
7.『ヨーロッパ環境都市のヒューマンウェア』(大橋照枝)

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