2015年1月3日土曜日

総合資源エネルギー調査会原子力小委員会 原子力の自主的安全性向上に関するワーキンググループ (第8回会合)平成26年1月30日

http://www.nsr.go.jp/disclosure/meeting_operator/NRA/data/20140203-01shiryo.pdf

PDF 1~78

総合資源エネルギー調査会原子力小委員会 原子力の自主的安全性向上に関するワーキンググループ (第8回会合)

議事次第

1. 日時:平成26年1月30日(木) 9:30 ~ 12:00
2. 場所:経済産業省 本館17階 国際会議室
3. 議題:
○安全性向上に必要な仕組み(米国の事例)及び軽水炉の安全研究について①

・「これまでの議論と今後の議論の方向性」 (事務局)
・「NEIの視点」 (NEI, SVP & CNO, Tony R. Pietrangelo)
・「安全対策高度化に係る研究開発」 (関村 直人委員)

総合資源エネルギー調査会原子力小委員会
原子力の自主的安全性向上に関するワーキンググループ

委員名簿
座長 安井 至 独立行政法人製品評価技術基盤機構 理事長
委員 井上 正 一般財団法人電力中央研究所研究アドバイザー
上塚 寛 独立行政法人日本原子力研究開発機構理事
尾本 彰 東京工業大学特任教授
桐本 順広 一般財団法人電力中央研究所原子力技術研究所
原子炉システム安全領域上席研究員
関村 直人 東京大学大学院工学系研究科原子力国際専攻教授
谷口 武俊 東京大学政策ビジョン研究センター教授
古田 一雄 東京大学大学院工学系研究科附属
レジリエンス工学研究センター教授
八木 絵香 大阪大学コミュニケーションデザイン・センター准教授
山口 彰 大阪大学大学院工学研究科環境・エネルギー工学専攻教授
横山 須美 藤田保健衛生大学医療科学部放射線学科准教授
(計 11名)

オブザーバー
勝野 哲 中部電力株式会社代表取締役副社長執行役員
佐治 悦郎 三菱重工業株式会社 エネルギー・環境ドメイン原子力事業部主幹
ジョン・クロフツ 東京電力株式会社原子力安全監視室室長
豊松 秀己 関西電力株式会社代表取締役副社長執行役員 原子力事業本部長
服部 拓也 一般社団法人原子力産業協会理事長
前川 治 株式会社東芝上席常務 電力システム社副社長
松浦 祥次郎 一般社団法人原子力安全推進協会代表
守屋 公三明 日立GEニュークリア・エナジー株式会社技師長
(計 8名)

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原子力の自主的安全性向上に関するワーキンググループ

これまでの議論と今後の議論の方向性

1.各論点に関する意見の整理
(参考:第一回WGで提示された論点)
① 「安全神話」からの脱却(注)
注)WGの議論では、「安全神話」が意味するところは、「規制水準を満たすこと、あるいは、
その下で積み重ねられた安全の実績により自信過剰になり、継続的安全性向上の努力を
怠ってきたこと」であるとの共通理解となった。
② 原子力特有のリスクと向き合うマネジメント強化
③ 国内外の新たな知見の積極的導入
④ 規制以上の安全レベルを目指す意識の徹底
⑤ 継続的安全性向上に資する目安の設定
⑥ 各プラントに対する総合的かつ継続的なリスク評価
⑦ 適切なリスクコミュニケーションの実施
⑧ 事業者としての原子力安全への向き合い方
⑨ 自主的かつ継続的な安全性向上に必要な仕組み
⑩ 有効な安全研究の実施

(1) 自主的安全性向上の望ましい姿
 原子力産業界は、規制水準を満たした上で積み重ねられた安全の実績により
自信過剰になり、継続的安全性向上の努力を怠ってきた。このような「安全
神話」に陥ることなく、自主的かつ継続的な安全性向上の実現に向けて注力
すべきである。

 原子力発電に伴うリスクは炉心損傷事故(シビアアクシデント)で支配され
るので、シビアアクシデントが発生することを考え深層防護を組み立てなけ
ればならない。その際、緊急時においても的確に判断の出来る安全性につい
て全体を俯瞰できる人材の存在が極めて重要。

 また、原子力事業者における構成員個々人の批判的な思考と疑問を抱く姿勢、
疑問を提示する慣行、残余のリスクを考慮にいれた安全対策の実施、発電所
の設備・設計に関する深い知見の蓄積と責任ある姿勢等が一層期待される。
さらにこれらを補完する相互レビューの仕組みや良い行動を評価する仕組み
も体系的に整備することが必要ではないか。

 原子力特有のリスクと向き合い安全性向上を実現するために、各原子力事業
者はリスク評価を具体的な対策の実施に繋げるリスクマネジメントを行うべ

総合資源エネルギー調査会
原子力の自主的安全性向上
に関するWG 第8 回会合
資料1

2
き。その際、「リスクガバナンスの枠組み」(リスクコミュニケーションを実
施しつつ行う、①問題設定(プレアセスメント)→②リスク評価→③リスク
判断→④リスク対応策の選択・実施の一連の取組み)を効果的に実施するこ
とが必要で、立地地域住民の方々など外部ステークホルダーの参加を得て、
その価値観を反映させていくことが重要。

 原子力事業者が自主的かつ継続的な安全性向上を実施していく際、「安全性向
上の目安・目標」を持つべき。また、その目安や向上策は国内外の最新の知
見を踏まえて進化していくものであるから、日本において安全基準や各種標
準が定まっていない課題についても、原子力事業者の活動に自主的に取り入
れ、これを活用すべく取り組んでいくべき。

 こうした自主的安全性向上の取組を実施する上で、事故に繋がる事象の網羅
的な評価、脆弱点抽出、対策の効果の定量化などの効果を持つPRA(確率論
的リスク評価)は、リスクマネジメントの際の不可欠なツールである。同時
に、残余のリスクへの対応を含むレジリエンス向上には、確率を考慮の上ス
トレステストによりクリフエッジまでの距離を長くするという半決定論的手
法が役立つことも示されている。

(注)「PRA」「PSA」の使い分けについては、残余のリスクへの意識を高めるとともに、米
国等のプラクティスに学ぶという観点から、本WGでは、「PRA」との表現で統一する。

 米国はスリーマイル島原発事故後に議論を重ね、時間をかけて産業界が自主
的かつ継続的な安全性向上を実施していく体制を構築してきた。安全性向上
に向けて何を行うべきか、各者の責務を明確に定義した上で、プライオリテ
ィを付けて、産業界、事業者等が具体的なアクションにつなげていくことが
重要。

 自主的かつ継続的な安全性向上に必要な仕組みの構築は、新たに組織を作っ
て終わるものではなく、産業界組織がどのような役割を果たすべきか明確に
する必要。また、専門性のある人材の確保、サポートする組織の存在が大事
である。

(2) リスクマネジメントに関する意見【論点①、②、③、④、⑧関連】

 事故リスクの把握、必要な対応策の実施は、社会に甚大な被害を与え得る原
子力業界の経営におけるトップイシューであるべき。十分な管理ができない
会社は退出せざるを得ない。

 原子力事業者のリスクマネジメント向上には、経営トップのコミットメント、
安全文化の醸成、リスク評価を共有・流通させるための社内体制構築、人材
育成が不可欠。

 航空産業では、全世界で各種データを収集する体制を構築し、安全性向上対
策の実施判断に繋げている。電力会社原子力部門では運転部門、保全部門、
リスク部門が縦割りとなっており、各部門で収集するデータの共有が十分で

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ないため、データを効果的にリスク評価に活用する点が不十分との意見があ
る。

 集団思考に陥らないために、米仏で実績のある安全アドバイザー制度などの
同じ組織に所属しながら別の目で見て意見を言う多様性のメリットを考えた
仕組みが必要ではないか。

 リスクマネジメントを高めていくために、IAEA によるPRA やシビアアクシデ
ント対策のレビュー等を活用し、世界のグッドプラクティスを知ることが重
要ではないか。

(航空会社(日本航空)のリスクマネジメント体制・機能の具体例)

・現場だけでなく、常にマネジメントサイドのコミットが得られるよう、経
営の参謀役として、安全の知見を有し事業全体のリスク管理を担う担当役
員を設置。

・各部門の現場に精通した専門家を集め、専属の部署を担当役員の直属とし
て設置。各部署のリスクを洗い出し、経営層に報告、経営層において迅速
な意思決定を実施。

・重大事故のみならず、その徴候となるパフォーマンス・インディケータも
収集する体制を構築し、それに基づく定量的な安全指標等を設定。データ
ベース、安全指標を活用し、継続的な安全性向上・改善につなげている。

(3) リスク評価手法に関する意見【論点⑤、⑥関連】
 我が国の原子力事業者はこれまで確率論的リスク評価(PRA)を一部で使って
きたが、リスクがゼロでなく、重大事故が起こり得ることを認めることへの
懸念と大きな不確かさなどから、積極的な活用に至らなかった。

 PRA は、事故シーケンスに応じた網羅的評価、脆弱点抽出、対策の効果の定
量化ができ、適切な深層防護方法を決定するための情報等、プラントの安全
性向上に有用な情報を提供する。また、安全上プライオリティの高い事項に
人員・資金等のリソースを適切に配分することや、事故が起きた場合の計画
立案等の準備等にも役立つ。

 特に、我が国においては外的事象のPRA の実施が不十分であった。東京電力
福島第一原子力発電所の事故や昨今の規制課題を振り返っても、津波をはじ
めとした外的事象に関する客観的な評価の実施が最大の課題である。

 PRA を実施して終わりではなく、問題はその成果をどう解釈し、どのような
具体的な意思決定に繋げるかが重要。ここにその組織の持つ価値観や姿勢が
反映される。責任ある運用に向けた姿勢、注意深さ、残余のリスクの管理姿
勢などによりこれらは異なりうる。

 PRA を実施して、その結果を客観的に解釈する上で、我が国において定量的
な安全目標が未確立であることは課題。
 PRA はリスク管理の為の技術情報をもたらすものの、原子力事業を実施する

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組織の姿勢や風土等事故の背後要因になる問題を明らかにするものではない
点も留意されるべきである。

 PRA 利用を高めていくためには、以下の事項に留意すべき。

A) 各社のPRA の実施における品質保証面などについて、客観性の担保のため、
専門家によるレビューを実施

B) 社会的ニーズ等を勘案し優先度を決めた上で、早急なリスク評価が必要と
なる事項について、優先的に標準を作成

C) 外的事象を含めPRA の基盤となるデータベースの拡充・整備を図る(例え
ば、地震による設備への被害に関するデータの体系化など)

D) 各原子力事業者における専門スキルを有する人材の育成、確保

E) 規制におけるPRA の扱い

F) これら活動を支援する機関
 PRA 活用が進んでいなかったことに代表されるように、標準、規制が出来て
いない事柄については、安全の向上の取組として検討すらされなかったこと
が多かった。例えばPRA の取組は各社の実効的な取組が先行しても良かった
のではないか。

(米国におけるPRA の活用の具体例)

・ 会社経営層のトップダウンの決断の結果として、リスク部門の提案が実際
の建設・運転・保守のあり方に反映された。

・ 米国原子力事業者は、運転部門、保守部門、リスク部門等の責任者を集め
た意思決定パネルを設置。その場で、リスク評価の手法・結果を共有し、
意思決定することで、リスク評価の手法・結果をブラックボックスにする
ことなく、部門にまたがる共通言語として活用。このためにも、経営トッ
プも含め、リスク評価に関する幅広いトレーニングが重要。

・ リスク評価の結果が、オンラインメンテナンスの容認など、規制当局(NRC)
の規制運用の最適化をもたらしたことも、各原子力事業者のリスク部門の
発言力を引き上げることに繋がった。

(4) パブリック・リレーションに関する意見【論点⑦関連】
 政府も原子力事業者も社会も、「安全か否か」の二元論で問われた時に、「安
全だ」と答えてきてしまった。あらゆる技術にリスクは有るのだから二元論
を容認して「安全」と答える失敗を繰り返してはいけない。常にゼロリスク
ではないことを意識し続けるべき。

 信頼が失われている状況では、コミュニケーションは成り立たない。事故に
より原子力事業者の信頼が低下している中、PA(パブリック・アクセプタン
ス)の概念の下、一方的に一つの考え方への理解を求めるのではなく、地域
住民を含めたステークホルダーの意見・懸念を聴取し、それを一つ一つマネ
ジメントに反映させていくことこそが信頼回復の第一歩。
 他方、地域住民の方々が問いたいのは、「万が一避難が必要になったときに、

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『私』は逃げられるのか」という点である。今後は、この問いに答えるため、
確実な防災体制の整備とリスクコミュニケーションが必須。例えば、レベル
3PRA(放射性物質の敷地外への放出による公衆へのリスクを評価)のリスク
情報を活用し、防災計画など、緊急事態への備えに原子力事業者が関わって
いくことが、リスクコミュニケーション上も必要ではないか。

 リスクコミュニケーションにおいては、何をコミュニケートするかのみなら
ず、透明性の確保が重要であり、立地地域の住民等のステークホルダーとの
透明性の高い意見交換の中で、共同で事実確認を築き上げていくことができ
る。この観点で仏のCLI制度には、日本としても学ぶべき点がある。

(5) 原子力産業界全体に関する意見【論点⑧、⑨関連】
 PRA/PSA(地震の評価に用いる地震による機器構造物被害のデータベース構築
なども含み)やレジリエンスに関する信頼できるシンクタンク的な存在によ
るサポートの必要性も検討すべき。

 米国産業界のINPO(原子力発電運転者協会)による事業者相互レビュー
や、原子炉メーカー等を含め、産業界の知見を糾合したNEI(原子力エネ
ルギー協会)による科学的情報発信等の機能、軽水炉安全研究のマネジメン
トを行うEPRI(米国電力研究所)などの海外の事例が参考になる。

※来年1 月、2 月開催予定の第8 回、第9 回WGにおいて、NEI、EPRI等の有
識者を招き、議論を行う予定。

(6) 安全研究・技術開発に関する意見【論点⑩関連】

 米国産業界のINPO(原子力発電運転者協会)による事業者相互レビュー
や、原子炉メーカー等を含め、産業界の知見を糾合したNEI(原子力エネ
ルギー協会)による科学的情報発信等の機能、軽水炉安全研究のコーディネ
ーションを行うEPRI(米国電力研究所)などの海外の事例が参考になる。

(再掲)
 安全のように広域にまたがる研究や教育は難しい。欧米の大学でも同じ問題
意識がある。また安全改善のための研究開発は海外との協力が必要。

※来年2 月開催予定の第9 回WGにおいて、安全研究・技術開発を議題とする予定。

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2.今後の議論の方向性

【総論】

東京電力福島第一原発事故は、原子力利用全体におけるリスクガバナンスのあ
り方に大きな疑問を投げかけた。昨年、原子力規制委員会が設置され、安全第一
で世界において最も厳しい規制を追求することとされたが、規制水準を満たすこ
と自体が安全を保障するものではない。原子力事業者が規制水準を満たすだけの
対応に終始することは、安全に対する事業者の慢心を呼び、新たな「安全神話」
に陥ることになる。今後は、一義的に安全に責任を負う原子力事業者において、
自主的かつ継続的に安全性を向上させていく意思と力が必要であり、また、これ
を有した存在として認識されなければ、国民の原子力事業への信頼も回復しない。

その際、これまで各原子力事業者による適切なリスクマネジメントを阻害して
きた社会的背景(適切なリスクガバナンスの不在、即ち、安全か否かの二元論に
陥りやすいリスク認識、定量的安全目標の未確立、米国の事例に見られるような
社会がリスクを管理する仕組みの欠如など)や企業の風土(批判的思考の欠如と
集団思考、事業者間の安全性に関する相互レビューの未定着など)等を正しく認
識することは重要であるが、それらの改善を受け身で待つのではなく、原子力事
業者自らが自主的かつ継続的な安全性向上の具体的な取組に率先して取り組んで
行くことで、能動的に社会的背景や企業風土等に働きかけていく姿勢が求められ
る。

原子力事業者の自主的な安全性向上に向けた具体的な取組については、東京電
力福島第一原発事故の教訓を出発点に位置づけるべきである。まず、深層防護(防
護対策の不完全さと不確かさを補うため、前段の安全対策が機能しなくなっても、
後段で防護する多層的な防護策(安全設計、シビアアクシデント対策、運転管理、
防災対策等を含む)を構成すべきとする考え方)の不十分さが挙げられる。IAEA
での5 層の深層防護の考え方に対して、日本では第4 層を知識ベースの対策と位
置付けて規制対象としなかった。また、日本ではこれまで内部事象を対象とした
シビアアクシデント対策が主に検討され、外部事象、人為的事象に関しては対策
が乏しかった。(国会事故調)また、いったん事故が発災した後の緊急時対応(第
5 層の防護)について、被害を最小化できなかった最大の原因は「官邸及び規制
当局を含めた危機管理体制が機能しなかったこと」、そして「緊急時対応において
事業者の責任、政府の責任の境界が曖昧であったこと」にあるとの指摘もある。

(国会事故調)さらに、従前から評価の対象としてきた内的事象に加え、地震・
津波を始めとする外的事象を考慮に入れた、施設の置かれた自然環境特性に応じ
た総合的なリスク評価が欠如していたことも指摘されている(政府事故調)。

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こうした教訓を生かし、以下のような幅広い取組を実践していく必要がある。

① 事故に繋がり得る事象の網羅的な洗い出し、脆弱点の抽出、安全対策の効果の
定量化等、定量的・定性的なリスク評価を行う。

②当該評価を用いつつ、福島事故に鑑み、既存の対応を過信することなくシビア
アクシデントが発生し得ることを想定した深層防護の充実を図る。

③これらの取組みの前提として、リスク管理目標を掲げ、リスク評価の結果を必
要な対応策の実施に繋げるサイクル(適切なリスクマネジメント)を構築した
上で、これを外部のステークホルダーの認識変化や国内外の新知見等を常に踏
まえた不断の継続的な改善を進める。

④特に津波・地震等の外部事象に着目しながら、重要な事象展開の下でのストレ
ステストによりクリフエッジを特定(安全裕度の評価結果を踏まえ、建屋、系
統、機器等がどの範囲まで損傷・機能喪失すれば、安全設計上想定されている
範囲を超えて、燃料の重大な損傷に至るかを評価)すること等を通じて残余の
リスクへの対応を含むレジリエンスの向上を図る。

但し、こうした取組の質には、組織の持つ価値観や姿勢が反映される。原子力
事業者における構成員個々人の批判的な思考と疑問を抱く姿勢、残余のリスクへ
の想像力、発電所の設備・設計への深い知見など、適切なリスクマネジメントの
前提となるこうした人的な側面への働きかけも必要であることに留意すべきであ
る。

こうした然るべき人的基盤に支えられた幅広い自主的安全性向上の取組の必要
性は、スリーマイル島原発事故、チェルノブイル原発事故等を受け我が国におい
ても繰り返し謳われてきた内容である。しかしながら、総花的に必要な対策を羅
列することやミッションのはっきりしない新組織を立ち上げることでは、自主的
な安全性向上が継続的に進展していく望ましい姿が実現しないことは明らかであ
る。優先的に取り組むべき事項を明らかにしながら、望ましい姿の実現に向け、
原子力事業者、メーカー、学会、政府等の関係者がどのような行動を取っていく
べきかのロードマップを掲げていくべきである。

これまでのワーキンググループでの議論では、まず、こうした自主的かつ継続
的な安全性向上の取組を実現していくためには、各原子力事業者の経営トップの
コミットメントの下で、リスク分析、リスク評価、必要な対応策の実施、パブリ
ック・リレーション等の内容・手順まで考慮した質の高いリスクマネジメントが
行われることの重要性が確認された。社会に甚大な被害を与え得る原子力事業に

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おいて、事故リスクの把握と必要な対応策の実施は経営のトップイシューでなけ
ればならず、これを実現するリスクマネジメントの確立は原子力事業の大前提で
ある。

また、事故に繋がる事象の網羅的な評価、脆弱点抽出、対策の効果の定量化な
どの効果を持つPRA(確率論的リスク評価)は、効果的なリスクマネジメントを
実施する上での出発点となる重要なツールであり、諸外国では積極的に活用され
ている。他方、我が国においては、PRA はこれまで必ずしも積極的に活用されて
こなかった。東京電力福島第一事故の教訓でもあるが、可能性は低いが仮に事態
が進展してしまうと社会に甚大な影響を与えてしまう事象に対する想像力、緊急
時対応の事前準備等を高めるためにも、PRA を通じた網羅的なリスク評価は不可
欠かつ優先して整備すべきリスクマネジメント・ツールである。

さらに、社会に甚大な影響を与えてしまった原子力事業を行う上では、立地地
域の住民の方々をはじめとするステークホルダーとの間で適切なパブリック・リ
レーションが構築されなければならない。そのうち、まず強調されるべきなのは、
原子力事業者は、「安全か否か」との二元論に陥りやすい社会的背景に流されるこ
となく、リスクの存在を前提に、ステークホルダーの意見、価値観を取り入れな
がら可能な限りリスクを低減させていくというリスクマネジメントを実践してい
くべきであることである。そうした実践こそが、原子力事業への信頼回復の第一
歩である。

PRAの積極的活用、必要な対応策の実施及びリスクコミュニケーションの実
施を含むリスクマネジメントの確立、既存の軽水炉の安全性向上研究の効率的実
施、これらに関係する人材育成等の原子力事業者の自主的安全性向上の取組は、
各原子力事業者のコミットメントに基づくものでなければならないが、併せて、
政府を含め原子力産業に関わる者は、海外の良い慣行を常に参考にしつつ国民と
の開かれた双方向のコミュニケーションの下で、こうした取組を根付かせるため
の仕組みを構築していくことも必要である。今後、米国等の海外の例に学びつつ、
具体的な仕組みのあり方についても議論を深めていくことが必要である。

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【個別論点の方向性】

各論点については、以下の方向性で検討すべきではないか。

(1) 自主的安全性向上のために幅広く継続的な取組みを実施するべき。

- 自主的安全性向上のためには、規制基準を満たせば良いという考えから脱
却し、規制基準や標準がなくとも、安全性向上のために講ずべき対策を自
ら考えていくべき。その際、発生確率の低い事象だからといって備えを怠
るのではなく、不確実性の大きさに応じた層の厚い安全対策を講じるべき。

- 事故リスクの把握と必要な対応策の実施は、原子力事業者の経営における
トップイシューであり、事業者全体として「落としどころを探り合う対応」
に陥ってはならず、個々の事業者が個別プラント毎に責任を持って取り組
むことが大前提。この考えを各社の経営の中に根付かせるべき。

- 個々の事業者が自らリスク管理を行うためには、自らのリスク判断基準を
持つべき。また、これを活用し、地域社会とのリスクコミュニケーション
に取り組むべき。

- 技術は常に進化するものであり、国際的な最前線の取組にも学びつつ、目
指すべき安全性やリスク評価を不断に見直すべき(ムービングターゲット
としての自主的安全目標の設定と評価手法の不断の見直し)。また、社会
は複雑系のシステムであり、社会的リスク要因は時代と共に変化すること
も考慮に入れ、リスク管理能力を高めるべき。例えば、社会的信頼もアセ
ット(資産)の一つと考えてアセットマネジメントとして、リスク管理を
行うべき。

- 不測の事態に対処するための能力(レジリエンス)を高めるべき。そのた
めに、PRA、決定論的な安全評価、ストレステストのような評価等の様々
な評価手法を活用すべき。

(2) 各原子力事業者のリスクマネジメント向上のために必要な具体的方策を検
討し、講じるべき。

- 経営トップのコミットメントを担保する方策を講ずるべき。(経営の参謀役
としてリスク担当役員を設置するといった提言をどう考えるか)

- 個々の事業者において、社内での原子力安全の監視機能を強化すべき。

- (「リスクガバナンスの枠組み」における)プレアセスメントやリスク判断
等を効果的に実施する上で、外部ステークホルダーの価値観を汲み上げる
方策を講ずるべき。

- 「リスクガバナンスの枠組み」を機能させるため、具体的なリスク指標を
用いるべき。(PRA、パフォーマンス・インディケータ等)また、WA

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NOのPerformance Objective and Criteria 等を参考に、プラント監視
能力を高める方策は何か。

- リスクマネジメントの取組を進めるための各事業者における人的基盤を育
む方策を講ずるべき。具体的には、①PRA などのリスク評価を実施する専
門知識を持った人材の育成と、②原子炉安全システムの全体を俯瞰した視
点からリスク情報を活用できるようCEOを含む幅広い職員のリスク情報リ
テラシーの向上を図っていくことがいずれも必要。

- 各原子力事業者の取組を定着させるための仕組み・インセンティブを導入
すべき。(適切な相互監視(ピアプレッシャー)、保険等に関連した外部か
らの評価、規制運用上のインセンティブ等)

- リスク情報に基づいた判断には、組織の持つ価値観や姿勢が反映される。
疑問の提示、注意深さ、残余のリスクの配慮などリスクマネジメントの前
提となる人的な側面(風土・文化)への対策を講ずべき。

(3) 効果的なリスクマネジメントを実施する上でのツールとして特に重要だと
考えられるPRAの適切な実施を担保すべき。

- 福島事故の教訓を踏まえ、リスクマネジメント向上のためのPRA実施体
制のあり方を検討すべき。特に、内的事象、外的事象(地震、津波)など
の対象範囲がある中で、直ちに実施に移すべきもの、高度化・研究開発す
べきものを仕分けたロードマップの策定をすべき。

- 特に外的事象については、評価技術の精度を向上させていくべき。

- 各社が個別の原子炉毎に実施するPRAの品質保証のあり方を検討し、国
外を含めたピアレビューの実施等の具体的方策を講ずるべき。

- PRA実施のための基盤データベースの整理・拡充をすべき。

- 原子力産業界全体としてのPRA研究の実施、人材育成を誰が担うべきか
明確にすべき。(米国EPRIによる研修プログラムなどを参考に誰がど
のような取組をすべきか)

- 規制当局とのリスク情報活用にむけた対話を実践すべき。

(4) 原子力事業に関するパブリック・リレーションのあり方を改善すべき。

- まず、PRAの整備と着実な実施により、その知見に基づき、各炉毎のリ
スクの違いを前提としたリスクコミュニケーションを実施すべき。(特に、
PRAの実施・活用及び地域防災計画への協力などを通じた、事故を想定
した立地地域との情報共有や緊急時対策立案への協力。)
- 原子力を担う者への信頼性向上には何が必要か検討し、具体的方策を講ず
るべき。(リスクインフォームドの考え方を基礎とする安全確保、適切な

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リスクガバナンスの定着、外部ステークホルダーの価値観の取入れ、事業
者と規制当局との間での科学的・技術的なリスクコミュニケーションを透
明性高く実施すること等)

- リスクコミュニケーションが適切に行われるために、学会等による一般市
民のリスクリテラシー向上に向けた取組を検討すべき。

(5) 各原子力事業者のこれまでの対応(PRAの実施、必要な対応策の実施及
びリスクコミュニケーションを含むリスクマネジメント、軽水炉安全研究
等)が十分とは言えない現状に照らし、原子力産業全体として必要とされ
る仕組みを構築すべき。
- メーカーが高い設計能力を持つ日本の実情を踏まえるべき。

- PRA実施の高度化をはじめとする各社のリスクマネジメントをレビュー
し牽引する機能を持つべき。

- 適切なピアプレッシャー機能を向上させていくべき。(米国INPOの事例
を参考に何が足りないのか。)

- 科学的・客観的な意見集約・情報発信機能を構築すべき。(米国NEIの事
例から何を取り入れていくか。)

- 我が国において軽水炉安全性向上に関する研究開発の効果的・効率的なマ
ネジメント機能を構築すべき。

(6) 既存の原子炉の安全性向上に直結する研究開発の機動的・効率的な実施の
あり方を検討し、具体的仕組みを導入すべき。(他の原子力関係研究開発と
の優先順位の見直し、規制当局との適切な研究成果の共有のあり方など)

(7) 「リスクガバナンスの枠組み」におけるプレアセスメント、PRAの高度
化、研究開発の機動的・効率的な実施等の各局面において、世界の新知見
を反映させていくための具体的方策を講ずべき。

(8) これらの原子力の自主的安全性向上の取組を、誰がどのように(優先順位、
期間等)実現していくべきか、ロードマップを示すべき。

(以 上)

原子力安全の自主的安全性向上に関するワーキンググループ
NEI の視点
トニー・ピエトランジェロ
上級副社長(SVP)兼最高原子力責任者(CNO)
2014年1月30日

総合資源エネルギー調査会
原子力の自主的安全性向上
に関するWG 第8回会合

資料2-1
概要
• NEIとNRCとの関係
• NEI内部での事業者とベンダーの関係
• 安全文化醸成のための管理システム
• 事業者のPRA関連活動の調整
• 公衆の信頼を構築するためのNEIの取り組み
• 過去の活動に関する見解

2
NEIとNRCとの関係–

経緯
• 原子力産業会議がワシントンにおける最初の
産業界組織

• 1988年、一般性のある技術および規制課題に
対する産業界の統一見解を提言する組織とし
てNUMARC (原子力管理人材協議会) 設立

• リーダーシップの発揮と課題の管理のため、常
勤の管理チームと職員を雇用
- 1990年までに職員50名

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NRCの信頼構築
• 産業界が全面支援する組織という認識

• 主要課題の窓口を一つにすることにより規制
当局の負担を軽減

• 発電所による対応の一貫性を確保する公式
な「産業界イニシアチブ」プロセス

- CNOの投票で80%を超えれば100%コミットする。

- 正式な規制に代替するものではない。
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今日のNEIとNRCの関係

• 25年以上に亘る信頼の構築

- 多くの成功事例と成果

• 両組織の職員間の長年の個人的関係

• 不平は控え目に; 建設的な代替案をより多く

• 問題解決のため議会による監督を利用

5
NEIの中の事業者とベンダー

• 原子炉メーカはNEIの活動のほぼ全てに参加

• 原子力サプライヤには非事業者の課題があ
りNEIが支援 (輸入品管理など)

• 原子炉メーカによる技術支援は主に
PWR/BWRオーナーズグループ経由

• 原子炉メーカにはイニシアチブの投票権なし

6
組織の独立性
• NEIは対象分析および技術的研究の実施を
主に EPRIに依存

• 原子炉メーカおよびその他のサプライヤは
顧客に技術的解決策を提供

• 事業者と原子炉メーカからの会費でNEIの
予算の90%を負担

- その他の会員の負担はごくわずか

7
安全文化
• 組織のトップから始めなければならないが、

全員参加が必要

• どの事業者にも誰でも利用できる従業員懸念
プログラム(ECP)がある

• 潜在的問題を積極的に探求するため産業界
イニシアティブが承認された

• 基本的質問:あなたは自分自身の問題を発
見し解決しようとしていますか?

8
NEIの職員構成と雇用

• 常勤職員約120名
- 出向者5~10名

• 様々な分野の専門家
- 事業者、サプライヤ、海軍出身の技術者/科学者
(約50名)

- 著述業・報道関係 (約20名)

- 公認ロビイスト (約10名)

- 業務支援 (約40名)
9
NEIのPRA活動
• NEI は、ワーキンググループ、タスクフォース
および事業者のCNO(原子力戦略問題諮問
委員会)を通して産業界のPRA活動を調整

- EPRI及びBWR/PWRオーナーズグループのリスク
活用委員会などが参加

- NEIはリスク活用の規制面でNRCの主要対応窓口
10

PRAの調整事例
• 産業界標準としてPRAモデルの技術的妥当性
を確保するためのピアレビューガイダンス

• 認可変更の要請を支援する申請ガイダンス
- 供用期間中の漏えい率試験及び検査
- Tech. Spec.サーベイランス間隔
- Tech. Spec.許容待機除外時間
- 緩和系パフォーマンス指標

11
公衆の信頼構築
• 信頼を構築する
- 透明性をもって、迅速に対応し、事実に基づくこと

• 明確にわかりやすく伝える
- (特定グループに対する)メッセージの事前テスト
- 主体的に行動すること

• 関係を構築する
- 国、地方及び地域
12
信頼構築技術
• 第三者プログラム (手紙およびスピーチ)
• 印刷メディアの意見/論説委員を訪問
• ソーシャルメディア(Twitter, Facebook, Google,
etc.)
• 宣伝 (政策立案者向け)
• 連合体の構築
• 世論調査および投票

13
過去の活動
• 一般的見解
- 産業界は有効/正当な規制要件に代わるものとし
て自主的措置を実施すべきではない

• 強力で信頼できる規制機関なくして公衆の信
頼を維持することは極めて難しい

• 米国では新たな要件に対して産業界が反対
することはなかった
- 明確な表現と実施ガイダンスに対するNRCの承
認獲得に注力した

14
自由質疑
• 他のご質問やトピックスは?

15
アンソニー(トニー)R.ピエトランジェロ 経歴
原子力エネルギー協会 上級副社長(SVP)兼最高原子力責任者(CNO)
ピエトランジェロ氏は原子力産業界で33 年の経験を有し、原子力プラントの建設、許認可、
運転のあらゆる分野で責任ある立場を歴任している。

NEI とその前身組織に1989 年から在職し、その間、許認可、リスク情報を活用した規制の
イニシアチブ、パフォーマンス・ベースの規制、その他技術的または規制上の包括的な課
題の管理の責任者を務めた。2006 年に規制分野の副社長に就任し、現在、新規プラント建
設、既設プラント運転および燃料サイクル活動を担当する取締役である。

同氏は、NEI において、コンフィギュレーション・リスク管理、停止時管理、リスク情報
を活用したパフォーマンス・ベースの規制、その他の様々な規制及び許認可の課題に関す
る規制ガイダンス等の分野で産業界の取組みをリードしてきた。また、規制監視プロセス
の緩和系パフォーマンス指標にリスクの観点を導入する産業界の取組みをリードすること
に尽力した。

NEI 所属前は、Westinghouse 社で、ブラジル、韓国、フィリピン及び米国の原子力発電所
の建設、試験、運開を担当するプロジェクト・エンジニアとして勤務した。
コロンビア大学 工学・応用理学部(生産工学)卒、Keller 経営学大学院で経営学修士(MBA)
取得。

総合資源エネルギー調査会
原子力の自主的安全性向上
に関するWG 第8 回会合

資料2-2
総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会
原子力の自主的安全性向上に関するワーキンググループ(第2回)

今後の議論の進め方について(案)

(株)東芝
第1回WGで論点や今後の進め方について多くの意見が出されました。
その中で、「何が欠けていたか、何をやってこなかったのかの整理が必
要」、「どこがおかしかったのか、どう改善すべきか、海外のベストプ
ラクティスとは、という視点が必要」等の意見が出されています。

今後の議論の進め方として、過去の不適合対策について、事業者・学
協会・メーカの対応実績はどうであったかを、実績ベースで、かつ、海
外と我が国の対応を対比する形で振り返る(ケーススタディ)ことで、
より具体的な議論につながるのではないかと考えます。

なお、ケーススタディの候補としては、米国NEIを招いて以下項目
について実施するのが良いと考えます。

以上

項 目発端(代表的事象) 対応(概要) 規制枠組み(米国) 国内の対応
RPT/ARI/SLC自動(新設炉) 10CFR50.62 (1984) RPT / ARI (BWR自主)
AFW自動 / DSS (PWR) SRP 15.8 新規制基準にて代替反応度制御
策を要求

未解決安全問題として着目

(1980頃~) 10CFR50.63 (1988) 電源融通(電力自主)
複数の前兆事象RG 1.155 (1988) 新規制基準にて代替電源を要求
SRP 8.4

ストレーナ面積拡大等(GI-191としてフォロー) ストレーナ面積拡大等
データ取得のための試験実施
(オーナーズグループ,NRC)
RG 1.82 Rev.2 (1996) ~Rev.4
(2012) NISA内規(2008)
[BWROG / PWROGレポートをエンドース]
航空機衝
突評価
資機材 / 手順(EDMG)整備EA-02-026 B.5.b (2002)
(大型旅客機)
耐性評価(新設炉)
10CFR50.54(hh),50.150
(2009), RG 1.217 (2011), SRP
19.5 (2013)
[NEIレポートをエンドース]
ECCSストレーナ
Barseback-2で安全弁作動時保
温材破損によるストレーナ閉塞
(1992)
9.11テロ(2001)
新規制基準にて今後5年以内に対応
ATWS Browns Ferry-3 (1980),Salem-
1 (1983) 等でスクラム失敗事象
SBO 電源融通 / DG追加 / バッテリ負
荷切り離し(手順) 等

安全対策高度化に係る研究開発

東京大学大学院工学系研究科
関村 直人

2014.1.30
総合資源エネルギー調査会
原子力の自主的安全性向上
に関するWG 第8回会合

資料3
はじめに
• わが国における安全対策高度化の研究と技術開発を進める
にあたっては、福島第一原子力発電所事故を踏まえ、対象
が複雑なシステムであることを前提に、俯瞰的な視点を確保
しつつ、技術課題を検討する必要がある。

• 国内のみならず、幅広く諸外国や国際機関での議論の動向
を把握して、最新知見を取り込むとともに、わが国の強みを
海外に発信しつつ、国際的な協調による研究開発を実施す
ることが重要である。

• 産業界は、実質的な安全向上に資する研究開発を強化し、
その成果や実績をリスクガバナンスのサイクルに組み込み、
効果的に安全対策高度化に資する体制が必要である。

2
• 研究を実施する者は、自らが得意とする分野を深めようとす
るものである。一方、安全は多くの分野・領域の隙間から破
綻する。

• 俯瞰的な視点を維持して、研究計画を立案し、その成果を生
かすことが重要。
– 原子力安全の目標を達成するためには、あるべき姿を議
論し、現在の技術を直視することによって、取り組むべき
俯瞰的な技術課題のマップを準備する。これらの課題解
決のために短期的視点のみならず中長期的なロードマッ
プを提示してゆく。
– 国内外の運転経験を分析し、国際的な研究成果を取り込
んで、ロードマップを継続的に改訂し、改善を進めるため
の基盤とする。
– 異分野の研究者間、産業界と規制当局間、研究者と実務
者間、さらに国民との間で様々なコミュニケーションが必
要である。

今後の安全研究について
日本原子力学会原子力安全部会福島第一事故報告書(2013.3発行)より
3
PWR BWR
技術戦略マップ・ロードマップの階層構造
1階層目(導入シナリオ)
課題解決のニーズや技術的、社
会的背景、境界条件や不確実性
を明確にし、研究・開発成果の採
用の目標を示したもの
2階層目(技術マップ)
どのような課題があるかを俯瞰・
整理し、産業界や国、規制、学術
界、学協会がどのように取り組ん
でいくべきかを整理したもの
3階層目(ロードマップ)
2階層目(技術マップ)に挙げられ
た課題を相互に結びつけながら
解決に向けた取り組みやホールド
ポイントを時間軸上に示したもの
次世代炉
制度的基盤
技術的な課題と対応策学協会
規格
TR
PWR BWR
導入シナリオ
技術マップ
ロードマップ

4
技術戦略マップ・ロードマップ検討の経緯(1)
• 研究開発課題の俯瞰的整理学
– 課題の重点化とともに科学的技術の総合的体系化を意識
– 短期的課題と長期的視点・課題の融合
• ロードマップ策定目標の共有化
– 安全研究と開発研究における共有化と差別化の精査
• 技術情報基盤の必要性、重要性
– ロードマップの構造化
– 種々のコミュニケーション:コンセンサス、プロセス透明性
日本原子力学会による第一次ロードマップ(2004.7~2006.3)
- 軽水炉の運転中安全と高経年化対策分野を例として -

5
• 技術戦略マップとしての構造化とローリング
– 導入シナリオ、技術マップ、ロードマップ
• 導入シナリオ層での分野・領域をつなぐインタラクション定義
• 技術マップ層での俯瞰性確保
• ロードマップ層での短中長期整合性
• 評価システムの組み込み
• 役割分担と責任の定義
– 産業界、行政・規制、学術界に加え、学協会の役割を明示
• 学協会は学協会規格策定の場、産官学が集い議論するオープンな場
– 規制のための知識基盤と産業界による情報基盤の関係
– 施設基盤・人材基盤・資金基盤につながる重点化・成果評価
• 規格・基準化、ガイドライン化
– 研究開発のアウトプットとしての様々なレベルでの標準化
– 現場での活用のための課題
技術戦略マップ2007
 日本原子力学会燃料高度化特別専門委員会(2006.4~2008.3)
 技術情報調整委員会(JNES)安全研究WG等 6
技術戦略マップ・ロードマップ検討の経緯(2)
• 多様な情報共有とコミュニケーションの場としての活用
• ローリングサイクルと質の確保の課題
– 課題の細分化と総合化に応じたローリング体制
– 課題の実践と成果の自己評価
– 共有目的に基づいた技術戦略マップの第三者的評価
• 安全研究の自律分散協調系
– 研究遂行組織を横断する総括的マネジメント
• 技術戦略マップの国際化
– 国際協調、共同作業の取込みと国際競争力確保
• 人材育成と教育システム
技術戦略マップ2008、2009、2010の策定
 日本原子力学会核燃料部会燃料高度化ロードマップ実行委員会
 技術情報調整委員会を基軸とし、産業界のPLM研究推進会議と
高経年化対策強化基盤整備事業総括検討会を含む体制
付録1参照

7
技術戦略マップ・ロードマップ検討の経緯(3)
• 現在の技術マップ、ロードマップ策定のための学会等での検討組織化
– 日本原子力学会 「安全対策高度化技術検討」特別専門委員会
– 「安全対策高度化技術基盤整備事業」 技術マップ策定部会
 シビアアクシデント対策に関する技術マップ策定を先行
 海外の研究開発体制や組織的取組、事故を受けた研究開発課題や体
制の変化、人材の育成のポイント
• 米国( NEI, DOE, NRC 等を含む)
• 仏・イギリス・ドイツ等及びEU
• IAEA、OECD/NEA
 国際シンポジウムの開催(2013.3.5 東大)
1st International Symposium on Safety Measure Improvement and Technical
Basis Development for Nuclear Power Plants in 2013
• EU SARNET、DOEプロジェクトやFLEX等、OECDプロジェクト等の講演
• パネルディスカッション
付録2参照

8
技術戦略マップ・ロードマップ検討の経緯(4)
シビアアクシデント関連研究開発課題検討マップの検討例
日本原子力学会 「安全対策高度化技術検討」特別専門委員会
事 象 進 展
A・マネジメントに必要となる能力・知識
B.マネジメントに必要となる支援機能

外的事象を第3の検討軸として加えて、防災と地域や外部との連携
や支援等に必要となる課題について検討中 9
安全研究・開発の組織的取組み 1

• わが国としての安全研究・開発に広く関わる技術マップ・ロードマップ策定
– 規制機関が対象とする安全研究
– 産業界が自主的に行うべき研究開発、ガイドライン
– 公的研究機関や学術界が行う研究開発、基盤研究
– 学協会規格基準策定作業
– 国際的な共同研究、国際機関での研究プロジェクト等
• 研究開発計画と成果に関する総合的・多面的な評価
– 原子力安全の目的に基づき課題の見直し、課題の重点化を行えるよう、自律
的・包括的な評価システムとが必要。
– 原子力利用の展開のあり方やその社会的影響に関する人文社会科学的な研
究と並行して進められるべき。
– オープンなコミュニケーションと第三者的評価が求められる。
– 科学的・合理的な根拠に基づいた提言

10
オールジャパンでの取組み
• 安全性向上のためのリスクマネジメント、リスクガバ
ナンスのための枠組みを動かすためには、以下の
観点から戦略的な意思決定を行い、実行できる強
固な組織が必要(米国のNEIに相当)
– 科学技術的な基盤に基づいて研究開発成果を安全向上に活用
– 安全の目的に基づいた産業界全体の監視、調整
– 安全規制への対応、法制への対応
– その下での課題の広範な課題のカテゴライズやマネジメント、
リードすべき組織のコーディネーション・コミュニケーション
安全研究・開発の組織的取組み 2

11
産業界での総括的取組み
リスク・ガバナンスの枠組み
プレ・アセスメント
リスクマネジメント
リスクの特徴づけ/判断
リスク評価
コミュニケーション
・ 問題枠組み設定
・ 早期警告(新たなハザードの調査)
・ スクリーニング
・ 科学的な方法論や手順などの決定
リスクアセスメント
・ ハザードの同定および推定
・ 暴露評価と脆弱性評価
・ 定量的・定性的リスク推定
関心事アセスメント
・ リスク認知
・ 社会的関心事項
・ 社会経済的影響
実施
・ オプションの実現化
・ モニタリングと制御
・ リスクマネジメント活動の
フィードバック
意思決定
・ 対策オプションの同定と生成
・ オプションの多面的分析
・ オプションの評価と選択
リスクの特徴付け
・ リスク・プロファイル
・ リスクの深刻度の判断
・ 総合化とリスク削減オプション
リスクの判断
・ 受忍性及び受容性の判断
・ リスク削減対策のニーズの決定
リスク意思決定・対応 知識生成・評価
リスクプロファイル
・ リスク推定値
・ 推定値の信頼幅
・ ハザードの特徴
・ リスクの心理的認知
・ 合法化の範囲
・ 社会的、経済的な含意
深刻度の判断
・ 法的要求事項への適合性
・ リスクトレードオフ
・ 公平性への影響
・ 社会的受容性
・ 技術の選択
・ 代替のポテンシャル
・ リスク便益の比較
・ 政治的な優先度
・ 補償のポテンシャル
・ コンフリクト管理
・ 社会的動員のポテ
ンシャル
4 谷口武俊氏の日本原子力学会標準委員会シンポジウム(2013.2.5)講演資料による
(IRGC, 2007に基づく)
12
研究開発とピアレビュー
ベストプラクティクス共有型
・成功事例の移転
・過去事例の再活用
・知識レポジトリ共有と知識採掘
知的資本型
・知識資産と企業価値の直結
・潜在的知識資産から
IPまで包括的な知財
戦略
専門知ネット型
・グローバルな専門家の知のネットワークによる問題解決
顧客知共有型
・顧客との知識共有
・顧客への継続的知識提供
・顧客関係マネージメント、
ワン・トゥ・ワンマーケッティング
集約連携
改善 増価
知識資産活用手段
知識資産活用目的
(野中郁次郎・紺野登、「知識経営のすすめ -ナレッジマネジメントとその時代」に基づく)
学協会規格化
学協会規格の規制
側によるエンドース
知識マネジメントのタイプの観点から
ピアレビューシステム 研究開発システム

13
ガイドライン化
• リスクガバナンス上の問題点や様々な不確実性を踏まえ、我
が国の技術的特性、安全文化の深層的構造に根差した組織
的な取り組みを進めることが重要
• 我が国に合致した実効的なリスクガバナンス、ピアレビュー技
術、「安全文化」の評価は、着実に進めるべき(研究)課題
– 課題の設定と研究を進めるための組織・機関のコーディネーション
– 研究開発、運転経験知識ベース化、プラントごとのピアレビューシステ
ムの総合的活用
– ベストプラクティスの共有化や個別の技術支援
– 訓練・資格認証、人材養成
– 成果規格化支援(ガイドライン、技術レポート)
– 国際的な研究、知識ベース構築や機関等との戦略的協調
安全研究・開発の組織的取組み 3
付録3参照 14
産業界での総括的取組み
• 研究開発のフロントローディング
– 安全に係る目標の不確実性に対処できる情報基盤、シミュレーション技術によ
るフロントローディング
– 優れた機能を実現するためのシステム統合化
• 技術の陳腐化マネジメント
– 設計・製造・建設・運転・保全・廃棄のライフサイクル期間の課題を見通す大規
模複雑システムの長期間システム安全技術マップ
– 現存システムと機器の陳腐化(Obsolescence Management)
• 人材確保、育成
(日本学術会議報告書 「巨大複雑系社会経済システムの創成力を考える分科会」(平成23年8月2日))
– 工学の専門分野における分析能力
• 複雑な現実の課題を数理的、実証的にアプローチが適用できる形にモデル化し、解決に導く能力
– 俯瞰的視点とシステム思考に基づき、戦略的に意思決定を行える能力
• 問題の本質を領域横断的、俯瞰的、体系的にとらえるシステム思考能力
• 国際的な戦略性
– 俯瞰的視点に立脚した先端的要素技術の開発、あるいは革新的システムの創
出を行える能力
安全対策高度化のための研究開発に関する
付加的コメント

15
まとめ
• わが国としての安全研究・開発に広く関わる技術
マップ・ロードマップ策定が望まれる
• これに基づく計画と成果に関する総合的・多面的な
評価と各種のコミュニケーションが必要
• 研究開発成果を実効的にするため、リスクマネジメ
ント、リスクガバナンスのために意思決定を行う強
固な産業界組織が必要
• リスクガバナンス上の問題点や様々な不確実性を
踏まえ、研究開発とピアレビューを総合的に活用す
る取組みが重要
付録1
従前の学協会等を中心とした、技
術戦略マップ策定と継続的改訂例
高経年化対応技術戦略マップ策定の例

17
高経年化対応技術戦略マップ
• 目的:
 安全第一を旨として、プラントの供用期間に関係なく、一
定の安全水準を確保するため、プラントの長期間の供用
に伴う経年劣化の特徴を把握して、これに的確に対応し
た運転プラントの保守管理を達成及び次世代プラントの
設計・建設に寄与すること
• 産官学の関係者が集合し、以下の観点から技術戦略マップ
の策定、定期的な自己評価、見直し作業(ローリング)を行う
とともに、情報発信を行う
– 優先的に取り組む課題の明確化
– 合理的・効率的実施を考慮した役割分担の検討
– 検討作業、情報発信を通じたコンセンサスの形成

18

19
国際
規制関連
情報
データベース
原子力発電プラントの高経年化に対する
安全性・信頼性確保の達成
技術情報基盤の整備
安全基盤研究の推進
規格基準類の整備
保全高度化の推進
包括的
経年管理
プログラム
構築
経年変化技術情報
データベース
検査
照射誘起
応力腐食
割れ評価
材料経年変化
評価技術
プラント
性能指標
調査
新技術
適用
スキーム
構築
規格基準化
人材確保
・育成
リスク
ベース
保全手法
高経年化対応技術戦略マップの構成
照射脆化
予測手法の高度化
保全最適化

19
技術戦略マップの作成と展開
①導入シナリオ
②技術マップ
③ロードマップ
技術戦略マップ
最新知見の反映
成果のレビュー
外的要因の変化評価
研究開発が世の中に出て行
く筋道とそのための関連施
策を示したもの
技術課題を俯瞰し重要技術
を絞り込んだもの
求められる機能などの向上・
進展を時間軸上にマイルス
トーンとして示したもの
・高経年化
・社会安全
・燃料高度化
公開の場で報告
予算措置 等
・安全研究
・開発研究
・研究基盤整備
広く公開 意見
・学会講演
・セミナー等
……
………
……



オーソライズ

20
4. 保全の高度化
3. 技術情報基盤の整備
2. 規格基準類の整備
1.安全基盤研究の推進

経年劣化事象 現状 40年超運転 長期・次世代炉
照射脆化 プラントデータに基づく経験則
機構論的脆化予測法の充実、監視技術の充実
これまで運転実績に基づく高度化設計
応力腐食割れ 使用材料毎の対応
データベースの構築
耐SCC材の確認
知識ベースの構築
シミュレーション評価法の確立
ISI技術の高度化
疲労 使用材料、環境毎の対応、
データベースの構築
使用材料、環境毎の対応、
データベースの構築
使用材料、環境毎の対応、
データベースの構築
減肉 対象箇所毎の対応
データベースの構築
メカニズムを踏まえた予測法の確立
リスクベース保全確立
監視技術の高度化
ケーブルの絶縁
劣化
使用材料毎の対応
データベースの構築 劣化診断技術の高度化 監視技術の高度化
コンクリートの
強度低下等
知見が不足している分野の重点研究
健全性評価手法の信頼性
向上と高度化
CCVの健全性評価手法の確立
新規プラントの保守技術
耐久性設計への実績反映
リプレース時の構造物・
材料の再利用法確立
高経年化対応技術戦略マップ
-4大項目毎の技術マップ策定-

21
SCC欠陥の検査検査精度の高度化、非破壊検査情報収集
運転中検査技術
検査装置、新検査技術の開発、先端技術研究
データや検査技術の検証、規制基準の整備
SCC検査技術研究に対応できる人材育成
運転中モニタリング技術モニタリング基盤技術
運転中モニタリング技術
評価技術の検証、規制基準の整備
SCCのモニタリング技術研究に対応できる人材育成
ステンレス鋼の応力腐食割れ(IGSCC) IGSCC発生・進展データ整備、高精度化
データや評価技術の検証、規制基準の整備
(健全性評価) IGSCCメカニズム解明
IGSCC発生・進展シミュレーション技術
応力腐食割れ(SCC) IGSCC研究に対応できる人材育成
照射誘起型応力腐食割れ(IASCC) IASCC発生・進展データ整備、高精度化
データや評価技術の検証、規制基準の整備
IASCCメカニズム解明
IASCC発生・進展シミュレーション技術
IASCC研究施設基盤整備とデータ整備、高精度化
IASCC研究に対応できる人材育成
Ni基合金の応力腐食割れ(NiSCC、PWSCCN)iSCC発生・進展データ整備、高精度化
データや評価技術の検証、規制基準の整備
NiSCCメカニズム解明
NiSCC発生・進展シミュレーション技術
PWSCC進展データ整備、高精度化
データや評価技術の検証、規制基準の整備
PWSCCメカニズム解明
PWSCC発生・進展シミュレーション技術
SCC研究に対応できる人材育成
SCC保全技術(予防保全、補修・取替等) SCC保全技術(予防保全、補修・取替等)の高度化、新技術開発
予防保全、補修後の長期健全性評価
データや評価方法の検証、規制基準の整備
SCC研究に対応できる人材育成
応力腐食割れ(SCC)に関する技術マップ構造

22
照射誘起応力腐食割れ(IASCC)に係る導入シナリオ
高経年化対応研究方針
炉の高経年化に伴う中性子照射量増加に対応するIASCC発生・進展データ整備、高精度化を
実施し、同時にIASCCメカニズム解明を推進して、IASCC発生・進展を予測するシミュレーション
技術の開発、実機適用を進める。それらの成果を反映して規格基準の精緻化、また、科学的合
理性を持った規制基準の整備等に繋げる。そのために必要なIASCC研究を実施するための施
設基盤整備とIASCC研究に対応できる人材育成も行う。
現状分析
原子炉の高経年化に伴い、炉内構造物の中性子照射量が増大し(図2)、IASCCの発生する可能
性がより高くなると考えられる。現在までに、BWRでは、高照射量を受けた制御棒で発生が報告されている。また、PWRにおいては、国内でIASCC事例は報告されていないが、海外では高照射で高応力が負荷されるバッフルフォーマボルトに多数の事例が確認されている。以上の状況から世界的にもIASCC現象が注目され始めており、研究が活発化している。現在、国の事業としてIASCCき裂進展データを検証して規制基準の整備が実施中である。また、国際協力によるメカニズム研究も行われており、JAEA等の研究機関が参画している。

しかし、今のところIASCCの発生・進展に関するデータは乏しく、メカニズムに関しても確定されて
いない。現在、IASCCき裂進展予測精度の向上に資するため、SCCに対する照射の影響に関する評価研究を放射線分解水質および照射速度等の観点から実施している。今後、高経年化原子炉の安全性、信頼性を確保するためには、IASCC発生・進展に関するデータ充実と高精度化が不可欠である。また、IASCCメカニズムに関する理解を深めて、IASCC発生・進展の予測が行えるIASCCシミュレーション技術の開発が急務である。それらの研究を推進するために、JMTR等の施設基盤の整備が重要で、また、IASCCの研究に携わっている人的資源も十分でないことから、IASCC研究を推進する幅広い知識を持った人材育成にも注力する必要がある。

照射誘起応力腐食割れ(IASCC)とは
・中性子照射量がしきい値を超えて増大するとステンレス鋼のIASCC感受性が増大
し、炉内構造物のIASCC割れが発生しやすくなる。
・鋭敏化しない低炭素ステンレス鋼でも発生する。
・IASCCはSCCの3要素 材料、環境、応力にさらに中性子照射の影響が重畳した複
合事象と考えられている(図1)。
・BWR環境とPWR環境両方で発生する可能性がある。
応力環境
材料
IA
SCC
・溶接残留応力・高温水、溶存酸素
・溶接熱鋭敏化
中性子照射
ガンマ線照射
・照射下応力緩和
・(周辺材料のスエ
リング等による
応力発生)
・水の放射線
分解
・照射硬化・脆化
・照射粒界偏析
シュラウド模式図
[H1] 0.5X1023
[H2] 4.4X1023
[H3] 1.9X1024 5.6X1024
[H4] 5.0X1024 1.5X1025
[H6]1.5X1022 4.4X1022
20年60年
火原協ガイドラインによる
中性子照射量
(n/m2(>1MeV))
(5X1024n/m2 (しきい値)
以上に着色)
1.5X1023
1.5X1023
図1 IASCCは材料、応力、環境と照射が重畳したと
きに発生する
図2 BWRシュラウドにおける20年と60年運転後の各
溶接線での中性子照射量(計算値)
IASCC研究に対応できる人材育成
IASCC発生・進展シミュレーション
技術
IASCCメカニズム解明
規格基準の精緻化
データや評価技術の検証、規制基準の整備
IASCC発生・進展デ
ータ整備、高精度化
実機事例の詳細分析
IASCC研究を実施するための施設基盤整備
産学官の連携
・IASCCメカニズム解明等
メカニズム解明や発生・進
展シミュレーション技術は科
学的合理性の基礎となり産官
ともに必要で、学の研究ポテ
ンシャルを踏まえて産学官で
共同して効率化する。
・IASCC研究を実施するた
めの施設基盤整備
IASCC研究には照射を伴う
研究が必要なことから、JMTR
等の照射施設基盤整備を産
官で協力して推進する。
・IASCC研究に対応できる
人材育成
産官学の人的交流を図り、
IASCC研究に対応できる幅広
い能力を備えた人材を育成す
る。
産学官による協
調・共同研究が必
要な研究課題
産学官の役割分担
①産業界の役割
②国・官界の役割
③学術界の役割
④学協会の役割
・規格基準の精緻化
―安全性、信頼性、経済性の確保
向上を目的とした開発研究および
基盤整備
―安全規制における適正な行政判
断に必要な安全研究
―必要な基盤(知識、人材、施設、
制度)の整備
―産学の安全に関わる研究と基盤
整備に対する支援
―規格基準化とその高度化に貢献
・IASCC発生・進展データ整備、高精度化
・IASCC発生・進展シミュレーション技術
炉内構造物のIASCC発生・進展を予測する
方法の開発と実機適用
・IASCCメカニズム解明(共同研究の主体者)
・データや評価技術の検証、規制基準の整備
学協会規格のエンドース、健全性評価ガイ
ド策定
・IASCC 研究を実施するための施設基盤整
備(共同研究の主体者)
・IASCCメカニズム解明(共同研究の主体者)
・IASCC発生・進展シミュレーションの基礎技術
・IASCC研究に対応できる人材育成(共同研究
の主体者)
(・規格基準の精緻化支援)
―知の蓄積と展開(安全基盤研究
の検証)
―研究を支える人材の育成

23
第Ⅰ期(初期原子力プラントの40 年まで) 第Ⅱ期(同50 年まで) 第Ⅲ期(同60 年まで)
年 度 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015~2019 2020~2029
IASCC 発生・進展データ整備、
高精度化
IASCC 研究を実施するための
施設基盤整備
IASCC 発生・進展データ整備、
高精度化
データや評価技術の検証、規制
基準の整備
IASCC メカニズム解明
IASCC 発生・進展シミュレーショ
ン技術
規格基準、 規制基準への反映
IASCC 健全性評価ガイド
ラボデータと実機事象相関
IASCC 評価技術検証
IASCC 発生、進展シミュレーション技術開発
IASCC 発生試験方法
IASCC き裂発生データの拡張、高精度化
SCC 長期健全性評価ガイド
IASCC き裂進展データ拡張・高精度化
実機廃却材を用いたき裂進展データ取得
IASCC 評価技術検証(規制規格の高度化)
JMTR 等研究施設の改修
照射中IASCC 発生・進展評価
加速照射の妥当性検討
放射線分解水質の影響評価
IASCC き裂発生、進展メカニズム解明、モデル構築 高 照射下でのIASCC メカニズム検討
維 持規格へ反映
維持規格への反映
IA SCC 発生・進展シミュレーシ
ョンの規格化
役割分担: 産、 官、 学、 学協会
高経年化対応技術戦略マップ2009
ー 照射誘起応力腐食割れ(IASCC)に係るロードマップ -

24

25
総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会
【情報基盤WG】-【安全研究WG】-【国際協力WG】
【アドホック委員会】
原子力安全
基盤小委員会
技術情報調整委員会
報告
高経年化対応
技術戦略マップ
連携
9電力
福井
クラスター
総括検討会
東北・北海道
クラスター
東日本クラスター
高経年化対策強化基盤整備事業
個別検討会※2
茨城
クラスター
連携
高経年化に対応する技術戦略マップの従前のローリング体制
PLM研究
推進会議※3
JNES
各種技術検討会※1
※2 技術情報基盤(含む疲労)、配管減肉、検査・補修技術
コンクリート劣化、照射脆化、応力腐食割れ、ケーブル劣化
※1 照射脆化、応力腐食割れ、材料
評価技術、検査評価技術、ケーブ
ル・電気計装設備、補修技術
連携
連携
日本原電
電源開発
東芝
日立
GENE
三菱重工業
電中研
原技協
※3 応力腐食割れ、照射脆化、疲労、耐震安全、コ
ンクリート劣化、ケーブル絶縁劣化、配管減肉、検
査・モニタリング、予防保全・補修技術、保全の高度化等
・学識経験者
・電気事業者
・原子炉製造メーカ
・原子力安全・保安院
・JAEA
・JNES
・その他
産学官・学協会による検討会
第9回技術情報調整委員会(平成22年4月13日), 「高経年化対応技術戦略マップのローリング方針について」による 25
0.00
2.00
4.00
6.00
8.00
10.00
12.00
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
Budget (Billion Yen)
Year
Utilities
NISA
JAEA
JNES
国内の軽水炉高経年化対策関連安全研究予算
2004-2010
平成21年度第2回技術情報調整委員会安全研究WG;平成22年3月15日開催」 26
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
6.0
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
Year
Budget (Billion yen)
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
1.4
1.6
1.8
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
Year
Budget (Billion yen)
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
6.0
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
Year
Budget (Billion yen)
JNES Safety Research Project Utilities Joint Research Project
Material degradation, NDT etc.
Project on Enhancement of Ageing
Management funded by NISA
Academia & Research organization Project
Maintenance technologies
Ageing degradation mechanism etc
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
1.4
1.6
1.8
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
Year
Budget(Billion yen)
JAEA Safety Research Project
Material degradation etc.
国内の軽水炉高経年化対策関連安全研究予算
2004-2010

27
平成21年度第2回技術情報調整委員会安全研究WG;平成22年3月15日開催」
付録2
各国・国際機関等での研究・技術開
発の包括的取組調査の一例
日本原子力学会 「安全対策高度化技術検討」特別専門委員会
「安全対策高度化技術基盤整備事業」 技術マップ策定部会
での調査結果に基づく

29
米国の安全研究と関連研究開発体制
NRC
産業界・事業者
原子力(NE)局
大学・研究機関
国立研究所(約20カ所)
委託・資金
拠出
委託・資金拠出
共同実施
資金分担
共同実施
資金分担
原子力推進
・事業開発
・EPRI等での研究開発
共同実施
委託・資金拠出 ・基礎研究等
原子力規制
DOE
共同、協調と情報交換、コミュニケーションの体制が整備されている

30
米国NRCの原子力安全研究
安全研究に関する戦略目標
戦略計画(2008-2013)の2012年更新版による
• 永続的な安全性の確立、喫緊の安全課題の同定及び
解決へ向けた研究プログラムの実行、最新技術の安
全性理解のための長期的な研究への関与
• 福島事故から得られる教訓の評価
• リスク重要度や一般的な適用性に関して国内外の事
象や傾向を評価

31
米国NRCによる福島事故後の
安全性向上へ向けた対応
テーマ 提言内容
規制枠組みの強化 提言1
深層防護とリスクの再評価、論理的かつ系統的で一貫性のある規制の
枠組みの確立
確実な防護 提言2
原子炉の構造物・系統・コンポーネント(SSC)の地震及び浸水に関する
設計基準の再評価及び強化
緩和能力の強化
提言3 地震で誘発される火災や浸水を防止・緩和する能力の増強
提言4 全交流電源喪失(SBO)緩和能力の強化
提言5
Mark I型、Mark II型格納容器をもつBWRプラントにおける強化ベントの
導入
提言6 格納容器内部や他の建屋内部の水素制御・緩和に関する知見の特定
提言7 使用済燃料プールの冷却水補給能力とプールの計装の増強
提言8
緊急時運転手順書(EOP)、過酷事故管理指針(SAMG)、大規模被害
緩和指針(EDMG)などの所内の緊急時対応手順の強化・統合
緊急時対応の強化
提言9 長時間のSBOと複数基の事象への対応の緊急時計画への組み込み
提言10 複数基の事象と長時間のSBOに関係する緊急時対応の検討
提言11
意思決定、放射線モニタリング、公衆教育に関係する緊急時対応の検

NRCプログラムの
効率改善
提言12 深層防護の枠組み提言を踏まえたROPの強化・修正
短期タスクフォースでの提言

32
米国の産業界によるFLEX戦略
• 柔軟性と多様性を備えた事故緩和戦略であるFLEXアプローチを提案
• 一律の対策ではなく、それぞれのプラントの状況や危険性に応じた安全向上
策を策定することを目的
• 基本的には既存技術を組み合わせて用いて適切な対応アプローチを策定する
ことによって、長時間SBOや最終ヒートシンク喪失時の防護階層を増加
以下のような具体策を発表し、実行に移されつつある。
• 新たに移動可能な機器(発電機、ディーゼル発電機で稼動するポンプ、換気用ファン
など)や緊急時対応に必要な食料等を各プラントに配備
• 緊急時に必要な設備を供給するための共同地域センターを2014年8月までにテネシー州
メンフィスとアリゾナ州フェニックスに設置。地域センターには、電源・冷却水喪失
時に必要な発電機、ポンプ、放射線防護機器等を配備する。

33
米国:9.11テロ後の安全高度化へ向けた
研究・開発、規制対応(1)
 NRCは同時多発テロを受けて、全発電原子炉の許認可保有者に対して保障措置・セキュリティに関する暫定命令を発行。その後、これらの要件を許認可要件とする規則改定を実施
1. 航空機衝突対策
• 既存プラントに、航空機攻撃などの設計基準を超え
た爆発や火災によるプラントの広範囲にわたる喪失
に対処(炉心の冷却、格納容器の健全性、使用済燃
料プールの健全性と冷却の維持)の適切な手順・戦
略の策定を求める規則を2009年3月に発行
• 新規原子炉の申請者に、原子炉設計が大型民間航空
機の衝突による被害に耐えられる、あるいは被害を
緩和できることを評価するよう要求する規則を2009
年6月に発行⇒AP1000の設計変更などに反映
2. 敵対行為への対応
• 敵対行為シナリオでの訓練・演習の実施(Force-onforce
訓練)
3. 設計基礎脅威(DBT)の改訂
• 既存のDBTに、放射能漏れを伴う破壊活動および核
物質の盗取・転用、サイバー攻撃等をDBTに追加
• サイバー攻撃に対するセキュリティ計画の策定が許
認可要件に追加
4. 物理的防護・入出管理の強化
• 安全を阻害する電子的手段を持つ人物の出入管理、情報
共有、監視等の要件の強化
• 警備員の訓練・認定プログラムの強化、非武装警備員の
身体的な要件の追加。
• 物理的セキュリティ強化。(セキュリティ組織(対応部
隊)の設置、プラント内に防護区域、物理的防壁、隔離
地帯等を設置、防護区域内を監視するために十分な照明
の設置、中央警戒ステーション・警備員詰所の設置等)
• 車両、荷物に対するセキュリティ検査の徹底、搬入の制

5. テロ攻撃への防護、武器携帯規則策定
• 独立使用済燃料貯蔵施設(ISFSI)の防護強化
• 警備員が携帯する武器の強化
NRCによる規則要件の変更

34
• 物理的防壁と照明を設置した侵入探知区域の設置
• 全米65カ所のプラントにおいて、24時間体制で防護する武装警備員を8,000名育
成し、配備
• 境界フェンスの定期チェック及び巡回警備の実施
• テレビ監視システムや警報措置などの侵入検知設備の強化
• 重要区域における防弾防壁の設置
• 有事専門部隊の整備
• プラント制御システム及び安全機器制御システムのインターネットからの隔離
• サイバーセキュリティ指針の策定と実行
• サイバーセキュリティ・テンプレートの策定。現行サイバーセキュリティの評価、ア
ナログ機器のデジタル化の際の評価、緊急事態・災害からの復旧、セキュリティ
訓練の一環としての定期的な脅威・脆弱性レビューで構成
• AP1000の設計変更
飛行機の衝突事故に対する新しい規制要求に対応して、遮蔽建屋の強度を増す
などの設計変更を行い、再度2011年に設計認証を取得
産業界の対応:NRCの規制改訂に対する具体的な対策
米国:9.11テロ後の安全高度化へ向けた
研究・開発、規制対応(2)

35
フランスの研究開発体制
法令等を元に作成
• 原子力安全R&Dを実施する主要
な組織は、放射線防護・原子力安
全研究所(IRSN)と原子力・代替
エネルギー庁(CEA)。
• 原子力施設の許認可権限や、関
係機関の管轄権限は複数の省庁
によって共有される体制。
• 国としての原子力に関するR&Dの
方向性を規定するような政策文書
はなく、R&Dを担当する公的機関
が、設置根拠法令等で規定された
組織の使命に照らして、研究計画
を策定している。
• 各研究機関は国に対して実施を
約した研究計画に関する複数年
契約を政府(管轄省庁)と結ぶ。
• 各機関には、管轄省庁等の代表
者も出席し、その機関が実施する
研究の方向性を監督する委員会
が置かれている。

36
フランス原子力研究開発予算の
福島事故後の変化
(単位は100万ユーロ) 2011年 2012年 2013年
CEA 430.0 465.4 451.8
IRSN 144.3 141.9 138.1
政府のR&D予算総額 10,797 10,849 10,931
原子力関連予算の割合 5.3% 5.6% 5.4%
エネルギー・開発・持続可能国土整備に関する研究のうち、
CEAとIRSNの研究関連予算の福島事故前後の比較
 IRSNとCEAは“公的機関:EPIC”であり、活動費用は政府予算のうち「エネル
ギー・開発・持続可能国土整備に関する研究」向けの補助金から拠出される。
 CEAは、福島事故を踏まえて「これまで実施してきたR&Dに重大な欠落はなか
った」( 2012年2月に発表した原子力安全研究に関する文書)として、これまで
の研究枠組みを継続する方針。
 IRSNも、「過去の研究成果が、福島事故後の緊急時対応で活用され、これま
での研究取組みが政府にも評価された」( 2011年報)としている。
 注力する研究テーマの見直しはあるが、予算額ではCEAやIRSNの研究活動の
大枠や規模については、福島事故後で大きく変わっていない。
 ただし、福島事故をうけて強化すべきテーマについては、「未来への投資」の枠
組みで特別予算を拠出して研究を実施する方針。

37
EU SARNETプログラム(1)
SARNETの経緯
• 1980年代以降、フレームワークプログラム等を活用して、シビアアクシデントマネジメントで大きな
前進があった。
• 第5次フレームワークプログラムで実施されたEURSAFEプロジェクト等で、不確実性低減のため
に研究が必要な点が指摘される。シビアアクシデントに関する研究の国レベルの予算減に直面し
て、専門家や施設の効果的な活用のための調整の必要性が認識される。
• 2004年4月、シビアアクシデント研究に携わる51組織が、第6次フレームワークプログラムの枠組
みにおいて第1期目のSARNETを立ち上げ。主たる成果は6項目の最優先の研究課題の特定。
• 2009年4月、 米国NRC、韓国原子力研究所(KAERI)も加えて、第7次フレームワークプログラム
の枠組みにおいて第2期目のSARNETを立ち上げ。フランス放射線防護・原子力安全研究所(
IRSN)が調整役。2010年4月には韓国原子力安全技術院(KINS)も参加。
SARNET (Severe Accident Research NETwork of Excellence)
• フレームワークプログラムの枠組みにおいて、2004年以降実施。
• 第2期は2009年4月から48か月間で、総予算は約3,900万ユーロ、うちECの負
担は575万ユーロ。
• 19の欧州諸国およびカナダ、韓国、米国の、19研究機関(JRCを含む)、8大学、
8電気事業者、および7規制機関、または安全性に関係する技術機関で構成。
• 福島タスクフォースも立ち上げている。

38
SARNET2の活動内容
• 研究プログラムの優先度を定期的にランク付けし、すでに進められているものの調整や再編成を
行い、必要に応じて新しいプログラムを策定する。
• 最優先の研究課題(2009年6月時点):①圧力容器内の冷却機能の確保、②溶融した炉心とコン
クリートの相互作用、③冷却材の相互作用、④格納容器内での水素の混合と燃焼、⑤ソースター
ムにおける酸化条件の影響、⑥ヨウ素の化学反応
• 上記の点に関する実験と共同での分析により、問題となる物理現象に関する共通理解の形成
• ASTECの開発と検証や、BWRおよびCANDU炉への応用(従来のASTECはPWRやVVERに適
用される評価コード)
• 実験結果の、科学的なデータベース上への保存
• 教育コースの開発と、様々な欧州の組織間における人材交流の促進
SARNET1の活動内容・目的
• 情報交換の促進のためのコミュニケーションツールの作成
• 研究プログラムの調整や再検討、共通的なプログラムの確定
• 研究プログラムによってもたらされる実験結果の共通での分析による現象に関する共通理解の獲得
• 事故ソースターム評価コード(ASTEC)の開発
• 研究プログラムの結果をすべて保存する科学データベースの開発
• 原子炉の確率論的安全評価の共通的な方法論の開発
• 欧州の組織間での人材交流の促進
EU SARNETプログラム(2)

39
SARNETウェブサイトに基づき作成
SARNETによって構築される事故ソースターム評価コード(ASTEC)の構造
EU SARNETプログラム(3)

40
OECD/NEA:福島事故を踏まえた安全課題
安全強化のためのNEAの統合的福島活動(INFASE)プログラム(2012.5)
出典:OECD/NEA, OECD Nuclear Energy Agency (NEA) activities in follow-up to the TEPCO Fukushima Daiichi nuclear accident
1. 事故の管理及び進行(事故の推移、事故の進
展、ヒューマンパフォーマンス、オフサイト)
2. 危機、緊急時のコミュニケーション(公衆、規制
者、オンサイトとオフサイト)
3. 深層防護の再評価
4. 多重事象を含む内部/外部事象の発生に関
する定義・評価手法、及び設計基準の基準
(design-basis criteria)定義手法の見直し
5. 原子力安全の課題となりうる条件の特定/対
応のための運転経験等の再評価(運転経験
の評価、安全研究のギャップ評価)
6. 規制決定における決定論的手法及び確率論
的手法のバランス
7. 規制基盤
8. 放射線防護
9. 除染及び修復による放射線防護の側面
さらにNEAは、過酷事故(SA)コードの開発や福島第一発電所の炉心デブリ除去のための現状の把握を目的として、日本の研
究機関(JAEA)等と共同で、「福島第一原子力発電所事故のベンチマーク調査プロジェクト(BSAF)」を2012年11月に開始した。
同プロジェクトでは、SAコードを用いた全体の解析、地震発生から6日間の事象解析、12の主要事象の解析が行われている。

41
国際的な研究プロジェクトとその評価(1)

出典: NEA, Nuclear Safety Research in OECD Countries: Major Facilities and Programmes at Risk (SFEAR), 2001
OECD 2004 現在及び将来の原子力エネルギーシステムの研究開発ニーズ
 OECD/NEAでは、原子力施設安全委員会(CSNI)、原子力規制活動委員会(CNRA)を中心に原子力安全分野を所管し、R&D活動を取りまとめている。

 CSNIは1992年、安全性研究に関する専門家上級グループ(SESAR)を設置、SESARは2001年および2007年に現在実施中の研究のレビューおよび将来の必要条件と優先順位の検討を実施した。(レビューの結果、SESARは、適切な研究基盤設備を確保することを支援する国際プログラムを提言した)

2001年レポートで示された中長期的課題
• プラント寿命管理:機器・系統・構築物(ハードウェア)の老朽化、解析と文書化手段(ペーパーウェア)
の老朽化、古い施設に対する現代の基準の適用、施設の延命及びバックフィットを含む。
• 運転裕度の最適化:定格出力増強、燃焼度向上、確率論的安全性解析(PSA)の利用拡大等を含む。
• 過酷事故:実用的な事故対策手順の更なる開発及び将来炉における解決策の設計の必要性を含む。
2001年レポート:レビュー時に考慮された技術分野とSESARの勧告
• 熱水力学:確認試験の実施、コード開発の支援及び教育の機会提供の必要性から、原子炉タイプ毎にひとつの主要施設を維持
• 過酷事故:溶融炉心/冷却材相互作用及び核分裂生成物の挙動に関する中核的研究拠点の必要性に対処
• 燃料及び炉物理、構築物の健全性:ホットセルと試験炉の現状を維持
• ヒューマンファクター及びプラント管理・モニタリング:ハルデンプロジェクトを中核研究拠点として維持
• 地震:大型振動台の有用性をモニタする
• 火災安全性:国際データベースを構築し、可能性のある研究の追加を検討する
OECD/NEA:CSNIの役割と合同研究プロジェクト評価

42
●原子力産業固有の課題
出典: NEA, Nuclear Safety Research in OECD Countries, Support Facilities for Existing and Advanced Reactors (SFEAR), 2007
NEA, Research and Test Facilities Required in Nuclear Science and Technology, 2010
• 熱水力学(14)
• 燃料(5)
• 炉物理(6)
• シビアアクシデント(18)
• 機器・構造の健全性(11)
●原子力産業固有でない課題
• ヒューマンファクター(5)
• プラント制御・監視(5)
• 振動の影響(4)
• 火災評価(5)
• HTGR固有の課題
2007年レポートで示された評価の枠組み
• 2007年の評価では、研究分野を左の10項目に分類
• 各分野で計72の研究課題をピックアップし、安全との関連性、既存知見
の状況(知見の未熟度)、研究施設の必要性を評価
• シビアアクシデントについては、事故進展・影響緩和に関する不確実性
を減じること、プラントの設計や運転特性の変更(高燃焼度燃料の使用
等)による安全影響の理解に役立つ研究課題が有用とされた
1. 溶融前の炉心条件
2. 圧力容器内での溶融進行
3. 圧力容器内での炉心冷却の相互作用
4. 炉心溶融の進行による雰囲気の影響
5. 高燃焼度燃料・MOX燃料の影響
6. 圧力容器(RPV)にかかる圧力
7. RPV健全性の維持
8. 圧力管型原子炉の圧力管の健全性
9. 圧力容器外での事故進行と炉心デブ
リの冷却能力
10. 溶融炉心-コンクリート相互作用
11. 圧力容器外への炉心冷却の相互作用
12. 可燃性ガスの制御
13. 核分裂生成物質(FP)の放出
14. 閉じ込め失敗後の環境中へのFP放出
15. 格納容器の健全性
16. 格納容器バイパスでの蒸気発生管の
過熱・欠損
17. 過熱された炉心の冷却可能性
18. 事故管理戦略
OECD/NEA:CSNIの役割と合同研究プロジェクト評価
国際的な研究プロジェクトとその評価(2)

43
CSNIの2001年、2007年レビュー結果も踏まえ、現在、以下のようなヨウ素挙動プロジェクト(BIP)、ハルデンプ
ロジェクト(Halden)等の、安全・過酷事故管理に係る合同研究プロジェクトが実施されている。
コンポーネント健全性
・PRISME、PRISME-2
原子炉冷却系の熱水力学
・SETH ・PKL、PKL-2、PKL-3
・ROSA、ROSA-2
・LOST
先進炉
・LOFC
燃料安全性
・Halden
・SCIP、SCIP-2
・CIP、SFP
閉じ込めの課題
・SETH、SETH-2 ・THAI、THAI-2
・BIP、BIP-2
・STEM
圧力容器健全性
・TMI-VIP ・OLHF
圧力容器内のシビアアクシデント
・RASPLAV ・MASCA
圧力容器外のシビアアクシデント
・SERENA
・MCCI
・MACCI-2
福島事故関連 ・BSAF
※太字が実施中のプロジェクト
出典: OECD/NEA, Main Benefits from 30 Years of Joint Projects in Nuclear Safety, 2012
OECD/NEA:安全高度化のための合同研究プロジェクト
国際的な研究プロジェクトとその評価(3)

44
付録3
Light Water Sustainability Program
Goals and Scope について
ISaG2013* におけるDr. Kathryn A. McCarthy氏**の講演資料より

45
* ISaG2013 : International Symposium on Ageing Management Program Development for
System Safety of Nuclear Power Plants (November 22, 2013, Tokyo, Japan)
規制庁事業の総括検討会が主催する国際会議
** Dr. McCarthy氏 : Director, Light Water Reactor Sustainability Technical Integration Office,
Idaho National Laboratory (U.S.A)
Light Water Sustainability Program Goals
and Scope
• Develop the fundamental scientific basis to understand,
predict, and measure changes in materials and
structures, systems and components (SSCs) as they age
in environments
• Apply this knowledge to develop and demonstrate
methods and technologies that support safe and
economical long-term operation of existing reactors
• Researching new technologies that enhance plant
performance, economics, and safety
• Scope
– Materials Aging and Degradation
– Risk-Informed Safety Margin Characterization
– Advanced Instrumentation, Information and Control
Systems Technologies

46
Light Water Reactor Sustainability
Program – the Federal Role
• National strategic interest in the long-term operation of existing plants
– Supports climate change objectives
– Supports energy security
– Avoids higher cost to ratepayers for new plant replacements
• Cost-sharing is being employed through cooperative research activities with industry, primarily the
Electric Power Research Institute (EPRI)
• Addresses fundamental scientific questions where private investment or capabilities are
insufficient to make progress on broadly applicable technology issues for public benefit
• Government (DOE and its national laboratories) holds a large theoretical, computational, and
experimental expertise in nuclear R&D that is not available within the industry
• Benefits will extend to the next generation of reactor technologies being deployed and still in
development
• Federal program creates an environment (by reducing uncertainty and risk) that provides
incentives for industry to make the investments required for power operation periods to 60 years
and beyond

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R&D Coordination and Collaboration is
Essential to LWRS Program Success

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