電気分解
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電気分解(でんきぶんかい)英語:Electrolysisは、化合物に電圧をかけることで、電気化学的に酸化還元反応を引き起こし、化学分解する方法[1]。略して電解ともいう。同じ原理に基づき、電気化学的な酸化還元反応によって物質を合成する方法は電解合成と呼ばれ、特に生成物が高分子となる場合は電解重合という。
塩素やアルミニウム、銅など、様々な化学物質が電気分解によって生産されている。水の電気分解は学校などで行われる代表的な化学実験であるとともに、将来的なエネルギーとして期待される水素を得る方法として、多方面から研究が進められている。
概要
液体中に 2 本の電極を浸し、電極の間に電圧をかけると、液体中の化学物質と電極との間で電子の受け渡しが起こり、結果として化学反応が進行する場合がある。このとき、電源の正極に接続した電極(アノード)では化学物質から電子が奪われて酸化が起こり、反対に負極に接続した電極(カソード)では化学物質に電子が与えられて還元が起こる。この結果、元の化学物質が化学分解する場合を電気分解という。電気分解で生成した物質は液体中に溶解したまま残ることもあるが、電極上に金属として析出したり、気体として発生したりして、液体から分離する場合もある。
電気分解を連続しておこすためには、反応した化学物質が電極から離れ、未反応の化学物質が電極近くへ運ばれて来る必要がある。このため、通常の電気分解は液体(電解液)中で行われる。電気分解用の液体は、分解したい化学物質を溶媒に溶かして溶液としたものや、高温にして融解させたものが使われる。後者の場合を特に溶融塩電解という。稀に水蒸気電解のように固体電解質を用いて気体を電気分解することも行われる[2]。
電気分解では、電圧さえ十分に高くかけられれば、様々な物質の酸化や還元を引き起こせる。したがって、電気分解を利用すれば、天然では一般的に化合物として存在しているアルカリ金属や銅などの元素を、単体として取り出すことができる。この方法は電解精錬と呼ばれ、様々な金属の精錬に利用されている。
歴史
18世紀末にアレッサンドロ・ボルタによってボルタ電池が発明されると、化学反応への電気の利用の研究が開始された。1800年にはアンソニー・カーライル (Anthony Carlisle) とウィリアム・ニコルソン (William Nicholson) が初めて水の電気分解に成功した。
水の電気分解に刺激されたハンフリー・デービーは1806年に「結合の電気化学的仮説」を発表し、翌1807年には水酸化カリウムの電気分解によってカリウム単体を得ることに成功した。さらにデービーは同じ手法でナトリウム・カルシウム・ストロンチウム・バリウム・マグネシウムを次々と発見した。
デービーの研究を引き継いだマイケル・ファラデーはさらに電気分解の研究を進め、ファラデーの電気分解の法則をはじめ様々な発見をし、電気化学の基礎を築いた。
要素
電気分解では、電気を流すための電極、電圧を印加するための直流電源、電気分解する物質を入れる電解槽(電解セル)が必要となる。電解液は分解したい物質を溶媒に溶かした溶液か、加熱して融解させた溶融塩が用いられる。
電極
電極のうち、電源の負極と接続するものを陰極(カソード)、正極と接続するもの、を陽極(アノード)と呼ぶ。アノードの本来の意味は陰イオンが接近してくる電極で、カソードは陽イオンが接近してくる電極である。そのため、本来アノード・カソードという名称は電解電極以外のために用いられるべきではない。正極や負極と書いてある事もあるが、正極と負極はD.C.電源の+、-を指すことであり、間違いである。電極の材質は電気分解の生成物や過電圧に大きな影響を与える。工業的には安価で安定な炭素電極が、実験用には炭素の他に腐食されにくい白金や金などの貴金属電極がよく使われる。有意な反応速度を得るためや、選択的な反応を起こすためにはしばしば電極触媒が必要となる。用途によってはガス拡散電極が使われることもある[3]。
電源電圧
電気分解に必要な電源電圧は、目的物質の標準電極電位やネルンストの式、プールベダイアグラムなどから計算される理論電解電圧に、過電圧や液体の電気抵抗(溶液抵抗)を加えた値となる。反応の種類にもよるが、一般的な反応では 10 ボルト以下の電圧で十分に進行する[4]。理論電解電圧以下の電圧では電気二重層の充電に使われる電流(非ファラデー電流)がわずかに流れるだけであるが、電気分解が進行する電圧に達すると反応速度に応じた電流(ファラデー電流)が流れる。電流値は電極形状や電解槽の構造、温度、分極などの影響で変化する。
電解槽
電解槽は、用途に合わせて様々な形状や材質のものが用いられる。溶液系の電気分解ではホフマン電量計やU字管などガラス製のものが、溶融塩電解では耐熱性の高いセラミックス製の坩堝や電極を兼ねた金属製の坩堝が用いられる。
電解液
溶液系の場合、最も多く用いられる溶媒は水である。水に不溶の物質などでは有機溶媒が使われ、アセトニトリル・ベンゾニトリル・塩化メチレン・テトラヒドロフラン・炭酸プロピレン・ジメチルホルムアミド・ジメチルスルホキシドがよく利用される。溶液抵抗を低減させるため、反応性の低い電解質(支持電解質)が一般に加えられる。溶媒や支持電解質の種類によって電気分解の生成物が異なる場合がある。
溶融塩電解では、目的物質の他に加えて、他の物質を融剤として混在させる場合がある。ホール・エルー法では酸化アルミニウムの融点を下げるために氷晶石とフッ化ナトリウムが融剤として加えられる。
用途
めっきの多くは電気分解を利用して行われる。電解液(めっき液)として重金属やシアン化物の水溶液が用いられる場合には、毒性に注意が必要とされる。
鉱業においては、原料を電気分解することで金属を得る電解精錬が一般的に行われている。銅では硫酸銅水溶液の電気分解によって純度の高い銅(電気銅)が生産されている。アルミニウムでは酸化アルミニウムの溶融塩電解によってアルミニウム金属を得るホール・エルー法が行われている。
水の電気分解は、将来的なエネルギー源として期待される水素の生産を目指し、研究が行われている。太陽光発電や水力発電、風力発電などで得られた電力で水を電気分解し、得られた水素を燃料電池で発電に利用することで、自動車などからの二酸化炭素排出を抑制することが可能となる。
最終更新 2013年12月19日 (木)
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