2014年1月22日水曜日

一酸化炭素を高効率に分離・回収する新材料を開発 ~排ガスを有効利用する新材料~

一酸化炭素を高効率に分離・回収する新材料を開発
~排ガスを有効利用する新材料~

http://www.jst.go.jp/pr/announce/20131213-2/

以下抜粋

京都大学(総長:松本 紘)の北川 進 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)拠点長・教授、松田 亮太郎 特定准教授、佐藤 弘志 助教らの研究グループは、混合ガスの中から一酸化炭素(CO)注1)を高選択的に分離・回収できる多孔性材料注2)の開発に成功しました。
COは一般的には毒性のガスとして知られており、炭素を含む物質が不完全燃焼する際やメタンから水素を取り出すプロセスの際に発生します。一方、産業界においては樹脂など、有用な化成品を得るために必要な非常に重要な原料です。COを含む混合ガスから効率よくCOを分離・回収できれば、これまで利用できなかった排ガスを新たな資源として利用できるだけでなく、二酸化炭素排出量削減につながる可能性があります。
今回の研究では、COを捕捉可能なナノ細孔物質注3)を開発し、混合ガスからCOを効率よく分離し、簡単に回収することに成功しました。またその仕組みを大型放射光施設SPring-8注4)の高輝度放射光を用いて、詳細に検討しました。その結果、今回開発した物質がナノメートルサイズの孔の形・大きさを変えながら、COを効率的に取り込んでいる様子を直接観測することに成功しました。
本成果により、これまで不可能であった工業生産ラインや自動車からの排ガスに含まれるCOの効率的分離による資源化や、シェールガス注5)などから発生したCOガスの精製などを通じて社会に大きなインパクトを与えることが期待されます。
本研究は科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業(ERATO)および日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業(特別推進研究)によって推進され、京都大学、高輝度光科学研究センター、理化学研究所、東北大学と共同で行われたものです。
本成果はアメリカ東部時間2013年12月12日(木)14時(日本時間:13日(金)午前4時)に米国科学誌「Science」のオンライン速報版(Science Express)にて公開される予定です。


本研究では、ナノ細孔の構造を変化させながら、COを効率よく内部に取り込むことのできるPCPの開発に成功し、COと非常によく似た性質(大きさや沸点)を持ち、一般的に分離することが困難であるとされているNとの混合ガスからCOを選択的に分離・回収することに成功しました。
生体内ではヘモグロビン注8)と呼ばれるタンパク質が効率よく酸素を運搬しています。このタンパク質は、酸素と弱く相互作用する部分を持っています。生体内に酸素を取り込むと、タンパク質全体の形が変わり、低エネルギーで効率よく酸素を取り込んだり放出したりすることを実現しています。私たちはこのような仕組みをうまく模倣することで、これまでになかった多孔性材料を実現できるのではないかと考えました。具体的には、COと弱く相互作用する銅イオン(Cu2+)と、有機配位子である5-アジドイソフタル酸(aip)とを反応させ、目的のPCPを合成しました(図1aおよび1b)。このPCPの内部には、1次元のトンネルのような形状をした大きさの異なる2種類のナノ細孔( )があり(図1c)、それらの直径はそれぞれ0.9および0.4ナノメートルであることがわかりました。特に小さなナノ細孔( )の表面には銅イオンが規則正しく配列されており、COの取り込みに対して効果的に働くことが期待できました。また、興味深いことに、このPCPで特定の種類の分子の出し入れが起こるとナノ細孔のサイズ・形状が変化することを見いだしました。続いて、ナノ細孔へのガス分子の取り込まれやすさを調べる目的で、一般的に区別することが大変難しいCOとN吸着等温線測定注9)を行いました。その結果、非常にCOを取り込みやすいことがわかりました(図2a)。これは、過去に報告された物質では全く見られない現象で、今回のPCPが非常に特別なものであることを示しています(図2b)。
上述のような違いがどのような原理に基づくかを明らかにするために、COを取り込む前後のPCPの構造決定が必要不可欠でした。私たちは、理化学研究所 放射光科学総合研究センター 量子秩序研究グループの高田 昌樹 グループディレクターと協力し、大型放射光施設SPring-8の高輝度・高分解能な放射光X線(粉末回折ビームラインBL44B2)を用いて粉末X線回折測定注10)を行い、COを細孔の中に取り込む前後の構造を明らかにすることに成功しました。この実験から、今回のPCPは細孔の形を変えることで効率的にCOを取り込んでいることがわかりました。COを取り込む前には銅イオンが整列したナノ細孔 は、実は閉じた構造をとっており、CO分子を細孔内部に取り込むことができない状態でした。具体的には銅イオンと有機配位子に含まれる酸素原子が結合することで細孔サイズが小さくなっていました(図3左)。一方、COを取り込んだ後はこの結合が切断され、代わりにCOが銅イオンと結合していることがわかりました(図3右)。これにより孔の大きさが少し大きくなり、銅イオンの上に取り込まれたCOに加えて、ナノ細孔の中央部分にさらにCOが取り込まれていることがわかりました(図4)。N分子は銅イオンとほとんど相互作用せず、このような構造変化を引き起こすができないために、小さなナノ細孔には取り込まれないと考えられます。
続いて、今回開発したPCPがCOを効率的に分離・回収できるかを調べました。具体的には、さまざまな比率で混ざり合ったNとCOの混合ガス(COの比率:10-80%)をPCPによって吸着(捕捉)させ、回収したガスの中にどのくらいCOが含まれるかを確認しました。すると、どのような比率の混合ガスであっても、非常に高い効率でCOを回収できることがわかりました。図5のグラフは、COの濃度が低い混合ガスを用いても、吸着と回収のステップを複数回繰り返すことで高純度のCOガスが得られることを示しています。また、今回我々が開発したPCPはさまざまな従来材料と比べても非常に高い効率でCOを分離できることがわかりました。例えば、今回開発したPCPと同じ銅イオンが含まれる材料であっても、(1)銅イオンとCOが相互作用できないものや(2)構造変化がない材料では高い分離効率は確認されませんでした。私たちのPCPでは、COが取り込まれることによって、さらに多くのCOを次々に細孔内部へ呼び込む全く新しいメカニズムに基づいています(図6)。私たちはこのような新たな現象を、「Self-accelerating sorption process(自己加速的な吸着プロセス)」と呼んでいます。

今後の期待
今回開発した材料を実用化することで排ガスからのCOの効率的分離による資源化や、シェールガスなどから水蒸気改質プロセス注11)で発生させたCOガスの精製などを通じて社会に大きなインパクトを与えることが期待されます。

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