年金生活者の資金の一部を鉄道改修に 
 2路線の改修工事にかかる費用のうち、3020億ルーブル(約9060億円)はロシアの国営会社「ロシア鉄道」の自社資金。1100億ルーブル(約 3300億円)は、コメルサント紙の報道によると、直接予算投資として「ロシア鉄道」の授権資本金に計上される。残りの1500億ルーブル(約4500億 円)は、「ロシア鉄道」が2014年から2016年にかけて、国民福祉基金から借り入れる。国民福祉基金は2008年、年金基金の予算収支確保のために設 立された。このようにして、未来の年金生活者の資金が一部使われることとなる。

民営化で返済する見通し 
ガゼータ・ル紙によると、財政融資の返済のメカニズムや規模は完全には決められていないという。ロシア鉄道の25%を2016年以降に民営化し、株式を売 却して、国民福祉基金への返済にあてる可能性が高い。プロジェクトの回収期間は30年もしくは50年もあり得る。建設規模(シベリア鉄道は世界最長の 9298キロメートル、バイカル・アムール鉄道は4287キロメートル)を考えると、この回収期間は現実的だ。ロシア鉄道のウラジーミル・ヤクーニン社長 も、ウラジーミル・プーチン大統領も、改修工事の必要性を感じている。

5年で極東の港向けの貨物が55% 
 プーチン大統領は7月26日、ノヴォ・オガリョヴォで政府関係者らと面会し、次のように述べた。「ここ5年でロシア極東の港行きの鉄道貨物だけでも、 55%増加している。年間約1億1000万トン。これはこの地域としては記録的な数字だ」。ヤクーニン社長も「貨物が10倍に増えた」と話した。
 プロジェクトは両鉄道の改修工事にとどまらない可能性がある。ヴィクトル・イシャエフ極東発展相は昨年5月、ウラジオストクの会議に出席し、新たなバイカル・アムール鉄道2の建設構想について触れた。こちらも来年着手することを、タス通信が伝えている。
 バイカル・アムール鉄道2を、橋を通してサハリン島までつなげ、さらにその支線を朝鮮と中国まで伸ばす可能性がある。これによって、アフリカ周辺を通過 する航路から、ロシアを経由してアジアからヨーロッパにトランジット貨物(通過貨物)を輸送する陸路に流れを変えることができる。この計画が発表された会 議では、ドミトリー・メドベージェフ首相が議長を務めた。

資金回収、返済、採算性などで慎重論も 

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極東ロシアを旅する
 
巨額な投資を必要とする、極東の交通インフラの整備プロジェクトについて、この分野の専門家は異なる意見を持っている。
 「ロシア政府はこの投資資金の流れを管理しきれない。特別な管理組織が必要だ」と、高等経済学院のエヴゲニー・ヤーシン科学顧問は話す。国民福祉基金の事務局は、ロシア政府とその決定から独立すべきということだ。
 証券会社「オトクルィチエ」市場分析部のコンスタンチン・ブシュエフ部長は、インフラへの投資が経済成長の刺激には重要だとしながらも、このプロジェク トの長期的影響を事前にしっかりと考える必要があると話す。「『停滞の時代』にソ連政府がこれらの鉄道に投じた資金や人材は、ほとんどが無駄になった」。

「経済成長の牽引車になる」 
 投資運用会社「カピタル」のアナリスト、アンドレイ・ヴェルホランツェフ氏は、それほど悲観的にとらえていない。交通インフラに国家資金が投じられれば、経済成長が起きる可能性があるという。
 ロシアの投資会社「ツェリフ・キャピタル・マネージメント」の上級アナリスト、オレグ・ドゥシン氏はこう話す。「シベリア鉄道の改修には、経済的だけで なく、政治的な理由がある。環太平洋地域におけるロシアの立ち位置を維持するために、シベリア鉄道は重要だ。発表された総投資額には、国民福祉基金の資金 や改修の規模との相関関係がしっかりとある」。

ガゼータ・ルコメルサント紙タス通信の記事を参照。


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貨物の輸送はロシア経由で

2012年8月9日 アレクサンドル・ガブエフ, コメルサント紙
アジア太平洋経済協力(APEC)交通大臣会合がサンクトペテルブルクで開催され、ロシアのマクシム・ソコロフ運輸相が、現在APEC諸国とEU諸国の間で取引されている貨物の10%を、スエズ運河の代替ルートとしてロシアを経由させ、遅延を低減したいとの意向を発表した。これに対しAPEC参加国は、ロシアが極東の輸送インフラを徹底的に改善する必要があると述べた。
 
貨物の輸送はロシア経由で
=タス通信撮影
 
21カ国の交通大臣が参加した8月3日の会合は、9月のAPEC首脳会議に向けた行事の一つだ。ウラジオストクで受け入れ準備が完了するまでに、多くのAPEC関連会合がサンクトペテルブルクなどのより設備の整った街で開催される。信頼性の高い物流網の確立は、APECの4つの優先課題のうちの一つとしてロシアが提案した。
輸送路の多様化で時間もコストも節約
ソコロフ運輸相によると、最も重要なロシアの提案は、アジア太平洋地域からヨーロッパへの商品の輸送を中心とした物流で、コースを多様化することだという。プレゼンテーションではプロジェクターが使用され、商品がアジアからスエズ運河を経由してヨーロッパに輸送される現在の様子と、シベリア鉄道、バイカル・アムール鉄道、ロシアの太平洋港を現代化した場合のロシア経由の輸送が映し出された。
「輸送ルートの多様化は、輸送遅延や取引遅延を低減させるし、それによってエンド・ユーザーの購入価格も安くなるという経済効果をもたらすことは間違いない」と、運輸省関係者はスエズ運河を通る不便さとソマリア海賊のリスクを強調しつつ、効果を強調した。また、ロシアがアジアからヨーロッパに輸送される商品の10%が、数年後にはロシア経由となっていることも希望として述べた。
各国の大臣は好意的に受け取り、特に韓国代表は、ロシア経由の新たなルートの発展を、アジア地域全体の優先課題とした。

投資、インフラ整備が必要との意見 
昼食の際、関係者はこの大規模な計画の見通しについて、ビジネスの代表者らと語り合った。提案は支持されたものの、実現するための問題点について多く語られた。
国営企業「ロシア鉄道」のアレクサンドル・サルタノフ副社長は、鉄道を韓国から北朝鮮を通じてシベリア鉄道につなげる、またはウィーンまで鉄道を建設するなどのプロジェクトで、ヨーロッパへの貨物の通過輸送を発展させるには、多額の投資が必要となると語った。

13日間通関待ち
今年、APECビジネス諮問委員会(ABAC)の議長を務めているジヤブジン・マゴメドフ氏(「スムマ」グループ会長)は、運行管理や通関の改善、最新技術の導入などが優先課題であるとし、次のように述べた。
「ウラジオストクからモスクワまでのコンテナ輸送には28日かかり、うち10日は鉄道を走る期間で、13日は通関待ちの期間だ。シンガポールなら、コンテナの通関は1日以内で終わる」。
この他に、ロシアはAPEC参加国に対し、コンテナ貨物の情報がRFID(電波式識別)に記録され、それを特別なスキャナーで読みとれるような統一基準を採用することを提案した。RFIDが通関書類の代わりとして採用されれば、貨物の処理が4倍から6倍早くなるという。

市場独占に関する意見 
会議の終盤には、ロシア輸送ルートの実現に「ロシア鉄道」の独占状態が障壁となっていないか、また効率を上げるために「ロシア鉄道」を私有化すべきではないかといった質問が行われた。
「私有化で必ずしも効率が上がるとは限らない。そのような変化は極めて慎重に行われなければならない。ドイツ鉄道のような成功している国営企業もあるのだから、それを見本にすべきだ」とサルタノフ副社長は答えた。