http://www.unscear.org/docs/reports/2008/11-80076_Report_2008_Annex_D.pdf
http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/senmon/shidai/houkokukenWG/houkokukenWG01/siryo1-2.pdf
チェルノブイルに関するUNSCEAR報告書
原子力安全委員会事務局
管理環境課
UNSCEAR 1988年レポート
付属書D
事故後1年間の線量及び将来の予測線量について、公衆の個人平均線量及び集団線量を提示
目次
第1章: 事故について
(原子炉、放射性核種の放出と拡散、緊急時対策)
第2章: 線量算定方法論 (1年目線量及び予測線量)
第3章: 評価データ (大気、降下量、食品、人体)
第4章: 1年目の線量推定
(甲状腺、実効線量、被ばく経路、核種、移行関係)
第5章: 線量預託
(変換関係、広域の平均線量、被ばく経路・核種の寄与)
第6章: 集団線量預託
(集団線量の推定、単位放出あたりの集団線量)
第7章: 要約
第1、3章: 評価データ
「ソースターム」: 放出量、放出の時系列、核種組成
「大気」: プルーム挙動、核種組成、空気中濃度・積分
濃度
「降下物」: 137Cs降下量、その他の核種降下量
「食品」: 食物中131I(乳製品、葉菜)、137Cs(乳製品、
葉菜、穀物、野菜・果物、肉)
「人体」: ホールボディカウンタ(137Cs体内量)、
食物中濃度から体内量を推定
「その他」: 人口、食糧消費量など
第4章:1年目の線量(国別平均)
甲状腺線量当量、実効線量当量、外部・内部被ばく
別線量、核種別線量、変換係数(降下量→線量)
第5章:線量預託(地域別平均)
137Cs降下量からの変換係数、実効線量当量預託
第6章:集団線量預託
実効線量当量預託×人口
北半球全域の集団実効線量当量預託:600,000 人・Sv
事故後14年間の線量及び健康影響を提示
序論
第1章:事故の物理学的状況
A.事故状況
B.放射性核種の放出
1.放出量の推定(I、Te、Cs、他)
2.放出核種の物理化学的性質
C.土壌汚染
1.旧ソビエト連邦における地域(プルーム流、Cs、Sr、Pu、I)
2.その他の北及び南半球の地域(広域汚染図)
D.沈着した放射性核種の環境動態
1.陸圏
2.水圏
E.総括
第2章:被ばく集団の線量
A.作業従事者
1.緊急作業従事者(原子炉周辺の空間線量率)
2.復旧作業従事者(ガンマ線外部被ばく、生物学的線量評価、
ベータ線皮膚被ばく、内部被ばく)
B.避難住民
1.外部被ばく線量
2.内部被ばく線量
3.残余及び回避集団線量
C.旧ソビエト連邦の汚染地域における住民
1.外部被ばく線量(事故後1年間、1年後、線量分布)
2.内部被ばく線量(甲状腺線量 (I, Te)、実効線量(Cs,Sr)、肺線量(Pu, Am))
D.近隣国の住民
1.甲状腺線量
2.骨髄線量
E.集団線量
1.外部被ばく集団線量
2.内部被ばく集団線量(甲状腺集団線量)
3.総集団線量
F.総括
第3章: 緊急作業者における初期の健康影響
(造血機能、口腔咽頭炎症、皮膚、白内障)
第4章:登録と健康モニタリングプログラム
A.被ばく者の登録とモニタリング
(チェルノブイル登録:1986年5万人、1995年40万人超
特別登録:放射線作業従事者、軍)
B.一般住民における死亡及び疾病登録
(死亡率、発がん率、
特定がん(血液学的がん、甲状腺がん、小児がん)
遺伝的障害、先天性奇形
C.登録の質及び完全性
(被ばく者集団の登録、一般集団の登録)
D.国際協力スクリーニングプログラム
(国際チェルノブイルプロジェクト、IPHECA、笹川財団プロジェクト)
E.総括
第5章:晩発影響
A.発がん
(甲状腺がん:疫学、臨床・生物学的所見
白血病:
固形がん
B.発がん以外の身体的障害
(甲状腺異常、甲状腺以外の障害、免疫学的影響)
C.妊娠における影響
D.精神的及びその他の影響
E.総括
結論
線量評価(特に低線量域)や、診断方法、調査集団の選択に
問題が残る
小児甲状腺腫の増加
(事故時に5歳以下だった乳幼児において
その増加は継続するので注視する必要がある)
事故後14年間において上記以外の健康影響(白血病を含む)は
観察されていない
放射線の遺伝的影響
3.チェルノブイル事故による放射線被ばくの遺伝的影響
(a)ダウン症候群と先天的異常
(有意な影響は無し)
(b)ヒトのミニサテライト突然変異
(チェルノブイルの小児において増加傾向が見られたが、
コントロールは英国の集団)
結論
チェルノブイル事故における遺伝的影響調査で、ダウン症候群、
先天的異常、流産、周産期死亡の増加を示す明白な証拠は無い
事故後22年間の線量及び健康影響を提示
第1章:序論( 1988 年報告、2000年報告、WHO 報告、他)
UNSCEAR 1988 年報告:事故直後のまとめ
UNSCEAR 2000 年報告:事故14 年後のまとめ
UNSCEAR 2001 年報告:遺伝的影響のまとめ
Chernobyl Forum 2003-2005 : 総合的なまとめ
UNSCEAR 2008 年報告:事故22年後のまとめ
公衆の被曝線量と健康影響
社会的、経済的な損失
第2章:物理・環境の視点(放出核種、挙動、対策)
放出核種の種類と放出量
第3章:被ばく集団への線量(作業者と公衆)
線量への寄与:137-Cs、131-I
放出長寿命核種の経年変化
長期的な線量への寄与:137-Cs
UNSCEAR 2008年レポート ANNEX D
主要な集団とその線量
集団人数 甲状腺平均線量 平均実効線量
(1986) (mGy) (1986-2005) (mSv)
処理作業者 53 万人 - 117 (50 – 5,000)
避難民 11.5 万人 490 31
3カ国住民(1) 640 万人 >100 (50-5,000) 9
3カ国住民(2) 9,800 万人 16 1.3
遠距離諸国 5 億人 1.3 0.3
集団実効線量x リスク係数= 予測死者数
第4章:健康影響の放射線帰因性(attribution)
第5章:急性影響(作業者の急性影響、公衆)
線量:チェルノブイル事故では外部被曝が主体
(一部131-I による内部被ばく)
確定的影響(急性):初期消火作業従事者
放射線火傷による皮膚障害
第6章:晩発影響(疾病の実態、理論的予測)
確定的影響(遅発):作業者で認められる(公衆では認められない)
白内障:低レベルのは250 mSv 以上で?
皮膚障害
神経、心疾患、消化器官の疾患(認められない)
肺・気管支疾患
免疫系の疾患(自己免疫甲状腺炎)は不明
心理的影響:線量と関係なく、事故と関係あり
確率的影響: 甲状腺がん:小児被曝で4,000 人
10歳以下の甲状腺腫発症頻度の増加
白血病:公衆及び胎児被ばくでは無い、
作業者は不明
固形癌:公衆では無い、作業者不明
第7章:結論(帰属、推定の比較、実態との比較、新発見)
事故処理作業者:
急性影響による死亡
白内障頻度の上昇、閾値は小さい
心臓脈管系リスクは明確ではない
白血病発症頻度上昇は不明
住民:
小児甲状腺腫の増加(4000 例)
上記以外の健康影響は観察されていない
====================================================================
https://www.google.co.jp/webhp?sourceid=navclient&hl=ja&ie=UTF-8&rlz=1T4GGHP_jaJP443JP443#hl=ja&psj=1&q=UNSCEAR+%EF%BC%92%EF%BC%90%EF%BC%90%EF%BC%98%E5%B9%B4%E3%83%AC%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%88
チェルノブイルに関するUNSCEAR報告書
原子力安全委員会事務局
管理環境課
事故後1年間の線量及び将来の予測線量について、
公衆の個人平均線量及び集団線量を提示
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http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2010/siryo59/siryo1.pdf
UNSCEAR2008年報告書
独立行政法人放射線医学総合研究所
放射線防護研究センター
酒井一夫
米原英典
UNSCEAR の設立と目的
United Nations Scientific Committee
on the Effects of Atomic Radiation
原子放射線の影響に関する国連科学委員会
• 1955年,第10回国連総会決議により設立
• 大気圏核実験による環境放射能汚染の影響に対す
る懸念に対応し,人体と環境への放射線の影響に関
する情報の収集と評価を行う。
• すべての“線源”からの電離放射線のレベルと“影響”
に関するデータを収集して科学的に取りまとめて評価
し,国連総会に報告する。
UNSCEAR の役割
• 放射線のリスク評価と防護のための科学的
基盤となる報告
(国連総会→ 科学界,一般社会)
• 放射線利用や防護の恩恵についての判断は
しない
(他の国際機関との役割分担)
• 独立性と科学的客観性
(各国政府・国際機関から信頼される)
UNSCEAR 2006年報告書
(電離放射線の影響)
第1巻(2008年発行)383ページ
• 国連総会への報告
• 科学的付属書
付属書A: 放射線とがんについての疫学的研究
付属書B: 心血管疾患と非がん疾患に関する疫学研究
第2巻(2009年発行)334ページ
付属書C: 放射線の非標的効果と遅延影響
付属書D: 放射線の免疫系への影響
付属書E: 家屋内と職場環境におけるラドンの線源ー影響評価
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http://www.ncc.go.jp/jp/shinsai/pdf/shiryo1.pdf
チェルノブイリ事故の放射線の健康影響について
SOURCES AND EFFECTS OF IONIZING RADIATION
United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation
UNSCEAR 2008
Report to the General Assembly with Scientific Annexes VOLUME II Annex D
Health effects due to radiation from the Chernobyl accident
国連科学委員会報告
2008年
チェルノブイリ事故の放射線の健康影響について
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http://www.nirs.go.jp/information/event/report/2013/0620.shtml
UNSCEAR報告書の日本語版を7月5日から有償頒布
~日本の放射線影響研究と防護研究の促進のために~
平成25年7月5日10時
独立行政法人放射線医学総合研究所
独立行政法人放射線医学総合研究所(理事長:米倉義晴、以下、放医研)は、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(以下、UNSCEAR)の2008年報告書第2巻及び2010年報告書の日本語版を7月5日から有償頒布します。
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「みんなの翻訳」は情報通信研究機構言語翻訳グループと東京大学図書館情報学研究室による共同プロジェクトであり、三省堂と国立情報学研究所連想情報学研究開発センターが開発に協力しています。三省堂には「グランドコンサイス英和辞典(36万項目収録)」の使用を許可していただきました。
http://trans.trans-aid.jp/find/?kind=f-D&keyword=%E5%9B%BD%E9%80%A3&tag_id=1278
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検索結果
UNSCEAR報告2010年(9~10ページ) / 原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)
UNSCEAR Report 2010 (p. 9-10) / UNSCEAR
2. 生体機構に関する研究 27. 放射線被曝後の発癌の機序がわかれば、疫学データの解釈にも有益である。とりわけ、低線量及び低線量率におけるリスクを推定するために予測を下方に投影するために有用である。2000年以来、委員会(UNSCEAR)は、...
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2012-03-01 17:59:55
http://trans.trans-aid.jp/viewer/?id=26325
2. 生体機構に関する研究
27. 放射線被曝後の発癌の機序がわかれば、疫学データの解釈にも有益である。とりわけ、低線量及び低線量率におけるリスクを推定するために予測を下方に投影するために有用である。2000年以来、委員会(UNSCEAR)は、この領域の研究の展開を検討することにより大きな力を注いできた。 28. 長年にわたる発癌の研究から、一般に、発癌のプロセスは、体器官における一つの「幹様」細胞のDNAで一つないし複数の遺伝子が変化すること(突然変異)により始まるという証拠が蓄積されてきた。それ以後の癌の進展と悪性腫瘍の始まりは、多段階で進むと考えられ、それらの段階もまた、突然変異をはじめとする細胞遺伝子に関わる変化に関連している。 29. 委員会は、こうした研究の知見をレビューするとともに、放射線被曝が細胞及び亜細胞に及ぼす効果に関する多くの研究をレビューした。現在の知見によると、放射線を照射されたのちに細胞内にとどまるエネルギーはあらゆる細胞成分に損害を与える可能性がある。放射線に関連する細胞の変化における主要な細胞下標的は、染色体にあるDNA分子である。DNAは各細胞の全機能を調整する約2万5000の遺伝子をコード化しており、遺伝子(あるいは遺伝子群)に影響を与える放射線の損傷が正しく修復されなければ、細胞は死ぬかもしれない。あるいは、細胞は生き延びるが、DNAの変異により、細胞行動が影響を受けるかもしれない。そのような突然変異がわずかに起こっても、癌の発生につながる可能性がある。細胞には、自然にあるいは外部的な要因で起きた様々な形態のDNA損傷を修復する複数のDNA修復系が備わっている。大まかに言うと、DNA修復系は、細胞の遺伝的完全性を復元する役割を持っている。重要なのは、発癌において鍵となる突然変異事象は、しばしば、照射を受けた細胞がある器官に依存し、二つのカテゴリーに属する----単一遺伝子の特定の小さな突然変異、そして、DNAの喪失を伴う突然変異(複数の遺伝子に及ぶこともある)、である。 30. 放射線が細胞DNAに損傷を与えるメカニズムや、損傷を認識し修復するために機能する細胞機構、そして放射線に起因するDNAの突然変異の発生に関する高度な研究から、発癌の機序については新たな知見が得られている。放射線は、DNA二重らせんの鎖を二本とも同時に損傷する可能性があり、それはしばしばDNA分子の破壊とそれに伴う複雑な化学変化をもたらす。 31. DNAに対するこのような複雑な損傷は正しく修復することが困難であり、低線量の放射線であっても、発癌のリスクを上昇させるようなDNAの突然変異が発生する確率はとても小さいがゼロではないというのがあり得べき状況である。したがって、現在、手に入る証拠は、低線量及び低線量率において癌を誘発する変異要素については反応にしきい値がないことを支持する傾向に傾いている。放射線に関わる変異の性質に関する情報は、DNA損失事象(遺伝子欠失)がこの変異要素において支配的である傾向があることを示している。また、高線量及び高線量率における発癌リスクの低減と比較して、低線量及び低線量率における発癌リスクの低減は、少なくとも部分的には、放射線被曝後のDNA損傷に対処する細胞能力と関係しているという証拠も一部にある。線量・線量率効果係数(DDREF)と呼ばれる修正要因が、低線量及び低線量率におけるの相対的減少を考慮するために用いられることがしばしばある。しかしながら、委員会の2006年報告[10]では、低線量におけるリスクを推定するための外挿に、線形二次モデルを直接用いているため、線量・線量率効果係数は適用しなかった。 訳者コメント UNSCEARの2010年報告書の抜粋翻訳です。 以上を読んだ上で、UNSCEARを<サイエンス>と語る長瀧氏と児玉達彦氏の「第4回低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」でのやりとりを見ると、長瀧氏が、実は、UNSCEARの報告を科学的と言いながら、恣意的に都合のよいところしか取り上げていないのではないかとの疑いが生まれます。 | |
原文:http://www.unscear.org/docs/reports/2010/UNSCEAR_2010_Report_M.pdf 国連関係公式文書。 |
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UNSCEAR 2008報告書付録D 「科学的な限界」(64ページ) / 原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)
UNSCEAR 2008 Annex D / UNSCEAR
2. 科学的な限界 93. 放射線のリスクに関する予測を解釈し、伝えることは、困難に満ちている。というのも、そうした予測に本質的に伴う限界を、十分なかたちで伝えることが容易ではないからである。 94. 影響を放射線被曝に帰することをめぐる節...
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2012-03-01 15:29:46
http://trans.trans-aid.jp/viewer/?id=26324
2. 科学的な限界
93. 放射線のリスクに関する予測を解釈し、伝えることは、困難に満ちている。というのも、そうした予測に本質的に伴う限界を、十分なかたちで伝えることが容易ではないからである。 94. 影響を放射線被曝に帰することをめぐる節で既に通り、現在のところ、放射線に固有のバイオマーカーが存在しないため、個人において放射線が特定の癌を引き起こしたと科学的に述べることはできない。これは、特定の個人において、癌が放射線の影響によるものか、あるいは他の原因によるものか、さらに、癌が事故の放射線によるものかバックグランド放射線によるものかは、決定不可能であることを意味する。チェルノブイリ事故の急性放射性症候群生存者の状況は、根本的に異なる。というのも、全員の名前が把握されており、急性放射性症候群の診断がなされ、放射線被曝が原因であることは、確定的な医学的所見に基づいているからである。しかしながら、複数の匿名個人における確率的影響の予測発生数は、実際に確認されたケースと同様の性質であると誤解される可能性がある。 95. 被曝した集団の研究から得られた確率的影響に関するエビデンスの性質をめぐっても、さらなる誤解が起きる。例えば、大規模な集団が0.1シーベルト(100ミリシーベルト)以上の線量を急性被曝すると、発癌と死亡率が上昇することを示す合理的な証拠がある。一方、これまでのところ、原爆生存者に関する最も参考になる研究も、それ以外の成人に関する研究も、それより大幅に小さな線量で発癌が増えたことを示す確定的な証拠はない。 96. 実験に基づく妥当なエビデンスも欠けているため、放射線がもたらす有害な影響の発生頻度が線量にどのように依存しているかは、生物物理学的モデルによってのみ評価することが可能であった。生物物理学的モデルの中では、LNT(線形しきい値なし)モデルが放射線防護の目的で広く使われている[B48, U3]。しかしながら、他のモデル、例えば超線形モデルやしきい値ありモデル、さらにはホルミシスを仮定するモデルさえ、示唆されている。モデリングに基づく予測には、いずれにしても、大幅な統計的不確実性があることを理解することが重要である。予測の範囲は、10倍あるいはそれ以上の幅を持つ。 97. 現在利用できる疫学的データは、3共和国及びその他のヨーロッパ諸国で、20年以上にわたって30ミリシーベルト以下の合計平均線量に被曝してきた地域の住民のコホートに関し、放射能によって病気や死亡が生じたと合理的な確信を持って推量する根拠をまったく提供していない[A11, C1, C11, R4, T4]。増加があったとしても、それは検出限界を下回っているものであろう。同時に、人間及びその他の哺乳類に関する放射線生物学の理解がさらに進むことで、低線量被曝の人間に対する影響について十分なデータが今後得られる可能性、そしてその知識を疫学データに利用する可能性を排除することはできない。将来、こうした研究が、低放射線量地域の住民に対してチェルノブイリ事故による放射線がどのような健康上の影響を与えたかに関する科学的根拠を与えるかもしれない。 UNSCEARのステートメント 98. 委員会(UNSCEAR)は、チェルノブイリ事故による低線量放射線に被曝した集団に対する影響の絶対数を予測するために、どのようなモデルも用いないことにした。モデルに基づく予測には、受け入れがたいほどの不確実性があるからである。ここで述べたアプローチは、放射線防護の目的でLNTモデルを適用することとは、いかなる意味でも矛盾するものではないことを強調しておかなくてはならない。放射線防護においては、これまでも意識的に、用心深いアプローチが適用されてきたのである[F11, I37]。 * * * 以下は、訳者のコメントです。 UNSCEARを科学的根拠に、100ミリシーベルト以下の被曝については影響はないかのような発言をする「専門家」を見かけます。 上の翻訳が示すように、UNSCEARは、とても慎重に、次のような立場を維持しています。
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原文:http://www.unscear.org/docs/reports/2008/11-80076_Report_2008_Annex_D.pdf 国連報告書。公開著作物。 |
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福島とチェルノブイリの原発事故の比較に関する
首相官邸ホームページ専門家グループ解説の医学的疑問点
松崎道幸
(医学博士)
【要旨】
1. 2011年4月15日付首相官邸HP「チェルノブイリ事故との比較」の内容はすべて医学的に誤っている。
(ア) 19名のチェルノブイリ原発内被ばく後死亡者の死因が被ばくと関係なしと述べているが、急性白血病など悪性疾患で5名が亡くなっているのが事実。
(イ) 24万人の除染作業員と数百万人の周辺住民では6千人の甲状腺ガン以外に健康影響はないと断定しているが、WHOなどのごく控えめな見積もりでも、ガンによる超過死亡は今後4千人から9千人と考えられている事実を隠している。
(ウ) 放射線被ばくによって増える病気はガンだけではない。原爆被爆者において、ガン、心臓病、脳卒中など様々な病気のリスクが有意に増えることが分かるまでに40年から50年以上の追跡調査が必要だったのに、事故後わずか20年に満たない時点でチェルノブイリ事故の被ばく者の健康に影響がないと述べることは、原爆被ばくを受けた国の被ばく問題専門家の資格が問われる見過ごすことのできない誤りである。
(エ) 今後チェルノブイリ被爆者の追跡調査が継続されるにつれて、ガン、非ガン性疾患による超過死亡が数万人の単位で発生することが医学的に十分予測される。
2. 政府は、首相官邸HP「チェルノブイリ事故との比較」を削除し、チェルノブイリ事故と福島原発事故の健康影響に関する科学的証拠に基づいた情報を国民に提供すべきである。
2011年3月11日に発生した東日本大震災により福島県の東京電力の原子力発電所で重大事故が発生しました。五重、六重の安全対策が施されているから苛酷事故の懸念はないとして稼働を続けていた福島原発の半径20キロ圏内は立ち入り禁止とされてしまいました。
今回の原発事故による放射能汚染は、すべての国民に大きな健康上の不安を与えています。首相官邸のホームページhttp://www.kantei.go.jp/saigai/senmonka.html
には、国民向けに、幾人かの専門家による放射線被ばくの諸問題に関する解説が掲載されています。
4月15日には、その解説シリーズの3回目として、長瀧重信長崎大学名誉教授と佐々木康人(社)日本アイソトープ協会常務理事による「チェルノブイリ事故との比較」がアップされました。
http://www.kantei.go.jp/saigai/senmonka_g3.html
トップ > 首相官邸災害対策ページ > 福島原発・放射能関連情報 > 原子力災害専門家グループ > チェルノブイリ事故との比較
チェルノブイリ事故との比較
平成23年4月15日
チェルノブイリ事故の健康に対する影響は、20年目にWHO, IAEAなど8つの国際機関と被害を受けた3共和国が合同で発表(注1)し、25年目の今年は国連科学委員会がまとめを発表(注2)した。これらの国際機関の発表と福島原発事故を比較する。
1. 原発内で被ばくした方 *チェルノブイリでは、134名の急性放射線障害が確認され、3週間以内に28名が亡くなっている。その後現在までに19名が亡くなっているが、放射線被ばくとの関係は認められない。 *福島では、原発作業者に急性放射線障害はゼロ(注3)。
2. 事故後、清掃作業に従事した方 *チェルノブイリでは、24万人の被ばく線量は平均100ミリシーベルトで、健康に影響はなかった。 *福島では、この部分はまだ該当者なし。
3. 周辺住民 *チェルノブイリでは、高線量汚染地の27万人は50ミリシーベルト以上、低線量汚染地の500万人は10~20ミリシーベルトの被ばく線量と計算されているが、健康には影響は認められない。例外は小児の甲状腺がんで、汚染された牛乳を無制限に飲用した子供の中で6000人が手術を受け、現在までに15名が亡くなっている。福島の牛乳に関しては、暫定基準300(乳児は100)ベクレル/キログラムを守って、100ベクレル/キログラムを超える牛乳は流通していないので、問題ない。
*福島の周辺住民の現在の被ばく線量は、20ミリシーベルト以下になっているので、放射線の影響は起こらない。
一般論としてIAEAは、「レベル7の放射能漏出があると、広範囲で確率的影響(発がん)のリスクが高まり、確定的影響(身体的障害)も起こり得る」としているが、各論を具体的に検証してみると、上記の通りで福島とチェルノブイリの差異は明らかである。
長瀧 重信 長崎大学名誉教授
(元(財)放射線影響研究所理事長、国際被ばく医療協会名誉会長) 佐々木 康人 (社)日本アイソトープ協会 常務理事 (前 放射線医学総合研究所 理事長)
原典は以下の通り。
[注1]. Health effect of the Chernobyl accident : an overview Fact sheet303 April 2006 (2006年公表) http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs303/en/index.html
[注2]. United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation, SOURCES AND EFFECTS OF IONIZING RADIATION UNSCEAR 2008 Report: Sources, Report to the General Assembly Scientific Annexes VOLUMEⅡ Scientific Annex D HEALTH EFFECTS DUE TO RADIATION FROM THE CHERNOBYL ACCIDENT Ⅶ. GENERAL CONCLUSIONS (2008年原題/2011年公表) P64~ http://www.unscear.org/docs/reports/2008/11-80076_Report_2008_Annex_D.pdf
[注3]. (独)放射線医学総合研究所プレスリリース「3月24日に被ばくした作業員が経過観察で放医研を受診」2011.4.11 http://www.nirs.go.jp/data/pdf/110411.pdf
全体として、チェルノブイリ事故は、一部を除いてほとんど被害が起きなかった、福島事故はそのチェルノブイリよりもはるかに被害が少ないから心配する必要はないというものです。
でも、本当に専門家の方々の言うことを信じてもよいのかを、引用された原典を直接読んで、私なりに検討してみることにしました。
(注:この文書を通して、被ばくの度合いを表す単位Sv(シーベルト)、GY(グレイ)が使われています。臨界事故など中性子線が出ていない被ばくの場合Sv = Gyとしてよいので、チェルノブイリの場合も福島の場合も Sv と Gy は同じと考えてください。)
ところで、この専門家の見解は、官邸の引用した原典[注2](UNSCEAR2006 年報告書)の64 ペー
ジ「一般的結論」の記述に沿ったものです。
【UNSCEAR2006年報告書:松崎訳】
A. 放射線被ばくによる健康リスク
99.放射線被ばくが原因であると現時点で判定される
健康影響は以下の通りである:
- 高線量被ばくに見舞われ急性放射線症候群
(ARS)を発症した134名の発電所職員と緊急作業員。
多くはベータ線被ばくにより皮膚に損傷を受けていた。
- 高線量被ばくにより、28名が死亡した。
- 急性期死亡を免れた急性放射線症候群発症者の
うち19名が2006年までに死亡した。死因は様々である
が、放射線被ばくと関連のないものが多かった。
- 生存したARSの主な後遺疾患は皮膚の損傷と放射
線白内障だった。
- 緊急作業員以外に、数百万人の人々が除染復旧
作業に従事したが、現在までに、高線量被ばく集団に
おける白血病と白内障の増加を除き、放射線被ばくの
影響と考えられる健康被害が発生している証拠はない。
- 迅速な対策が取られなかったために、放射性ヨード
で汚染された牛乳により一般住民の甲状腺が甚大な被
曝を受けた。このため、事故当時こどもあるいは若者
だった集団から現在までに6,000名以上の甲状腺ガン
が発生した(2,005年までに15名が死亡)。
- 現在までに、一般住民に放射線被ばくのために上
記以外の健康被害が生じたとの説得力のある証拠は
ない。
1. 原発内で被ばくした方
*チェルノブイリでは、134名の急性放射線障害が確
認され、3週間以内に28名が亡くなっている。その後
現在までに19名が亡くなっているが、放射線被ばくと
の関係は認められない。
*福島では、原発作業者に急性放射線障害はゼロ
(注3)。
2. 事故後、清掃作業に従事した方
*チェルノブイリでは、24万人の被ばく線量は平均
100ミリシーベルトで、健康に影響はなかった。
*福島では、この部分はまだ該当者なし。
3. 周辺住民
*チェルノブイリでは、高線量汚染地の27万人は50ミリ
シーベルト以上、低線量汚染地の500万人は10~20ミリ
シーベルトの被ばく線量と計算されているが、健康には影
響は認められない。例外は小児の甲状腺がんで、汚染
された牛乳を無制限に飲用した子供の中で6000人が
手術を受け、現在までに15名が亡くなっている。福島
の牛乳に関しては、暫定基準300(乳児は100)ベクレル
/キログラムを守って、100ベクレル/キログラムを超える牛乳
は流通していないので、問題ない。
*福島の周辺住民の現在の被ばく線量は、20ミリシーベ
ルト以下になっているので、放射線の影響は起こらない。
それでは順に、これらの記述が医学的に妥当かどうか検討してみます。なおUNSCEAR2006 年報
告書の結論に対する私の評価を文末【参考 1】に示しました。
<検証1>
1. 原発内で被ばくした方
*チェルノブイリでは、134 名の急性放射線障害が確認され、3 週間以内に28 名が亡くなって
いる。その後現在までに19名が亡くなっているが、放射線被ばくとの関係は認められない。
*福島では、原発作業者に急性放射線障害はゼロ(注3)。
はは医学的に妥当か?
この官邸HPの最初の部分は、チェルノブイリの原子炉の最も近くで、いわば「決死隊」として作業を行った134名の方々の運命を述べています。官邸HPは、被曝による慢性期死亡はゼロと述べています。
「チェルノブイリでは、134名の急性放射線障害が確認され、3週間以内に28名が亡くなっている。その後現在までに19名が亡くなっているが、放射線被ばくとの関係は認められない。」
この網掛部は、原典(UNSCEAR 2008年報告書)では、
While 19 ARS survivors have died up to 2006, their deaths have been for various reasons, and usually not associated with radiation exposure(急性期死亡を免れた急性放射線症候群発症者のうち19名が2006年までに死亡した。死因は様々であるが、放射線被ばくと関連のないものが多かった:松崎訳)
と表現されています。官邸HPでは、被曝との関係はないと断定していますが、原典(UNSCEAR 2008年報告書)では、「被曝と関連のないものが多かった」と、あいまいな表現になっています。
急性放射線症候群に罹患し3週間までに命を落とさずに済んだが、「その後現在までに」亡くなった「19名」の病状の詳細が「注2」の原典のどこかに書かれているはずです。それを直接確認することによって、この官邸HPの表現が適切かどうかわかるはずです。
…
ありました!
[注2]「UNSCEAR 2008年報告書」の189ページ、「表D7 Causes of death among Chernobyl ARS survivors in the later period(チェルノブイリの急性放射線症候群罹患者の事故における死因)」がそれです。コラム1の[注2]のリンクをクリックしてダウンロードされた報告書の145ページ目(通し番号では189ページ目)に表D7が載っています。
事故から1年後以降に亡くなった19人のイニシャル、急性放射線症候群重症度、死亡年度、年齢、死因が記載されていました。下の囲みに、私が死亡年令順に並べ替えて和訳し、病名の説明など注釈を加えました。
http://www.unscear.org/docs/reports/2008/11-80076_Report_2008_Annex_D
189ページTab D7「チェルノブイリ急性放射線症候群罹患除原発内除染作業従事者の長期予後」を松崎改編 (放射線被曝と関連がある血液疾患・悪性腫瘍を網掛で示した。)
死亡年齢(才)
死亡年
急性放射線症候群重症度*
死因
26
1995
Ⅰ
急性心臓死
41
1993
Ⅰ
急性心臓死
41
2004
Ⅲ
肺結核
45
1998
Ⅱ
肝硬変
46
1995
Ⅱ
肝硬変
51
1995
Ⅰ
肺結核 51 2002 Ⅰ 骨髄異形成症候群**
51
2002
Ⅰ
外傷 52 1993 Ⅲ 骨髄異形成症候群
53
1995
Ⅰ
外傷性脂肪塞栓症候群 53 2004 Ⅱ 下顎神経鞘腫*** 61 1998 Ⅱ 急性骨髄単球性白血病****
61
1999
Ⅱ
脳卒中 64 1995 Ⅲ 骨髄異形成症候群
67
1992
Ⅲ
急性心臓死
68
1990
Ⅱ
急性心臓死
80
1998
Ⅱ
急性心臓死
81
1987
Ⅱ
肺壊疽
87
2001
Ⅲ
急性心臓死
【松崎注】
*急性放射線症候群重症度 Ⅰ:1~2Gy Ⅱ:2~4Gy Ⅲ:4~6Gy
**骨髄異形成症候群は血液のガンの一種。原爆被爆の関連については下記参照:
http://www.rerf.or.jp/library/rr/rr0914.pdf
…原爆被爆後40–60年経過していても、MDS(骨髄異形成症候群)発生と被曝線量には有意な線形線量反応関係が認められた。
***神経鞘腫の多くは良性腫瘍だが、死因として挙げられていることを考えると、悪性だったと思われる。
****急性骨髄単球性白血病は急性骨髄性白血病の一種。
「原子放射線による影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」は、この表D7をもとにして、「急性期死亡を免れた急性放射線症候群発症者のうち19名が2006年までに死亡した。死因は様々であるが、放射線被ばくと関連のないものが多かった。(While 19 ARS survivors have died up to 2006, their deaths have been for various reasons, and usually not associated with radiation exposure)」という結論を出したことになります。
そして、官邸の専門家は、原典の表D7までさかのぼって確認したのではなく、おそらくこの「結論」だけを見て、それを「その後現在までに19名が亡くなっているが、放射線被ばくとの関係は認められない。」と断定調に書き換えてホームページに出したと想像されます。
さて、表D7を実際にご覧になり、原典の原文をお読みになって、亡くなられた19名の死因について「放射線被ばくとの関係は認められない」と断定調に言うことができるでしょうか?
ここで、表D7を分析してみましょう。
1. 19名のうち3名が「骨髄異形成症候群」で亡くなっています。放射線被ばく関連疾患でもある骨髄異形成症候群は主に中高年令者の病気です。欧米における患者年令の中央値は70歳で、発病者数は1年間に10万人あたり3~10名です。ですから、16年間に19名中3名がこの病気で亡くなったということは、通常のおよそ300倍の発生率という計算になります。この集団がこの病気を発病する外的要因(=放射線被ばく)に極めて高度に曝露された結果であると考えざるを得ません。
2. さらに、もう一人が急性白血病で亡くなっています。
3. また、53才という比較的若年で神経鞘腫という腫瘍で亡くなった方もおられたわけです。
このように、実際の死因を検討すると、19人中5人が放射線被ばくと関連の深い悪性疾患で亡くなったと解釈する方が医学的に妥当だと考えられます。
さらに言うと、他の14名は心臓病、脳卒中、肝臓病などで死亡していますが、原爆被爆者では、これらの病気で死亡するリスクが高まっていることが明らかにされています。したがって、これらの人々の死亡を喫煙や飲酒などのライフスタイルの問題にすべて帰することは単純な見方であると思われます。放射線被ばくがこれらの人々の命を縮める大きな要因の一つであると捉える必要があります。
私は、原発内で被ばくした労働者の後期の死因に関する「原子放射線による影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」の結論「こそが」間違っていると思います。
UNSCEARは、心臓病や肝臓病のような「一見」放射線被ばくと関連のないように見える病気で亡くなる方が多かったことを隠れ蓑にして、ガンや白血病とその関連疾患で5人が亡くなった事実をなるべく伏せておきたいと望んでいるように感じられます。
一方、日本国の専門家の方々が、「原子放射線による影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」の結論を「鵜呑み」にしていなければ、そして、それを断定調に「書き換える」ことなしには、官邸HPの「放射線被ばくとの関係は認められない」という記述は出てこないでしょう。何故なら、この分野で最高の知性を持たれる日本の専門家の方々が、原典の「Tab D7」を見ていたなら、当然原典の結論が不適切だということがすぐに理解できるはずだからです。
したがって、官邸HPの①はこのように書き換える必要があります。
原発内で被ばくした方 「その後現在までに19名が亡くなっているが、放射線被ばくとの関係は認められない。」 ↓ 「その後現在までに19名が亡くなっているが、うち5名が白血病や悪性腫瘍などの放射線被ばくとの関係が深い疾患で亡くなっている。」
この点について是非とも専門家の方々のご意見をお伺いしたいと思います。
<検証2>
2. 事故後、清掃作業に従事した方 *チェルノブイリでは、24万人の被ばく線量は平均100ミリシーベルトで、健康に影響はなかった。 3. 周辺住民 *チェルノブイリでは、高線量汚染地の27万人は50ミリシーベルト以上、低線量汚染地の500万人は10~20ミリシーベルトの被ばく線量と計算されているが、健康には影響は認められない。
は医学的に妥当か?
官邸HPは「事故後、清掃作業に従事した方」も「周辺住民」も「健康に影響は」認められないと述べていますが、これは誤りです。それは以下の理由によります。
1. すでにWHOなどが将来4千人~9千人規模でガンが増える(超過発生する)とした推計値を公表ししており、このことは国際的コンセンサスになっている。
2. 原爆被爆者の追跡調査でガンが有意に増えると判明するまでに40年、心臓病・脳卒中などの非ガン性疾患が有意に増えることが分かるまでに50年以上かかっており、現時点で、チェルノブイリ事故の健康影響をすべて予測することはできない。
3. 低線量被ばくでは健康影響が起きないという前提で事態を判断することは非科学的である。チェルノブイリ被爆者の追跡調査が進むにつれて、原爆被爆者に匹敵する健康影響が生ずると予測することは医学的に妥当である。10~20ミリシーベルト程度の低線量被ばくを受けた数百万人の住民の非ガン性リスクがたとえ1%増加するだけで、超過死亡数が数万人に達する恐れがある。
【1】 ガンによる超過死亡は控えめでも4千~9千人と予測されている
チェルノブイリ事故で放射線被ばくした除染作業員と周辺住民のガンがどれほど増えるかについては、
①チェルノブイリフォーラムの2005年9月報告書(The Chernobyl Forum;「Chernobyl’s Legacy: Health, Environmental and Socio-economic Impacts and Recommendations to the Governments of Belarus, the Russian Federation and Ukraine」, IAEA(2005))が4,000人、
②WHOの2006年4月報告書(これは首相官邸HP原典[注1]のことです)が9,000人という推定超過発生数を公表しています。
財団法人電力中央研究所、原子力技術研究所、放射線安全研究センターが②WHO2006年報告書の「表12」(p.108)より作成した「チェルノブイリ事故による過剰がん死亡の予測」を下記に示します。http://criepi.denken.or.jp/jp/ldrc/study/topics/20060904.html
表(pdfのため転載不可):
①と②の過剰ガン死亡数の違いは、Dのその他の汚染地域住民数百万人の分を加えるかどうか(表の網掛け部分)にあります。低線量被ばくでもたくさんの人々が被ばくすると、ガンを発病する方の絶対数は増えるわけです。私は放射線被ばく量にガンのリスクの増えない閾値はないと考
えますので、②の9千人という推計が妥当だと考えますが。
今後数千人(私はごく控えめな見積もりだと考えますが)のガンが被ばくのために発生するとの予測が、ご自身が主張の根拠とされた「原典」に明確に記載されているのに、なぜこれ以上の健康被害が発生する心配はないかのような断定調でお書きになるのでしょうか?
【2】 原爆被爆による健康被害がある程度明らかになるまでに数十年必要だった
チェルノブイリ事故は1986年に発生しました。UNSCEAR2008年報告書は、2005年までの調査データをもとに書かれていますので、19年間の追跡調査成績ということになります。
官邸HPは、チェルノブイリ事故の影響についてのファイナルアンサーとして、除染作業者も一般住民も健康に影響なしと述べています。放射線被ばくによるすべての健康被害は、最初の19年間で出尽くすでしょうか?広島・長崎の原爆被爆者ではどうだったでしょうか?以下に私の見解を示します。
財団法人放射線影響研究所(放影研)の「寿命調査(LSS)」
放影研は、被爆者における死亡や癌の発生を長期にわたって調査する追跡調査のために、広島市または長崎市で直接被爆した約28万人の中から、1950年10月1日の国勢調査時に広島市または長崎市に居住していた約9万人を選び「寿命調査(Life Span Study, LSS)」という前向き調査集団を設定しました。
1945年の被曝から52年後の1997年までの13回にわたる追跡調査の結果が下記のリンクにまとめられています。
http://www.rerf.or.jp/library/archives/lsstitle.html
これをさらにまとめたのが下の表です。(より詳しくは文末【参考 1】を参照)
原爆被爆者の固形ガンおよび非ガン性疾患と被爆の関連についての結論:追跡期間別
(放影研資料に基づき松崎要約)
http://www.rerf.or.jp/library/archives/lsstitle.html
追跡年数
(1945年~) 固形ガンと被爆の関連 ガン以外の疾患と被爆の関連
14年後 女性の胃ガン・子宮ガン軽度増加 関連なし
21年後 高線量被曝露群で発ガン率増加始まる 記述なし
25年後 固形ガンの「顕著」な増加始まる 記述なし
29年後 低線量域での発ガンの有無は資料不足で不明 被曝による死亡率増加なし
33年後 固形ガンの増加著明。有意増のガン種類増加 被曝による死亡率増加なし
37年後 引き続き多くのガン種類が被曝で有意に増加 記述なし
40年後 全ガンリスクの増加が引き続き観察される 高線量域で発病リスク増加の傾向あり
45年後 被爆時30歳で1Sv当り10~14%発ガンリスク増加 循環器疾患等が1Sv当り10%有意に増加
52年後 被爆時30歳で1Sv当り47%発ガンリスク増加 循環器疾患等が1Sv当り14%有意に増加。
この表を見ると、白血病以外のガン(固形ガン)と被曝の関係がはっきり現れるまでに30~40年以上の時間が必要だったことが分かります。
ガンの発病リスクが1シーベルトにつき50%増えることがわかったのは、被曝から52年たってからでした。その7年前の調査では、1シーベルト当り10%台のリスク増加にとどまっていたのです。被曝の影響のありなしの結論を出すには、とても長い期間が必要だということを思い知らされます。
さらに、心臓病や脳卒中も被曝によって増加することが分かってきました。このことが最初に見えてきたのは、被爆から40年後でした。
追跡期間が長くなればなるほど、1シーベルトあたりの疾患リスクが増加し、より低線量域でのリスク増加が有意となってきています。
ですから、放射線被爆から20年間しか経っていない時点で、ある特定の病気と放射線被ばくには関係がないとか、低線量では被曝の影響がないと、断定的に言うことは不可能であり、非科学的なのです。
【3】 低線量被ばく:原爆被爆者追跡調査ではガンに閾値なし。心臓病も閾値のない可能性あり
低線量被ばくの問題
① ガン
放影研は、これまで示したデータをもとにして、「腫瘍登録は広島では1957年、長崎では1958年に開始された。1958年から1998年の間に、寿命調査(LSS)集団の中で被曝線量が0.005 Gy(5ミリシーベルト:著者注)以上の44,635人中、7,851人に白血病以外のがん(同一人に複数のがんを生じた場合は、最初のもののみ)が見いだされ、過剰症例は848例(10.7%)と推定されている(上表)。線量反応関係は線形のようであり、明らかなしきい線量(それ以下の線量では影響が見られない線量のこと)は観察されていない(下図)。」と述べています。(太字松崎)
http://www.rerf.or.jp/radefx/late/cancrisk.html
原爆被爆の健康影響を検討してきた中心的研究所が、20mSvであろうと100mSvであろうと、その被曝に応じてガンリスクが増加だろうという見解を発表しているのに、官邸HPの「専門家」が「チェルノブイリでは、24万人の被ばく線量は平均100ミリシーベルトで、健康に影響はなかった」とか、「チェルノブイリでは、高線量汚染地の27万人は50ミリシーベルト以上、低線量汚染地の500万人は10~20ミリシーベルトの被ばく線量と計算されているが、健康には影響は認められない」と被ばくの影響を完全に否定したことは、医学的に明白な間違いです。わずかな被曝でもそれに見合った発ガンリスクの増加があるはずだとして対策を講ずるのが常識的なやり方です。(【参考 2】に原爆とチェルノブイリ被爆者の被ばく人数・被ばく量の比較を示しました。)
表(pdfのため転載不可):
LSS集団における固形がん発生の過剰相対リスク(線量別)、1958-1998年。
(Gy≒シーベルト)
太い実線は、被爆時年齢30歳の人が70歳に達した場合に当てはめた、男女平均過剰相対リスク(ERR)の線形線量反応を示す。太い破線は、線量区分別リスクを平滑化したノンパラメトリックな推定値であり、細い破線はこの平滑化推定値の上下1標準誤差を示す。
② 心臓病・脳卒中
脳卒中と心臓病は、原爆被爆者の超過死因として癌の3分の1の数をもたらしています。なかでも原爆被爆と心臓病については、下表に示すように、追跡期間が長くなり、対象症例数が増えるにつれて、より低線量でも有意な関連が認められるようになってきました。
表(pdfのため転載不可):
2010年に英国医学雑誌(BMJ)に原爆被爆者の心臓病が低線量被ばくでも増加すると述べた論文が掲載されました。(上表BMJ)
http://www.bmj.com/content/340/bmj.b5349.full
BMJ論文では、0.5シーベルト以上で原爆被爆が心臓病を有意に増やすと結論されました。
さて、問題は0.5シーベルト以下の低線量でも心臓病リスクが増えるかどうかです。BMJ論文では、今まで明らかになった被ばく線量と心臓病リスクの増加度を下図にまとめて検討して、次のような見解を述べています。
「…本研究により、中等度(主に0.5~2グレイ)の放射線被曝により脳卒中と心臓病の発生率が増す可能性があるという現在入手できる最も強固な証拠が明らかにされた。しかし、確定的な証拠を得るにはさらに研究が必要である。われわれの研究では、0.5グレイ未満の線量域で有意な関連が見られなかったが、今後引き続く追跡調査によって症例を追加することにより、低線量域におけるリスクがより正確に推定できるであろう。」(原文:This study provides the strongest evidence available to date that radiation may increase the rates of stroke and heart disease at moderate dose levels (mainly 0.5-2 Gy), but robust confirmatory evidence from other studies is needed. Although our results below 0.5 Gy are not statistically significant, the additional cases occurring with further follow-up time should provide more precise estimates of the risk at low doses. )
BMJ誌がこのように、今後の追跡調査で、より低線量でも、有意な関連が出る可能性があるということを示唆する表現で論文を締めくくったのは、被ばく線量と心臓病のリスクの関連を閾値のない線形関係で表示することが統計学的に最も適切であると予見されたからです。
表(pdfのため転載不可):
坪野吉孝氏(前東北大学教授:健康政策・公衆衛生学)は、前記BMJ論文について、自身のブログで次のようにコメントしています。疫学データの解釈の仕方として、とても参考になると思われるますので、全文を紹介させていただきます。
坪野吉孝 疫学批評-医学ジャーナルで世界を読む-http://blog.livedoor.jp/ytsubono/
(太字松崎 )
広島長崎の被爆者、被曝線量の増加で心臓病と脳卒中の死亡リスクが上昇。(2010年1月25日)
広島長崎で原爆に被爆し1950-1953年の時点で生存していた86,611人を2003年末まで追跡したところ、推定被曝線量が1Gy(グレイ)高くなるごとに、心臓病の死亡率は14%、脳卒中の死亡リスクは9%ずつ上昇した。論文はBritish Medical Journal電子版に2010年1月14日掲載された。
1950-1953年、対象者の被曝時の状況(爆心地からの距離、屋内にいたか屋外にいたかなど)を調査し、その結果をもとに個人ごとの放射線被曝量を推定した。被曝線量に応じて、対象者を22のグループに分けた。被曝線量が最小のグループは0以上0.005Gy未満、最大のグループは3Gy以上で、対象者の86%の被曝線量は0.2Gy未満だった。2003年末までの追跡調査で、心臓病死亡8,463人、脳卒中死亡9,622人を確認した。
その結果、閾値(それ以下の被曝線量ではリスクが上昇しないという上限値)がなく、被曝線量に応じてリスクが直線的に上昇するという、通常の前提を採用して分析したところ、被曝線量が1Gy(グレイ)高くなるごとに、心臓病の死亡率は14%、脳卒中の死亡リスクは9%ずつ上昇した。
リスクの上昇が直線的と想定した場合と、二次曲線的(被曝線量が小さいとリスク上昇はより小さく、被曝線量が大きいとリスク上昇はより大きくなる)と想定した場合を比べたところ、心臓病でも脳卒中でも、直線的なモデルと比べて二次曲線的なモデルの方が、よりよくデータに当てはまるということはなかった。脳卒中では、二次曲線的なモデルの方が直線的なモデルよりわずかにデータの当てはまりが改善したが、改善の程度は誤差範囲に留まった。
また閾値の存在について検証したところ、心臓病では閾値の存在は否定的だった。一方、脳卒中では、0.5Gy未満のグループのリスク上昇が誤差範囲に留まることなどから、0.5Gyを閾値の推定値として示している。
著者らによると、被曝者での今回と同様の分析は何度か報告されてきたが、今回は直近の報告から追跡期間を6年間延長し、心臓病や脳卒中などの死亡数が25%増えている。その上で、著者らは、中等量の放射線(おおむね0.5-2Gy)が心臓病と脳卒中の率を上昇させる点について、今回の研究はこれまでで最も強固な知見をもたらすものだと結論している。同時に、0.5Gy未満での結果は誤差範囲に留まるものだが、追跡期間を延長して追加の症例が発生することで、低線量のリスクについてより正確な推計がもたらされるだろうと述べている。
⇒著者らは、0.5Gy未満のグループのリスク上昇が誤差範囲に留まることなどを根拠として、放射線による脳卒中のリスク上昇には閾値が存在することを示唆している。しかし、脳卒中のリスク上昇が誤差範囲に留まるのは、より高線量のグループ(0.75Gy付近や1.5Gy付近)でも同様だ。また、著者らが閾値の存在に否定的な心臓病についても、0.5Gy未満のグループに留まらず、より高線量のグループ(1.5Gy付近や2.5Gy付近)でも、結果は誤差範囲に留まっている。
したがって、個別のグループごとの結果に基づいて被曝線量とリスクの量的関係を論じたり、閾値の存在を示唆したりすることが適切とは思えない。すべてのグループのデータを考慮し、「閾値がなく、被曝線量に応じてリスクが直線的に上昇する」という通常の前提を採用して得られた結果(1Gyあたり心臓病死亡リスクが14%、脳卒中死亡リスクが9%上昇)を、今回の主要な知見とみなすがの適切だろう。
要するにここでは、「最も単純な説明が最良の説明である」という「オッカムの剃刀」の原理を適用すべきだろう。その原理を強力に反証するデータが出てきた時に初めて(直線モデルより二次曲線モデルの方が明らかにデータの当てはまりがよい、0.5Gy未満のリスク上昇は誤差範囲だが、0.5Gy以上では誤差範囲を超えるリスク上昇がある)、直線モデルの妥当性や閾値の存在の可能性を議論すべきではないか。少なくとも、「0.5Gy未満の被曝線量では脳卒中死亡リスクが上昇しない」という形で、今回の結果を行政的に利用することが不適切であることは指摘しておきたい。
同誌サイトより全文を無料で閲覧できる。
これまで示したように、100mSv以下の低線量被ばくでも、ガンは有意に増え、心臓病もそうである可能性があることが分かっています。これらのデータは被曝時に大人だった人もこどもだった人も含めたものでありますので、もし、こどもに限れば、被ばくの健康被害リスクはさらに何割あるいは何倍も増加すると考えられます。
低線量被ばくの健康影響に関しては、さらに長年多人数の被ばく者を追跡調査することにより、さらに明らかになるでしょう。そして、福島原発の被ばくについても、しっかりと資源を投入して追跡調査を行ってゆくことが、被ばくの影響を減らすための大前提です。
結論
したがって、官邸HPの①はこのように書き換える必要があります。
2. 事故後、清掃作業に従事した方 *チェルノブイリでは、24万人の被ばく線量は平均100ミリシーベルトで、健康に影響はなかった。 3. 周辺住民 *チェルノブイリでは、高線量汚染地の27万人は50ミリシーベルト以上、低線量汚染地の500万人は10~20ミリシーベルトの被ばく線量と計算されているが、健康には影響は認められない。 ↓ 2. 事故後、清掃作業に従事した方 *チェルノブイリでは、24万人の被ばく線量は平均100ミリシーベルトで、今後健康に無視できない大きな悪影響がもたらされる懸念が大きい。 3. 周辺住民 *チェルノブイリでは、高線量汚染地の27万人は50ミリシーベルト以上、低線量汚染地の500万人は10~20ミリシーベルトの被ばく線量と計算されており、原爆被爆者の追跡調査成績から推測すると、少なくない超過死亡者の発生が予測される。またガンだけに限らず、心臓病・脳卒中など様々な種類の非ガン疾患の増加が生ずる可能性があることにも留意すべきである。 以上から、被ばくの実態をしっかり把握しつつ、予想される健康被害を可能な限り予防軽減するための手厚い対策を講ずることが急務である。
【追補】 UNSCEAR2008報告書 結論部に対する批判的コメント(松崎)
官邸HPが原典として引用しているUNSCEAR2008報告書には、チェルノブイリの除染労働者と一般住民の「長期的」健康影響に関する「結論」が書かれています(下囲み)。各項毎に、【】内で私の見解を述べています。本稿の前半で示した図表データなどを想起しながら、お読みください。
UNSCEAR2008報告書(185ページ~)
http://www.unscear.org/docs/reports/2008/11-80076_Report_2008_Annex_D.pdf
補遺D 後期健康影響
Ⅳ 一般的結論
D272~D280(固形ガン・白血病・非ガン性疾患)
(松崎訳・【松崎コメント】)
D272.除染作業者の白血病リスクが明らかに増加しているといういくつかの証拠が、主にロシア連邦での研究から得られた。しかし、現在のところ、このリスク推計を直接日本の原爆被爆者のような高線量あるいは高線量率の被曝集団から得られた調査成績と比較することは時期尚早である。除染作業労働者に関する研究調査の限界と不十分点に留意する必要がある。しかし、これらの調査から将来意義のある知見が生み出されることが期待される。
【確かにチェルノブイリの高線量被ばく者は少ないが、低線量被ばく者は数倍存在するから、今後の追跡により、低線量領域での健康影響はより詳細正確につかむことができるだろう。】
D273.現時点で、最も汚染された3共和国の一般住民の全固形ガンあるいは乳ガンリスクの明らかな増加を示す説得力のある証拠はない。これらの国において放射能汚染の少ない地域と比較して汚染の高度な地域でリスクが増加している現象は観察されない。また異なる放射能汚染度の地域間で、時間経過とともにガンの発生率に差が出てくることも観察されない。除染作業労働者の固形ガン発生率に関して、標準化罹患比の増加が観察された集団がいくつか存在する。しかし単位線量当たりのガン発生数の定量的推計値は発表されていない。
【わずか20年の追跡調査で明らかな結論が出ないのは「寿命調査」に照らせば当たり前。今後さらに30年以上の長期観察が必要】
D274.現在までの追跡調査と原爆被爆者などを対象とした調査研究の知見を用いて評価を行うと、本事故による一般住民の被ばく量はとても少ないため、たとえあったとしてもわずかな全固形ガンリスク増加を検出できる十分な統計学的パワーを持つ調査はできそうにもないと思われる。この事故によって超過発生すると予測されるガン患者数は、ベースラインのガン患者数よりはるかに少ないだろうが、絶対数としては、大きな数字になる可能性がある。もちろん、これまでに行われた調査結果から考えると、現在想定されているリスクモデルの予想値を大きく超える数字になる可能性はないだろうが。
【前項と同じ】
D275. 略(自己免疫性甲状腺疾患に関する項目)
D276.チェルノブイリの事故による放射線被ばくが心臓病や脳卒中の発生率と死亡率を有意に増加させることを示す確実な証拠は皆無に等しい。ロシア連邦の除染作業労働者で被ばく量と心臓病死亡率と脳卒中発症率が有意に正相関することを示した研究が1件存在する。この研究結果は、原爆被爆者を対象とした調査成績と統計学的に一致するが、4グレイ以下の被ばく量線量と心臓病の関連を検討した他の諸調査の成績とは一致しない。それだけでなく、チェルノブイリ除染作業労働者における心臓病リスクの増加までの期間は、他の調査で示された潜伏期間と一致していない。チェルノブイリ事故による放射線被ばくが心臓病と脳卒中のリスクを増やすか否かを決めるにはより説得力のある証拠が必要であろう。
【心臓病や脳卒中と原爆被爆との有意な関連が観察され始めたのが、被爆から45年後である。わずか20年で結論を出すことはできない】
D277.略(放射線白内障に関する項目)
D278.放射線被ばくにより増加する可能性のある疾患が実際に増えていたことを見出した調査が一件存在するとはいえ、その増加が放射線被ばくで生じたとの結論を出すためには、因果関係(つまりその関連が原因と結果の関係にあること)の検討が必要である。工業的汚染、環境因子(たとえば土壌中のヨード濃度)、ライフスタイル(喫煙、飲酒など)、出産歴、診断法の進歩、対象集団に対する医療的介入の増加(検診など)をはじめとした可能性のある交絡因子とバイアス因子を詳細に検討する必要がある。
【これは疫学的手法として当然のことを言っているだけ。】
D279.放射線被ばくを受けた大集団の健康リスクは、別の被ばく事象を調査して得られた疫学的研究と生物物理学的モデルから作成された被ばくリスクモデルに基づいて予測されることが多い。そのようなリスク予測の実際的な目的は、その集団のヘルスケア計画を決定したり、一般住民に情報を提供するためであることが多い。閾値のない線形モデルを用いたチェルノブイリ事故の健康被害の予測が様々なグループによって行われてきた。しかし、これらの疫学的研究から得られたデータには限界がある。0.1Sv以下の線量域では、放射線被ばくがもたらす健康影響に関する実験成績が不明瞭であり、リスク係数の不確実性が大きい。したがって、低線量領域におけるいかなる被ばくリスクの予測も極めて不確実なものとなることを認識すべきである。とりわけ、長期間ごくわずかな超過放射線被ばくを受けている非常に大人数の集団のガン死亡リスクを集団実効線量によって推計する場合にこのことが言える。生物学的、統計学的不確実性が過大であるため、集団実効線量をリスク予測に用いることは不適切である。
【日本の被爆者調査が、0.1Sv以下の線量域でもガンのリスクが有意に上がること、心臓血管疾患など非ガン性疾患のリスクも有意に上がる可能性があることなどを見出すのに50年かかった。20年のみの追跡調査で「限界」とか「不確実性が大きい」などと言うのは科学的立場に立っているとは言えない。原爆被爆者の追跡調査に多くを学ぶべきだろう。】
D280.20年の研究調査に基づき、今回UNSCEAR2000年報告書の結論が立証された。基本的には、小児期にチェルノブイリ事故による放射性ヨウ素に曝露された者と高線量被ばくを受けた緊急作業員と除染作業員は、放射線被ばくによる健康障害のリスクが大きい。自然放射線と同じか2~3倍の強度の低濃度放射線被ばくを受けただけの極めて多数の人々は、深刻な健康影響を心配する必要はない。このことは、チェルノブイリ事故で最も汚染されたベラルーシ、ロシア、ウクライナ三カ国の人々にあてはまる。ましてや、他のヨーロッパ諸国の住民における懸念はさらに小さい。チェルノブイリ事故によって生活と人生は大きな被害を受けた。しかし、多くの人々の健康は将来にわたって損なわれることはないだろうという放射線学的見解が行き渡ることが望まれる。
【2000年報告書の結論が2008年報告書で立証されたと言うが、事故からわずか14年後(2000年)の時点での結論が被害の最終的全貌を表すものでないことは言うまでもない。この「結論」を読むと、UNSCEARの見解の浅さが分かる。緊急作業者の死因についてさえ本当のことを言わないUNSCEARの姿勢を変えなければ、数千万人の一般市民の健康被害がゼロに等しいという「気休め」のメッセージの信ぴょう性も疑いの目を以て受け止められざるを得ないだろう。】
【参考 1】 原爆被爆による固形ガンと非ガン性疾患の関連:追跡調査別所見の要点
(寿命調査LSS調査の要約から抜粋:松崎)
http://www.rerf.or.jp/library/archives/lsstitle.html
寿命調査(LLS)
要約抜粋
(【ガン】=固形ガン;【非ガン】=非ガン性疾患)
被曝14年後
第2報
1950-59年
【ガン】白血病を除く悪性新生物死亡率に関する知見と原田、石田がすでに発表した広島の腫瘍登録からの知見との間に大きな差異がある。多量の放射線を受けた被爆者の間ですべての部位の腫瘍が増加する所見は認められなかったが、広島の女性に軽度であるが明瞭な増加が観察できた。この増加は主として第1に胃癌、第2に子宮癌の頻度の増加のためと考えられる。広島の男性、長崎の両性にはかかる増加は観察できない。また増加は急性放射線症状の有無に無関係であるようにみえる。現在のところこの知見を解釈することができない。 【非ガン】至近距離被爆者の悪性新生物以外の病死が増加するという確認はない。
21年後
第5報
1950-66年
【ガン】今回の解析で得られた重要な新しい所見は、1945年に最も多量の放射線つまり 180rad(注:100rad=1Sv)以上を受けた群において、1962-66年の期間の癌(白血病を除く)の罹病率が増加していたことである。部位別にみた場合ではすべての部位を合計した場合に匹敵するほどの強い関係は認められなかった。したがって、遅発性の全般的な発癌効果が現われ始めたと暫定的に結論した。1962-66年間の癌による死亡者は、100rad当たり約20%増加したと推定される。
25年後
第6報
1950-70年
【ガン】その他の癌の頻度は、この観察期間中上昇し、最後の期間である1965-70年においてはその上昇が顕著であった。したがって、白血病を除く癌の誘発に必要な潜伏期は、被爆者が受けた放射線量の範囲内ではだいたい 20年以上であろうと思われる。
29年後
第8報
1950-74年
【ガン】広島の白血病以外の特定な癌については、低線量域の線量反応曲線の形を確信をもって示すことができるほど資料が多くない。この線量域の反応曲線は、電離放射線の危険を最少限にするための公的方針を設定するには非常に重大である。広島の白血病の曲線は直線であると容認できるが、長崎の資料は残念ながら標本誤差の観点から劣っているので白血病の線量反応関数に対する線エネルギー付与(LET)の影響を評価するには大きな価値はない。その他の主な部位の癌については広島の資料はあまり断定的でない。もっと多くの資料がなくては線量反応関数曲線を確定することはできない。
33年後
第9報
1950-78年
【ガン】白血病以外の癌の絶対危険度の増加は、対象集団の高齢化と共に顕著になってきており、特に長崎では今回初めて統計的に有意となった。前報で既に述べた肺癌、乳癌、胃癌、食道癌、泌尿器癌に加えて、今回の解析では結腸癌と多発性骨髄腫も放射線被曝と有意な関連を示した。しかし悪性リンパ腫、直腸癌、膵臓癌および子宮癌については放射線との有意な関係は今のところ認められない。
【非ガン】生命表方法によって推定した癌以外の死因による累積死亡率は、両市、男女および5つの被爆時年齢群のいずれにおいても、放射線量に伴う増加は認められなかった。…癌以外の特定死因で、原爆被爆との有意な関係を示すものは見られない。したがってこの集団では、現在までのところ放射線による非特異的な加齢
【非ガン】癌以外の病死因による死亡は 14,405件あったが、それら全体およびその主要死因を解析した結果、癌以外の疾患では放射線の死亡に及ぼす後影響がみられるという証拠はなかった。
37年後
第10報
1950-82年
【ガン】白血病、肺癌、女性乳癌、胃癌、結腸癌、食道癌、膀胱癌および多発性骨髄腫について有意な線量反応が認められた。新たに4部位の癌について検討し、その結果、肝臓および肝内胆管、卵巣およびその他子宮付属器の癌については、有意な放射線の影響が示唆されたが、胆嚢および前立腺の癌における正の線量反応は有意でなかった。
40年後
第11報
1950‐85年
【ガン】白血病以外の全部位の癌については、過剰死亡は年齢別の自然癌死亡率に比例して、年々増加し続けている。…過剰相対リスクは、白血病以外の全部位の癌、胃癌、肺癌、乳癌について統計的に有意には変化していない。しかし、肺癌は減少傾向、白血病以外の全部位の癌、胃癌、乳癌は上昇傾向を示した。放射線誘発癌の経年変化のパターンを明らかにするには、更に調査が必要であろう。
【非ガン】まだ限られた根拠しかないが、高線量域(2または3Gy以上)において癌以外の疾患による死亡リスクの過剰があるように思われる。統計学的にみると、二次モデルまたは線形-閾値モデル(推定閾値線量1.4Gy[0.6-2.8Gy])のほうが、単純な線形-二次モデルよりもよく当てはまる。癌以外の疾患による死亡率のこのような増加は、一般的に1965年以降で若年被爆群(被爆時年齢40歳以下)において認められ、若年被爆者の感受性が高いことを示唆している。死因別にみると、循環器および消化器系疾患について、高線量域(2Gy以上)で相対リスクの過剰が認められる。しかし、この相対リスクは癌の場合よりもはるかに小さい。…これらの所見は、死亡診断書に基づいているので信頼性には限界がある。おそらく最も重要な問題は、放射線誘発癌が他の死因に誤って分類される可能性があることである。高線量域で癌以外の死因による死亡が増加していることは明白だが、どれだけこの誤りに起因するのかを明確かつ厳密に推定することは現在のところむずかしい。しかしながら、死因の分類の誤りだけで、この増加を完全には説明できないように思われる。…高線量を被曝した被爆者において癌以外の死因による死亡が増加しているという傾向を確認し、更に、そのような死亡増加が寿命短縮をもたらしているかどうかを明らかにするためには、寿命調査対象の部分集団(成人健康調査対象)について2年に1回行う検診で確認される疾患、および寿命調査対象の死亡率に関して追跡調査を更に行うことが必要であろう。
45年後
第12報
1950‐90年
【ガン】被爆時年齢 30歳の場合、1Sv当たりの固形癌過剰生涯リスクは、男性が 0.10、女性が 0.14と推定される。被爆時年齢50歳の人のリスクはこの約3分の1である。被爆時年齢10歳の人の生涯リスク推定値はこれらよりも不明確である。妥当な仮定の範囲では、この年齢群の推定値は被爆時年齢 30歳の人の推定値の 約1.0倍 から 1.8倍 の範囲になる。
【非ガン】今回の解析結果は、放射線量と共にがん以外の疾患の死亡率が統計的に有意に増加するという前回の解析結果を強化するものであった。有意な増加は、循環器疾患、消化器疾患、呼吸器疾患に観察された。1Svの放射線に被曝した人の死亡率の増加は 約10%で、がんと比べるとかなり小さかった。しかし、この集団における1990年までの放射線に起因するがん以外の疾患の推定死亡数(140-280)は固形がんの 50%-100%であった。今回のデータからはっきりした線量反応曲線の形を示すことはできなかった。つまり、統計的に非直線性を示す証拠はなかったが、<0.5 Svでは、リスクが無視できるほど小さいか0である線量反応曲線にも矛盾しなかった。
52年後
第13報
1950-97年
【ガン】固形がんの過剰リスクは、0-150mSvの線量範囲においても線量に関して線形であるようだ。…被爆時年齢が 30歳の人の固形がんリスクは 70歳で1Sv当たり 47%上昇した。
【非ガン】がん以外の疾患による死亡率に対する放射線の影響については、過去30年間の追跡調査期間中、1Sv当たり 約14%の割合でリスクが増加しており、依然として確かな証拠が示された。心臓疾患、脳卒中、消化器官および呼吸器官の疾患に関して、統計的に有意な増加が見られた。がん以外の疾患の線量反応は、データの不確実性のため若干の非線形性にも矛盾しなかった。約0.5Sv未満の線量については放射線影響の直接的な証拠は認められなかった。
【参考 2】 追跡調査中の原爆とチェルノブイリ事故の被ばく者数と被ばく量
原爆とチェルノブイリ事故の健康被害の大きさをリアルにつかむための参考として、「寿命調査」
の対象となった被爆者(4.5 万人)とチェルノブイリ除染労働者(24.7 万人)の被曝量別人数をグラ
フに示します。
表(pdfのため転載不可):
500mGy以上の高線量被曝は、原爆被爆者に多く、それ以下の低線量被曝を受けたチェルノブ
イリ除染者業者は、原爆被爆者の数倍存在しています。
被曝後50 年以上経過した原爆コホートでは、それぞれの線量範囲毎に、被曝のためにガンを
発病した方の人数と比率が分かっています(下表)。例えば、200-500mGy 被曝の5935 人からは
1144 人のガンが発生し、うち179 人(15.7%)は被曝による過剰発生でした。もし同じ比率でガンが
発生すると仮定したなら、同じ被曝レベルのチェルノブイリ除染作業員49630 人から9566 人のガ
ンが発生し、その15.7%=1501 人が放射線被ばくによるガンと解釈できるだろうと推計可能です。
わが国には、原爆被爆者の長期追跡データが手元にあるのですから、それを参考にしてチェルノ
ブイリ災害の健康被害を予測することは、当たり前の科学的手法です。
いずれにせよ、チェルノブイリ事故の被害の全体が明らかになるのは今からさらに30、40 年後
以降ですが、原爆被爆者の追跡調査が、それを予測するもっとも重要な資料となると言えます。
【出典】
チェルノブイリ:UNSCEAR報告書表B3 (124ページ)
原爆被爆者:寿命調査http://www.rerf.or.jp/radefx/late/cancrisk.html
以上
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