2012年3月19日 発表
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2012/pr20120319/pr20120319.html
以下抜粋
概要
独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)エネルギー技術研究部門【研究部門長 長谷川 裕夫】太陽光エネルギー変換グループ 姫田 雄一郎 主任研究員らは、アメリカ合衆国 ブルックヘブン国立研究所(以下「BNL」という)藤田 恵津子 シニアケミストらと共同で、常温常圧の水中で水素ガスを二酸化炭素(CO2)と反応させてギ酸(HCO2H)を生成するとともに、ギ酸を分解して固体高分子形燃料電池などに適した一酸化炭素(CO)を含まない高圧水素を供給できる高効率二酸化炭素/ギ酸の相互変換触媒を開発した。
今回開発した技術は、日米クリーン・エネルギー技術協力に基づく産総研とBNLの共同研究による、触媒と水素分子を活性化する新たな配位子の設計指針を見出して実現したものである。今回開発した技術は、二酸化炭素とギ酸の相互変換反応のエネルギー効率を大幅に向上できる触媒技術であり、将来の二酸化炭素を利用した大規模な水素貯蔵システムの開発が期待できる。
この研究成果は、2012年3月19日(日本時間)に英国科学誌Nature Chemistry電子版に掲載される。
プロトン応答型およびプロトンリレー型触媒による高効率二酸化炭素/ギ酸の相互変換
開発の社会的背景
二酸化炭素の排出を抑え持続可能な社会を構築するため、クリーンなエネルギー媒体である水素を基盤とする水素エネルギー社会の実現が望まれている。そのためには、エネルギー密度の低い水素ガスを安全かつ効率的に貯蔵・運搬する技術が不可欠である。二酸化炭素を、光合成の暗反応と同じように、還元して水素(エネルギー)を貯蔵できれば、水素社会の実現に貢献できるとともに、二酸化炭素の有効利用につながる。二酸化炭素の水素化によって得られるメタノールやギ酸は常温で液体であり、またエネルギー密度が比較的高いため、貯蔵・運搬が容易な水素貯蔵材料として研究開発が行われきた。しかし従来は、(1)二酸化炭素の変換プロセスは高圧高温条件を必要とするエネルギー多消費プロセスであること、(2)逆反応プロセスで再生される水素を燃料電池などへ利用するには、燃料電池の電極の劣化原因となる一酸化炭素を10 ppm以下に保つ必要があること、(3)放出された水素を燃料電池などへ供給するには加圧する必要があることといった課題があり、水素の貯蔵と放出における変換反応のエネルギー効率を大幅に改善させる高性能触媒の開発が望まれていた。
研究の内容
これまでに産総研で開発したプロトン応答型触媒では、常温常圧の水中で、二酸化炭素の水素化反応によりギ酸は生成するものの、反応速度や収率(水素の貯蔵量)は満足な結果ではなかった(図1)。今回、新たに設計・合成した触媒では、プロトン応答型の水酸基(-OH)をイリジウム(Ir)の近くに配置してあり、水素分子をイリジウムと水酸基の酸素原子との相互作用を利用して活性化させる。この触媒を用いて、常温常圧の水中で、二酸化炭素の水素化反応を行ったところ、従来の触媒に比べて、反応速度は10倍以上、ギ酸の収率(水素の貯蔵量)は100倍以上に向上した。すなわち、この触媒を用いることで、エネルギーを消費する高温高圧条件ではなく、常温常圧でも水素をギ酸に変換できることになった。
図1 常温常圧の水中での二酸化炭素の水素化反応によるギ酸生成の経時変化 |
図2 (a) 新触媒および従来触媒を用いたギ酸の分解反応によるガス発生量の経時変化(反応温度90 ℃) (b)ギ酸分解からの発生したガスの分析結果 |
図3 二酸化炭素の水素化とギ酸の分解を組み合わせた水素貯蔵プロセスのフロー図 |
今後の予定
現在、高圧ガスを供給できる特性を利用して、二酸化炭素の分離装置と組み合わせたギ酸の連続分解による高純度水素製造装置の開発に取り組んでいる。今後、新たな触媒設計指針に基づいて、触媒のさらなる高効率化および低コスト化を目指す。さらに、可視光応答型半導体触媒などの太陽光エネルギーを利用した水素発生と組み合わせて、水、二酸化炭素からエネルギー貯蔵物質を作る「完全」人工光合成システムの構築および高効率化を目指す。
用語の説明
ギ酸の分解は、下記化学式に表されるように2つの競合する分解経路を持つ。
HCO2H → H2 + CO2 (1) 脱炭酸反応
HCO2H → H2O + CO (2) 脱水反応
従来は、脱炭酸反応を選択的に反応させることが、困難だったために、ギ酸分解によって生成するガス中にCOが含まれていた。[参照元へ戻る]
プロトン応答型触媒は、プロトンの脱着によって触媒の性能が変わる触媒。本研究では、水酸基の酸塩基平衡を利用した応答型触媒を用いている。このため、反応溶液のpHに依存し、酸性条件では水酸基(-OH)、アルカリ性条件ではオキシアニオン基(-O-)に変化する。[参照元へ戻る]
問い合わせ
独立行政法人 産業技術総合研究所 広報部 報道室
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