アップロード日: 2012/02/06
科学技術振興機構 ICORP ATP 合成制御プロジェクトでは、ATP合成酵素による生体内のATPの合成と利用のしくみを研究しています。
『ミトコンドリア内で生産されるエネルギー』
公開日: 2013/08/28
ミトコンドリア内で生産されるエネルギー(ATP)のダイナミックな映像を
玉置浩二の音楽と共にお楽しみください
玉置浩二の音楽と共にお楽しみください
Mitochondria and ATP Synthesis
アップロード日: 2011/05/30
action mode of the F0/F1 atpase within ondrial inner wall on the ATP synthesis versus H+ ion exchange.
Realization : Xvivo for Harvard university
Realization : Xvivo for Harvard university
ATP synthase - top view
アップロード日: 2007/05/20
Credit: Professor John E. Walker, Medical Research Council, Dunn Human Nutrition Unit, Cambridge, UK
The ATP Cycle
アップロード日: 2010/02/25
Biology teacher Andrew Douch explains the ADP-ATP cycle.
Biology 1A - Lecture 5: Energy and ATP
公開日: 2011/09/07
General Biology Lecture
吉田 賢右
http://www.kyoto-su.ac.jp/department/nls/sennin/system/pdf/st_yoshida.pdf
固定子
細胞呼吸
回転子
細胞呼吸
13 14
総合生命科学部 生命システム学科
吉田 賢右教授
エネルギー通貨を生み出すナノモーター――ATP合成酵素
私たちが普段活動するのに使っているエネルギーは、
一体何がもたらしているのでしょうか。
その答えは、細胞内にあるATPという分子にあります。
人間を含め、あらゆる生物のエネルギー供給源となるATP、
それを作り出すのが、ATP合成酵素です。
そのATP合成の具体的な仕組みは謎に包まれていましたが、
近年になってその詳細が判明してきました。
意外なことに、ATP合成酵素は回転していたのです。
人間が水車を発明するよりも、
はるか昔から存在していたナノモーター。
世界で初めてATP合成酵素が回転していることを
観察した吉田賢右先生に、お話をうかがいました。
全ての生物のエネルギー通貨
ATP(アデノシン三リン酸)とは、生物に必
要不可欠なエネルギーの供給源です。植物も
バクテリアも、全ての生物はこのATPという小
さな分子をADP(アデノシン二リン酸)とリン
酸に加水分解することで生まれるエネルギー
によって活動しています。運動はもちろん、細
胞の中のいろいろな化学反応を進行させる、
嗅いや味を感じる、あるいはDNA(遺伝子)
の複製まで、あらゆることにATPは用いられま
す。いわばエネルギーと交換できるお金のよう
なもので、エネルギー通貨と呼ばれることもあ
ります。
ATPが分解されて出来たADPとリン酸は、
食べ物を燃焼して得られるエネルギーによって
再びATPに合成されます。人間の体内にはわ
ずか数10グラム、約3分間分のATPしか存在
しませんが、常時使っては合成しているので、
一日に作られるATPは体重に相当する量にな
ります。
このATPはATP合成酵素※により作られ
ますが、そのメカニズムについては大きな謎
でした。これに対して画期的な仮説を立てた
のがポール・ボイヤー(Paul Delos Boyer,
1918-)です。彼は、ATP合成酵素は回転して
いると提唱しました。このアイデアはあまりに常
識破りであったため、長い間、学界では相手
にされませんでした。しかし、ボイヤーの考え
は実際には正しいものだったのです。そして彼
の説を裏付けたのが、世界で初めて回転する
ATP合成酵素を観察することに成功した私た
ちのグループだったのです。
ATP合成酵素に関する研究は大変重要
なものであり、1997年秋にボイヤー、ウォー
カー、スコウの3名はノーベル化学賞を受賞し
ました。私たちもノーベル賞に迫っていたと思
P R O F I L E
吉田 賢右
理学博士。幼いころから漠然と生命に関心を
持ち、東京大学理学部生物化学科に進学す
る。同大学院理学系研究科生物化学専攻博
士課程修了。昔から好奇心が強く、わからな
かったことが理解できると嬉しかった。物事を
本当に理解するとは、起承転結を知ることだと
考え、「問いを3回繰り返せば研究の最前線に
至る」と語る。群馬県立前橋高校OB。
中に流れこみます。すると、その流れの勢いで
酵素中央のシャフトが回って、発電機の代わり
にATPを合成するマシンが動き、ADPとリン
酸からATPを合成するのです(図2)。
もちろん、これを続けるとミトコンドリア内部
の水素イオン濃度が上がっていずれ内外の濃
度差がなくなってしまいそうです。しかし、ミト
コンドリアには食べ物を燃焼すること(細胞呼
吸)によって水素イオンを外側へ汲み出す機
構がいつも働いているので、水素イオンの濃度
差は維持されて、ATP合成酵素はATPを作り
続けることができるのです(図1)。
ところで、ATP合成酵素が回転しているとい
うことは、注目に値する事実です。
私たちの身の回りには、回転運動が至ると
ころに見られます。モーターなどは顕著な例で
しょう。ロボットも、モーターの回転を並進運
動に変換して動いています。しかし、生物にとっ
て回転は特殊な動きなのです。実際、生物に
おける回転運動は、ATP合成酵素以外ではバ
クテリアの鞭毛くらいしか存在しません。
回転が生物にとって例外的な動きであるこ
とは、スクリューで進む魚やプロペラで飛ぶ
鳥、車輪を持った動物がいないことからもわか
ります。回転してしまうと付随する血管や神経、
あるいは骨などの器官が千切れてしまうからで
しょうか。回転するためには、情報伝達系やエ
ネルギー伝達系を切れないようにうまく組み合
わせておかないといけないのです。ATP合成
酵素が回転できるのは、回転軸が周囲のリン
グ状の固定子の中で浮いていて、固定されて
いないからです。
ATP合成酵素を
研究するということ
ATP合成酵素が回転する理由は、現在のと
ころわかっていません。回転せずにATPを合
成する機構はいくらでもありますし、ATP合成
酵素の反対の仕組みも、私たちの体内の様々
な場所で見いだせます。たとえば、胃袋の内部
は常に強い酸性で保たれていますが、これは
ATP合成の逆で、ATPを利用して水素イオン
を濃度の低いところから高いところへ汲み上げ
ているのです。ダムの例えでいえば、下流の水
をポンプで上流に汲み上げているようなもので
一口にサイエンスをやってくださいとは言いません。文系
に進んだり、就職したりする人もいるでしょう。しかし、ど
のような場合でも、一個の人間として社会のことや自然の
ことをできるだけ道理にそって科学的に理解する力は必
要です。物事に対しての基本的な知識と、それを基にした
合理的な行動の指針が重要なのです。知識がないとどう
にもなりませんが、知識だけでは不十分です。知識に加え
て合理的に推論ができることが大事です。そういう意味で
の、学力――生きる力を身につけてほしいと思います。
生き物の
エネルギー通貨を生み出す
ナノモーター
ATP合成酵素の回転運動を世界で初めて観察
図1
図23
06
ATP合成酵素を研究するにあたっては、
出発点が大事でした。ATPを作ることに関
しては、人間からほうれん草まで、あらゆる
生物に共通です。どの生物を研究しても、
同じ結果に到達する。だからこそ、どの生
物を研究材料にするかが重要だったので
す。そこで、私たちが材料として選んだのは
温泉に生息するバクテリア(好熱菌)でし
た。
ATP合成酵素は膜に存在しますが、そ
れを研究するためには膜を石鹸で溶かさ
ないといけない。ただし、肝心のタンパク質
を壊さないようにする必要がある。このバ
ランスが難しく、様々な石鹸や生物で試し
たところ、好熱菌にたどり着きました。好熱
菌は高温な場所に生息しているためタンパ
ク質が丈夫で、熱だけではなく石鹸にも強
いのです。このように出発点を工夫した結
果、ATP合成酵素の回転が観察できたの
です。
研究の出発点
いますが、ノーベル賞は3人までにしか与えら
れませんから、4人目の候補だったのかもしれ
ません。
※酵素はタンパク質の一種。触媒の機能を持つ。
回転するATP合成酵素
人間の場合、ATP合成酵素はミトコンドリア
の内膜にあり、水素イオンの流れによってATP
を作っています(図1)。その仕組みを、水力発
電を例にとって説明しましょう。
す。ですから、この胃袋の酵素を逆に使えば、
ATPを合成することはできるということです。そ
の仕組みもずっと簡単ですが、実際これを用い
てATP合成を行っている生物はいません。
ではなぜ、あらゆる生物が簡単な機構では
なく、複雑なナノモーターを使用しているのか、
それには、何か重要な理由があるはずです。も
し火星で生命が見つかったとして、その生命も
回転によってATPを合成していたとすれば、回
転には宇宙的な普遍性があるといえるでしょう
が、現段階ではまだ謎のままです。
それでは、ATP合成酵素が回転していること
を発見したことは一体何の役に立つのでしょう
か。私にはその答えもわかりません。役に立つ
からではなく、知りたいから、研究するのです。
新しい発見があると考え方が変わるから、研究
するのです。学問とはそういうものです。
何かちょっとした発見があってニュースにな
ると、必ず「その発見は何の役に立つのか」と
聞かれます。あるいは、研究費を申請する場合
にも、何に役立つかを説明しなければならない
風潮もある。このような状況で「私の研究は役
立たない」と断言するのは難しいことですが、と
いってある研究が何の役に立つのかは、一概
には言えないのも事実です。結果的に役に立
つかどうかが、全くの偶然によることもあるの
です。たとえば、素数論という学問があります。
これは、昔は数学者の遊びのようなものでした
が、今となっては通信などの暗号論に欠かすこ
とのできない基盤となっています。マクスウェ
ルの電磁気学もそうです。当時は、電気が何
の役に立つのか誰も理解していませんでした。
実は、すぐ役立つものよりも100年後に役立つ
もののほうが重要かもしれないのです。
水力発電は、水の位置エネルギーを電気エ
ネルギーに変換するものです。ダムの堤で高所
に水を貯めておいて導水路の中に落とし、その
勢いで発電機のタービンを回して、電気を生み
ます。
ATP合成の場合、水素イオンが水で、膜が
ダムの堤、ATP合成酵素が導水路と発電機に
あたります。水素イオンの濃度差が、ダムにお
ける水位の高低差です。
ミトコンドリアの外側にある水素イオンは、
膜によって内側に入るのを塞き止められていま
す。この水素イオンは溜まってくると内側との
濃度差によって膜に点在するATP合成酵素の
ATP合成酵素の模式図。 F0モーターが水素イオンの流れに
よって回転すると、F0モーターに連結したシャフトが、F1の中で
回り、ATPが合成される。F0の固定子とF1の固定子は右横の
棒状の部分で固定されている。
ATP合成酵素の構造
ミトコンドリアは膜で囲まれた袋で、細胞呼吸によっていつも水
素イオンを袋の外へ運び出している。水素イオンがATP合成
酵素の中を通って袋の中にもどるときにATPが合成される。
ATP合成酵
http://ja.wikipedia.org/wiki/ATP%E5%90%88%E6%88%90%E9%85%B5%E7%B4%A0
ATP合成酵素(—ごうせいこうそ)とは、呼吸鎖複合体によって形成されたプロトン濃度勾配と膜電位からなるプロトン駆動力を用いて、ADPとリン酸からアデノシン三リン酸 (ATP) の合成を行う酵素である。ATPを触媒するATPアーゼの一種である。別名ATPシンターゼ、ATPシンテターゼ、呼吸鎖複合体V、複合体Vなど。
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