2013年12月1日日曜日

深海底の熱水で発電成功 「地産地消」で鉱床を探査

深海底の熱水で発電成功 「地産地消」で鉱床を探査

http://sankei.jp.msn.com/science/news/130923/scn13092312410000-n1.htm

2013.9.23 12:38 (1/3ページ)
深海底から噴出する硫化水素を含む熱水を使って電気を生み出す「海底熱水発電」の実験に、海洋研究開発機構のチームが世界で初めて成功した。海底の探査や観測に不可欠な電力を現地で調達できれば、海洋研究の可能性は一気に広がる。(伊藤壽一郎)


■深海に輝くLED
沖縄・伊平屋(いへや)島沖の深さ1050メートルの海底。噴出している約300度の熱水に、無人探査機「ハイパードルフィン」のロボットアームで電極をかざすと電流が発生し、太陽光が届かない闇の世界に発光ダイオード(LED)が赤く輝いた-。
海洋機構は今月、こんな実験に成功したと発表した。山本正浩研究員は「地下深くから噴き出す熱水と周辺の海水には電位差があり、それを利用して電気を起こしたのです」と説明する。
地球上には、地下のマグマ活動が活発な場所が多数存在する。海域では海底からしみ込んだ海水がマグマで熱せられ、陸上の温泉と同じように、硫化水素を大量に含む熱水が地殻の隙間から噴出する。
硫化水素は水中で硫黄と水素イオンに分解し、電子を放出する。実験では、この電子を、チタン製パイプの内側にイリジウムを塗った電極で受け取った。
電子は電線を通って海水側の白金電極へ移動。酸素と水素イオンに分離し、電子を受け取りやすくなっている海水へ放出された。こうして電子の流れ(電流)が発生し、両電極の間に設置したLEDを点灯させることができた。山本研究員は「実に単純な仕組みです」と話す。

http://sankei.jp.msn.com/science/news/130923/scn13092312410000-n2.htm

2013.9.23 12:38 (2/3ページ)

■電力を現地調達
海底の熱水活動域は、日本近海では沖縄県の琉球諸島付近と、伊豆諸島から小笠原諸島にかけての海域に存在する。熱水の噴出孔は海底から煙突状に突き出した「チムニー」を形成。ゴカイやエビなどの仲間が独特の生態系を構築する。
チムニーからは硫化水素だけでなく、金や銀、レアアース(希土類)など工業的に価値が高い金属類も噴出。これらが周辺に堆積して熱水鉱床となる。貴重な海洋資源として、国内では急ピッチで調査研究が進んでいる。
実は海底熱水発電のアイデアは、こうした熱水鉱床の研究から生まれた。調査で使う無人探査機は、母船にケーブルをつないで電力供給を受けるため行動範囲に限界がある。海底に据え付ける観測機器も、電池の容量で運用期間が制限されてしまう。
このため探査機の自由度を向上させ、観測機器の稼働期間を延ばすことが大きな課題になっていた。
そこで山本研究員は「現地で発電してしまえばいい」と、電力の“地産地消”を思いついた。天然の熱水噴出孔は、穴の形状が不規則で噴出が安定しないため、ボーリング調査で開けた穴をパイプで整えた人工の熱水噴出孔を使い、実験を成功させた。

http://sankei.jp.msn.com/science/news/130923/scn13092312410000-n3.htm

2013.9.23 12:38 (3/3ページ)
 
■巨大な海底発電所も
今回の実験は、ちっぽけなLEDを3個点灯させたにすぎない。探査機を動かせるほどの大規模な電力は供給できるのだろうか。山本研究員は「可能性は大いにある」と強調する。
使用した熱水噴出孔は直径約6センチで、噴出量は毎秒約3リットル。天然ではごく普通の規模だ。この噴出孔の年間電力供給量を試算すると約2万3千キロワット時となり、一般家庭6世帯の年間消費量に相当する。
「熱水活動域は広大なため、たくさんの発電装置を数珠つなぎにすれば、巨大な海底発電所を実現できるかもしれない」
装置は単純な構造で設置も簡単なため、コスト面のハードルは低そうだ。熱水噴出孔の周辺は硫化鉄が大量に堆積するため、電極の効率低下や腐食が懸念されたが、実験の結果、硫化鉄も発電の“燃料”として分解されることが分かり、問題はないという。
海底熱水発電の研究はまだ始まったばかりで、本格的な開発はこれからだ。山本研究員は「日本の海洋研究を飛躍的に発展させる可能性がある。将来的には陸上への電力供給にもつながれば」と話している。

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http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20130903/

2013年 9月 3日
独立行政法人海洋研究開発機構
独立行政法人理化学研究所

海底から噴出する熱水を利用した燃料電池型発電に成功
~深海における自律的長期電力供給の可能性~


1.概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)海底資源研究プロジェクトの山本正浩研究員と理化学研究所・環境資源科学研究センターの中村龍平チームリーダーらの共同グループは、沖縄トラフに人工的に作られた深海底熱水噴出孔(人工熱水噴出孔*1)において熱水と周辺海水の電気化学的な現場測定を行いました。この結果に基づいて、熱水と海水を燃料にできる燃料電池(以下、熱水-海水燃料電池*2)を人工熱水噴出孔に設置して、深海底での実発電に成功しました。
海底から噴き出す熱水には硫化水素のように電子を放出しやすい(還元的な)物質が多く含まれており、一方で周辺の海水には酸素のように電子を受け取りやすい(酸化的な)物質が多く含まれています。私たちはこの熱水と海水の間に電子の受け取りやすさの違い(酸化還元勾配)があることに注目し、そこから電力を取り出す方法を試験しました。具体的には、熱水噴出孔とその周辺海水にそれぞれ電極を設置するというシンプルな方法で燃料電池を構築し、発電を行いました。この方法は、燃料となる熱水と海水が無尽蔵に供給されることから、電力の長期にわたる安定供給に適しています。これまで海底熱水活動域での発電については温度差や蒸気を利用したものが研究されていますが、それらと比較して本手法は単純な装置で発電でき、また、腐蝕に強く長期に渡り使用可能であると考えられます。今後は、長期的な試験を重ねてこのことを確かめる予定であり、活発化する深海熱水活動域での研究や開発の現場において電力を供給するための重要な技術になると期待されます。

本研究結果は、9 月3 日(日本時間)付の「ドイツ化学会誌インターナショナル版(Angewandte Chemie International Edition)」オンライン版に掲載されました。また、本成果は現在特許出願中です。

タイトル:
Electricity generation and illumination via an environmental fuel cell in deep-sea hydrothermal vents

著者:
Masahiro Yamamoto1、Ryuhei Nakamura2、Kazumasa Oguri1、Shinsuke Kawagucci1、Katsuhiko Suzuki1、Kazuhito Hashimoto3、Ken Takai1 1. Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology (JAMSTEC)、2. RIKEN Center for Sustainable Resource Science、3. Department of Applied Chemistry, The University of Tokyo Doi: 10.1002/anie.201302704

2.背景
化石燃料や原子力に頼らない発電方法として、海洋の様々なエネルギーを電力に変換する技術が研究されており、海洋資源の探査や開発を行う上でも重要な技術として注目が集まっています。例えば、火山帯である日本列島近海の海底には特に多数の熱水噴出孔が発見されており、このエネルギーの発電への利用が期待されています。この一つとして、これまで熱水と海水との温度差を利用した発電方法の開発が行われてきました。これに対し、熱水には電子を放出しやすい(還元的な)物質が豊富に含まれており、一方で周囲の海水には電子を受け取りやすい(酸化的な)物質が豊富に含まれていることから、両者間の電子の移動を人工的に促進させることでも電力を取り出すことが可能であると理論的に考えることができます。しかしながら、このような電気化学的な発電を深海で試した例はなく、またその基礎となる電気的な解析も深海熱水を対象に行われた例はほとんどありませんでした。

3.成果
2010年の統合国際深海掘削プログラム(IODP)の活動で沖縄トラフの伊平屋北フィールドで海底掘削研究が行われ、いくつかの人工熱水噴出孔が作られました。私たちの研究グループは、2012年に研究船「なつしま」と遠隔操作型無人探査機(ROV)「ハイパードルフィン」を用いて、これらの人工熱水噴出孔の一つを使って発電に関する実験と観測を行いました。具体的には、深海に電気化学的な測定を行える装置を持ち込み、熱水や海水が持つ電気的な特徴の調査を世界で初めて本格的に行うことにより、熱水と周辺海水の間には約520mVの電位差があることが実測によって確かめられました。そして、熱水中では水素や硫化水素などの還元的な物質から電子が電極に流れ、海水中では電極から酸素や酸化鉄などの酸化的な物質に電子が流れる様子を観測しました。そして、この一連の電子の流れから電力を取り出す装置として熱水ー海水燃料電池を作製し、人工熱水噴出孔に設置しました。熱水ー海水燃料電池とは、電動機器(今回はLEDライト)を熱水側の電極と海水側の電極の間に電線でつなぐだけのシンプルな構造の燃料電池であり、深海での発電によって消費電力が21mWの LEDライトを点灯させることに成功しました。今回設置した燃料電池では電極のサイズが小さいので微小な発電に留まりましたが、この熱水噴出孔が持つ化学エネルギーの潜在能力は2.6kWと試算されており、電極の大きさ・構造・素材などを工夫することでもっと大きな電力を取り出す事が可能であると考えられます。また、熱水噴出孔に自然に沈殿する硫化鉱物が電極に付着した場合にも燃料となって消費され溶解することや、硫化鉱物自体が電極として機能できることが実験的に確かめられたことから、この熱水ー海水燃料電池の電極が硫化鉱物などで覆われにくく、仮に硫化鉱物で覆われた場合にも高い発電能力を維持できることが予想されました。このような特徴を備えつつも、熱水ー海水燃料電池は装置の基本構造が非常に単純なため、幅広い応用が可能であると考えられます。

4.今後の展望
熱水噴出孔周辺は硫化水素が多く含まれるため装置の腐食が進行しやすい環境ですが、熱水ー海水燃料電池では硫化水素による腐食を抑制できるという上述の予想を確かめるため、長期的な運転を観察することで実際の耐久性を試験する必要があります。また、熱水と海水の温度差や熱水噴出の流勢など利用した発電と熱水ー海水燃料電池による発電を組み合わせることで、熱水噴出口から最大限の電力を取り出すことが可能になると考えられ、最終的に海底に電力供給システムを作ることができれば、深海での研究や開発に貢献することが期待されます。

※1 人工熱水噴出孔:海底掘削によって海底下の熱水溜まりまで掘り抜くことで、人工的に作られた熱水噴出孔。天然における熱水噴出孔とは地熱で熱せられた水が噴出する割れ目のことであり、深海では水圧が高く水の沸点が上がるため、熱水は300℃以上に達することもある。天然の熱水噴出孔周辺は、活発な生物活動がよく見られるが、噴出する熱水中に溶解した各種の化学物質と周囲の海水中の化合物の化学反応からエネルギーを取り出し有機物を合成する微生物が食物連鎖の底辺を支え、その上位にジャイアントチューブワーム・二枚貝・エビなどがみられる。人工熱水噴出孔は、噴き出す熱水が天然熱水と同じ成分を持ち、無人探査機による接近が容易で、決まった位置から安定的な熱水噴出が見込めるといった長所を持つので、海底熱水を長期的に利用するのに都合が良い。

※2 熱水ー海水燃料電池:熱水と海水を燃料とする燃料電池。筆者の造語。燃料電池とは補充可能な燃料を供給することで継続的に電力を取り出すことができる発電装置である。燃料として必ず負極剤(負極に電子を渡す燃料)と正極剤(正極から電子を受け取る燃料)の2種類がいる。熱水ー海水燃料電池では熱水が負極剤、海水が正極剤となる。熱水側と海水側にそれぞれ負極と正極となる電極をさらし、その電極の間に何らかの電動装置を電線で連結させるだけという、とてもシンプルな構造から成る。

図1

図1 深海熱水噴出孔の写真

沖縄トラフ伊平屋北フィールドの深海熱水噴出孔。中央に見えるのがチムニー(煙突)と呼ばれる構造物で熱水の成分が沈殿して形成される。多くの場合は硫化鉱物が主成分となる。チムニーの先端辺りに熱水噴出を示すゆらぎを観察できる。周囲にはゴカイやエビなどの動物が繁殖している。

図2

図2 人工熱水噴出孔
海底掘削によって人工的に作られた熱水噴出孔。海底下の熱水溜まりまで穴を掘り、ステンレス製のケーシングパイプで海底面まで熱水の通路を作る。常にガイドベースと呼ばれる安定した土台の中央から熱水が噴出するため、天然の熱水噴出孔と比べて、無人探査機の噴出孔への接近や熱水の観測が容易になる。



図3

図3 熱水ー海水燃料電池の概念図
今回使用した燃料電池の構成。熱水側電極とLEDライトと海水側電極を電線で連結しただけの単純な構造である。熱水側電極には直径3cm×長さ40cmのチタンパイプの内部にイリジウムを塗布したチタン網を配した。海水側電極は白金を塗布した50cm×50cmのチタン網である。熱水側電極では主に硫化水素(H2S)が酸化され電子が電極に流れ込む反応が進行する。海水側電極では主に酸素(O2)が電極から電子を受け取り還元される反応が進行すると考えられる。

図4図4 熱水ー海水燃料電池の写真

A) 熱水ー海水燃料電池の全体写真。ただし電極(海水側)は写真から切れている(写真左)。
B) LEDライトを別カメラで正面から撮影したもの。3個の赤色のLEDが点灯しているのが分かる。
C) 電極(熱水側)周辺の拡大写真。電極(熱水側)のチタンパイプの先端側に人工熱水孔とそこから噴き出す熱水が見える。チタンパイプの反対側には緑色の取手が付いていて、その取手を無人探査機のロボットアームがつかんでいる。

お問い合わせ先:
独立行政法人海洋研究開発機構
(本研究について)
海底資源研究プロジェクト 海底熱水システム研究グループ
研究員 山本 正浩 電話:046-867-9710
(報道担当)
経営企画部 報道室長 菊地 一成 電話:046-867-9198

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沖縄掘削孔ストーリーあれから1年半編



公開日: 2012/04/03
沖縄トラフ伊平屋北熱水活動域IODP#331掘削から1年半の観察日記。
「とる海底資源から育てる海底資源へ」
詳細はこちらへ。
http://www.jamstec.go.jp/biogeos/j/xb...

プレスリリース(2012年3月23日)
「人工熱水噴出孔を利用した有用鉱物資源の持続的回収」研究開発
海底熱水資源開発に向けた新たな基盤研究に着手
http://www.jamstec.go.jp/j/about/pres...

「沖縄熱水海底下生命圏掘削」2010 特設ページ
http://www.jamstec.go.jp/okinawa2010/j/

沖縄トラフ熱水活動域「ちきゅう」掘削孔を利用した潜航調査計画 in NT10-17
http://www.jamstec.go.jp/j/jamstec_ne...

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Hydrothermal vents in the deep sea



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熱水噴出孔

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%86%B1%E6%B0%B4%E5%99%B4%E5%87%BA%E5%AD%94

熱水噴出孔(ねっすいふんしゅつこう、: hydrothermal vent)は地熱で熱せられたが噴出する割れ目である。熱水噴出孔がよく見られる場所は、火山活動が活発なところ、発散的プレート境界海盆ホットスポットである。
熱水噴出孔は地球上ではふんだんにみられるが、その理由は地質学的活動が活発であることと、表面に水が大量にあることである。陸上にある熱水噴出孔には温泉噴気孔間欠泉があるが、これらについては各項目を参照するとして、ここではおもに深海熱水噴出孔について述べる。
深海によく見られる熱水噴出孔周辺は、生物活動が活発であり、噴出する液体中に溶解した各種の化学物質を目当てにした複雑な生物社会が成立している。有機物合成をする細菌古細菌食物連鎖の最底辺を支え、そのほかにジャイアントチューブワーム二枚貝エビなどがみられる。
地球外では木星衛星エウロパでも熱水噴出孔の活動が活発であるとみられているほか、過去には火星面にも存在したと考えられている[1]

熱水噴出孔の海中探査
1949年紅海中部の海底を調査したところ特異な熱水床の存在が報告された。1960年代になると60°Cの塩類を含む水とこれに関係する金属を含むの存在が確認された。熱い水溶液は活発な海底下のリフトから噴出していた。塩分濃度が高すぎて生物の生息は無理な環境であった[2]。この塩水と泥が貴金属卑金属の供給源でありうるか現在調査中である。
海中の熱水噴出孔の一種であるブラックスモーカー東太平洋海嶺の支脈にあたるガラパゴスリフトのある海域で、海水温を調査中の海洋地質学者のグループが1976年に発見した。計測温度とその他の証拠から、地質学者はこの発見は熱水噴出孔からの噴出水であると結論付けるに十分な情報を得た。1977年、リフトに戻った地質学者はウッズホール海洋研究所の潜水艇アルビン号を使って数々の熱水噴出孔を目視確認した。同年、Peter Lonsdaleは熱水噴出孔に関する初の論文を発表した。
2005年にはある鉱物資源調査会社が、ケルマディック島弧で3万5,000km2の調査を許可され、熱水噴出孔により形成された亜鉛硫化物の新しい鉱床たりうる海底硫黄鉱床を探査した。2007年4月には中米コスタリカ沖合の太平洋における新しい熱水噴出孔海域(ギリシア神話の怪物 メドゥーサ にちなんで命名された)の発見が発表された[3]
2010年4月6日イギリス国立海洋学センターの研究チームが、カリブ海ケイマン諸島沖合のケイマン海溝で、世界で最も深い場所に位置する熱水噴出孔を発見した[4]。それまで確認されていた通常の熱水噴出孔の約2倍、最も深いとされたブラックスモーカーよりもさらに800m深い水深5,000mの海底にある。海洋探検家ウィリアム・ビービen:William Beebe)にちなんで「ビービ(ビーブ噴出孔フィールド)」と名付けられたこの熱水噴出孔は、鉄と銅の鉱石で形成されたチムニーを持つブラックスモーカーのひとつである[5]。水温は摂氏400度と推定され、周辺では目を持たず代わりに背中に光受容体を持つ新種のエビ類や白い触手を持つ新種のイソギンチャク類など発見が相次いでいる[6]

物理的特徴
深海熱水噴出孔がよくみられるのは中央海嶺沿いである。ここは2つのプレートの境界域でマントルプリュームが上昇するところである[7]
海底の熱水噴出孔から噴出する水は、断層や透水性の堆積層からしみ込んで火山性の地熱構造で熱せられた海水が多いが、マグマの上昇に伴って放出されたマグマ水も一部含む。
陸上では噴気孔や間欠泉に回る水の多くが降水地下水であり、これらは地表から地熱を受ける深さまでしみ込んだものであるが、一部には変成水、堆積層中で塩類を溶解した水、マグマから放出されたマグマ水を含む。
熱水噴出孔から噴出する水温は400°Cにも達するが、熱水噴出孔がある深海の水温は2°Cくらいである。深海の高い水圧によりこの高温でも水は液体のままで沸騰しない。水深3,000mで407°Cの水は超臨界状態である[8] 。塩濃度が上昇すると、臨界点は高くなる。
熱水噴出孔によってはチムニー(煙突)とよばれる円柱状の構造物を形成することがある。超高温の熱水に溶解している鉱物が0°Cに近い海水と接触すると、接触面で化学反応が進み生成物が析出・沈殿してこのようなチムニーができる。そのようなチムニーの例としては、オレゴン州の沖合にある高さ40mで折れてしまった通称『ゴジラ』がよく知られる。なかには高さ60mに達するものもある[9]
熱水チムニーの生成には、硫化鉱物と硬石膏の沈殿が伴う。これらの鉱物はチムニーと海水の境界面で析出して沈殿し、長い間には透水性が低下する。チムニーが一日30cmずつ成長したという記録もある[10]
チムニー構造で黒色の熱水を噴出するものを特に「ブラックスモーカー」とよぶ。ブラックスモーカーが噴出するのは、黒色の硫化物の微細結晶を多量に含むためである。一方、「ホワイトスモーカー」が噴出するのは、無色に近いバリウムカルシウムの硫酸塩鉱物や石英などを多量に含むためである。ホワイトスモーカーの熱水はブラックスモーカーの熱水より温度が低い傾向がある。また沖縄トラフの鳩間海丘では有人潜水調査船しんかい6500による探査で「ブルースモーカー」が発見されたが、この色の解明は今後の調査を待つ段階である。


関連項目
ブラックスモーカー
冷水湧出帯
噴気孔
間欠泉
温泉
生命の起源
海底火山
海底熱水鉱床
en:Lost City (hydrothermal field)

最終更新 2013年4月7日 (日)

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硫化水素

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A1%AB%E5%8C%96%E6%B0%B4%E7%B4%A0

硫化水素(りゅうかすいそ、: hydrogen sulfide)は化学式 H2S をもつ硫黄水素無機化合物。無色の気体で、腐卵臭を持つ。空気に対する比重は1.1905である。

特徴
空気より重く(比重1.1905)、無色、によく溶け弱い酸性を示し、腐った卵に似た特徴的な強い刺激臭(腐卵臭とはそもそも硫化水素が主成分の臭いである)があり、目、皮膚、粘膜を刺激する有毒な気体である。悪臭防止法に基づく特定悪臭物質のひとつ。噴火口硫黄泉などの臭いが「硫黄の臭い」と形容される場合があるが、硫黄は無臭であり、これは硫化水素の臭いをさしている。
人為的な発生源には石油化学工業などがあり、また、下水処理場、ごみ処理場などにおいても、硫黄が嫌気性細菌によって還元され硫化水素が発生する。また、飲食店などの厨房排水で設置される分離槽や溜め枡内で、閉店後水が動かなくなると非常によく発生する。糞、屁にも若干含まれる。
また、自然由来としては、火山ガス温泉などに含まれる。空気よりも重いため火山地帯、温泉の吹き出し口などの窪地にたまりやすい。
可燃性ガスであり引火性がある。爆発限界は4.3 - 46 v/v%。燃焼した場合には硫黄酸化物となる。
硫化水素は好気性生物にとっては有毒であるが、海底火山熱水噴出孔付近に生息する細菌の中には、硫化水素を栄養源にして生息している硫黄酸化細菌もいる。

化学的性質
硫化水素は共有結合性の水素化合物で、硫黄酸素とが周期表において同じ元素の族第16族)であるためと分子構造がよく似ている。密度は、空気を1とすると1.190であり空気よりも重い。
水溶液(硫化水素酸)では、硫化水素イオン (HS-) と水素イオン (H+) に電離して弱い酸性を示す。
H2S  \rightleftarrows\ HS- + H+
Ka = 1.3 × 10-7 mol/L; pKa = 6.89.
その水溶液はゆっくりと酸素と反応して単体硫黄を生じる。硫化物イオンは固体の状態では知られているが、水溶液の状態では確認されていない(c.f.酸化物)。pH 滴定により硫化水素の2番目の酸解離定数は10-13付近であるとされてきたが、これはアルカリ溶液における硫黄の酸化が原因の誤認であることが現在、明確に分かっている。現在、pKa2 は19 ± 2と見積もられている。
HS-  \rightleftarrows\ S2- + H+
硫化水素は金属イオンを含む水溶液と反応して、金属硫化物の沈殿を生じる。この硫化物の沈殿生成は硫化水素が弱酸であるため水溶液のpHおよび硫化物の溶解度積に著しく依存する。沈殿の色は、金属イオンの分解・検出の重要なポイントとなる。温泉街など硫化水素が発生しやすい場所では、銀、銅は接触によってサビ・腐食が発生するため持ち込まないようにと注意書きも見受けられる。
燃えると二酸化硫黄ができる。

\rm 2H_2S + 3O_2 \longrightarrow 2H_2O + 2SO_2
硫化水素と二酸化硫黄との反応から、単体の硫黄と水が生じる。本反応は硫黄回収装置に応用されている。

\rm 2H_2S + SO_2 \longrightarrow 2H_2O + 3S

製法
実験室的製法
多くの場合金属硫化物に酸性水溶液を加えると硫化水素ガスが発生する。


\rm MS + 2H^+  \longrightarrow H_2S + M^{2+}
このことを利用して、中等教育における理科教育では、試験管を用いて微量の硫化鉄(II)希塩酸から硫化水素を製造する実験がしばしば行われている。また、実験室規模での発生では硫化鉄と希硫酸からキップの装置を使って合成する方法もあるが、今日では実験用途では工業的に生産されたガスボンベを利用することが通常である。
毒性の高さから、実験室規模の製法の実施にあたっても、安全性を確保するために十分な換気の確保と理科教員や資格者による監視・管理のもと実施される必要がある。

工業的製法
工業的な硫化水素の製造法としては,




\rm HOCH_2CH_2NH_2 + H_2S \longleftrightarrow HOCH_2CH_2NH_3^+ + HS^-

\rm CH_4 + 4S \longrightarrow CS_2 + 2H_2S
  • 単体硫黄に水素を添加する熱反応、触媒反応の2段階反応プロセスによって高純度の硫化水素を製造する方法[1][2]

\rm H_2 + S \longrightarrow H_2S
がある。

用途
チオ有機化合物の合成
メタンチオールエタンチオールそして、チオグリコール酸など、いくつかの有機硫黄化合物は硫化水素を使って作られる。

硫化アルカリ金属
アルカリ金属あるいはアルカリ金属水酸化物と反応して、生体高分子の分解に使われる硫化水素ナトリウム硫化ナトリウムのようなアルカリ硫化水素に変換する。クラフト法による皮革脱毛パルプの脱リグニンは両方アルカリ硫化物の影響による。

分析化学
硫化水素は分析化学において重要な物質で、金属イオン定性分析に使われている。この場合、今日では硫化水素を直接用いるのではなく、チオアセトアミドを使う方法が通常用いられる。チオアセトアミドは、ある種の金属イオンと反応したのち加水分解して金属硫化物を与える。この分析では、重金属(と非金属イオン(例:Pb(II)、Cu(II)、Hg(II)、As(III))は溶液中の硫化水素の影響で沈殿する。沈殿物は酸により再溶解するが硫化物の種類により条件が異なり、たとえば硫化マンガン(II)および硫化亜鉛などは希塩酸でも溶解し、硫化アンチモンおよび硫化スズ(II)などは濃塩酸により溶解する。また硫化銅および硫化銀などは希硝酸により酸化されて溶解するが硫化水銀は希硝酸でも溶解しない。

硫化金属前駆体
上で示したように多くの金属イオンは硫化水素と反応して対応する硫化物を与えるため、広く利用されている。浮遊選鉱による金属鉱石の浄化では、鉱物粉はよく硫化水素で処理され、分離を促進する。一部の金属はときどき硫化水素によって不動態を作る。水素化脱硫に使われる触媒は硫化水素によって活性化し、また、精製所で使われる金属触媒の作用は硫化水素によって影響を受ける。

その他
硫化水素はガードラースルフィド法 (Girdler sulfide process) によって、通常の水から重水を分離するのにも使われる。これは硫化水素分子と水分子との間の重水素の分配率の違いを利用したものである[1]

H2O(l) + HDS(g)  \rightleftarrows\ HDO(l) + H2S(g)
K = 1.01
毒性
毒性は、化学的な反応性の高さによる皮膚粘膜への刺激性とミトコンドリアに所在するシトクロムcオキシダーゼの阻害が挙げられる。
シトクロムcオキシダーゼ阻害作用は非常に急速に発生する。高濃度での暴露を受けた場合には数呼吸で肺の酸素分圧が低下することによる呼吸麻痺を起こし、呼吸中枢が活動できなくなる結果昏倒に至る。この現象は「ノックダウン」とよばれる。皮膚粘膜への刺激性は中長期的な影響となり、気管支炎肺水腫を起こす[2][3]
また硫化水素は独特の臭気があるが嗅覚を麻痺させる作用もあり、高濃度で匂いを感じなくなる。従って濃度が致死量を超えていても嗅覚で知覚できないケースもある。知らずに近づいた登山者やスキー客・温泉客が死亡する例も見受けられる。
鉱工業においてはビルの汚水槽や排水プラント等の下水道施設、化学工業・実験施設において事故が度々発生しており、このような場所での作業では監視・管理が法規制されている[4]。年余にわたる微量の曝露では変異原性が指摘されている[5]
即死濃度に満たない濃度の硫化水素ガスを長時間吸引して死亡した場合、遺体に緑色を帯びた暗紫赤色や緑色を帯びた暗赤褐色の死斑が現れたり、遺体の臓器が灰緑色になったりすることがある。これらは血液に含まれるヘモグロビンに硫化水素が作用し、硫化ヘモグロビンになることによる[6]
即死濃度以上の高濃度硫化水素ガスを吸引して死亡した場合、体内で形成される硫化ヘモグロビンの量が少ないため、死斑や血液の色調は通常の急死の場合とほぼ同じであり、遺体が緑色になるということは無い[7]


関連項目
硫黄泉

最終更新 2013年7月6日 (土)


 
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燃料電池

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%87%83%E6%96%99%E9%9B%BB%E6%B1%A0

ファイル:Fuel cell NASA p48600ac.jpg
燃料電池(直接メタノール形燃料電池

燃料電池(ねんりょうでんち、: fuel cell)は、電気化学反応によって電力を取り出す装置(電池)のひとつ。

概要
燃料電池は、補充可能な何らかの負極活物質(通常は水素)と正極活物質となる空気中の酸素等を常温または高温環境で供給し反応させることにより継続的に電力を取り出すことができる発電装置である。装置内の固定量の活物質を使用するために電気容量に限界のある一次電池二次電池と比べ、正極剤、負極剤共に補充し続けることで電気容量の制限なく放電を永続的に行うことが可能な点で大きく異なる。

燃料電池は、補充可能な何らかの負極活物質(通常は水素)と正極活物質となる空気中の酸素等を常温または高温環境で供給し反応させることにより継続的に電力を取り出すことができる発電装置である。装置内の固定量の活物質を使用するために電気容量に限界のある一次電池二次電池と比べ、正極剤、負極剤共に補充し続けることで電気容量の制限なく放電を永続的に行うことが可能な点で大きく異なる。

熱機関を用いる通常の発電システムと異なり、化学エネルギーから電気エネルギーへの変換途上で熱エネルギー運動エネルギーという形態を経ないため、熱機関特有のカルノー効率に依存しないことから発電効率が高い。また、システム規模の大小にあまり影響されず、騒音や振動も少ない。そのため、ノートパソコン携帯電話などの携帯機器から、自動車鉄道、民生用・産業用コジェネレーション発電所、軍事兵器まで多様な用途・規模をカバーするエネルギー源として期待されている。
燃料電池は方式ごとに水素や水素原料となる化石燃料等の利用が検討されている。直接水素を用いる場合は化石燃料改質することにより取り出した水素を利用する。
水素を反応させ電気を取り出す仕組みとしては水の電気分解の逆反応である 2H2 + O2 → 2H2O による場合が多い。反応時に熱を伴うだけでなく、発電効率の高いものほど反応に高温を必要とする傾向があり、1,000℃近くの環境を必要とする方式もある。反応によってできる物質は水であるが、生成されるのが高熱環境下であるため実際に排出されるのは水蒸気または温水である。
研究開発が進められており、電気化学反応と電解質の種類によって幾つかの方式に分けられる。

方式
使用する電解質の種類によって主に4種類の燃料電池の方式が研究されている。アルカリ電解質形燃料電池(AFC)は、従来方式であり今後の利用は限定的だと考えられている。バイオ燃料電池は、他方式と全く異なっており不明な点が多い。

ファイル:Fuel cell (V-I characteristic chart) J.PNG
主要な燃料電池のV-I特性

固体高分子形燃料電池 (PEFC)

固体高分子(膜)形燃料電池(PE(M)FC, Polymer Electrolyte (Membrane) Fuel Cell)は、イオン交換膜を挟んで、正極に酸化剤を、負極に還元剤(燃料)を供給することにより発電する。イオン交換膜としてナフィオンなどのプロトン交換膜を用いた場合は、プロトン交換膜燃料電池(PEMFC, Proton Exchange Membrane Fuel Cell)とも呼ばれる。起動が早く、運転温度も80-100℃と低い。水素を燃料に用いる場合では、触媒に高価な白金を使用しており、燃料中に一酸化炭素が存在すると触媒の白金が劣化する。発電効率は30-40%程と燃料電池の中では比較的低い。
リン酸型に次いで実用化が進んでいるが、発電効率が低いため、小型用途での発電使用が想定されている。触媒として使用される白金の使用量を減らすことと、電解質として使用されるフッ素系イオン交換樹脂の耐久性の向上とコストが今後普及の課題である。
室温動作と小型軽量化が可能であるため、携帯機器、燃料電池自動車などへの応用が期待されている。

りん酸形燃料電池 (PAFC)
りん酸形燃料電池(PAFC, Phosphoric Acid Fuel Cell)は、電解質としてリン酸(H3PO4)水溶液をセパレーターに含浸させて用いる。動作温度は200℃程度で、発電効率は、約40%LHV。固体高分子形燃料電池と同様に白金を触媒としているため、燃料中に一酸化炭素が存在すると触媒の白金が劣化する。従って、天然ガスなどを燃料とする場合は、あらかじめ水蒸気改質・一酸化炭素変成反応により一酸化炭素濃度が1%程度の水素をつくり、電池本体に供給する必要がある。
工場、ビルなどの需要設備に設置するオンサイト型コジェネレーションシステムとして100/200kW級パッケージの市場投入がなされ、すでに商用機にて4万時間以上の運転寿命(スタック・改質器無交換)を達成している。[1]

溶融炭酸塩形燃料電池 (MCFC)
溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC, Molten Carbonate Fuel Cell)は、水素イオン(H+)の代わりに炭酸イオン(CO32-)を用い、溶融した炭酸塩(炭酸リチウム炭酸カリウムなど)を電解質として、セパレーターに含浸させて用いる。そのため、水素に限らず天然ガス石炭ガスを燃料とすることが可能である。動作温度は600℃-700℃程度。常温では固体の炭酸塩も動作温度近傍では溶融するため、電解質として用いることができる。PAFCに競合する選択肢として、250kW級パッケージが市場に投入されつつある。発電効率は約45%LHV。白金触媒を用いないためPEFCやPAFCと異なり一酸化炭素による被毒の心配がなく、排熱の利用にも有利である。内部改質方式とされるが、プレリフォーミング用の改質器をシステム内に設置するのが一般的のようである。火力発電所の代替などの用途が期待されている。[2]
なお、通常の燃焼反応では、空気中の窒素の存在により排ガス中の二酸化炭素濃度は約20%が上限であり、更に二酸化炭素濃度を高めるには空気の代わりに酸素を用いなければならない。しかし、MCFCは炭酸イオンが電池反応に介在し、空気極側の二酸化炭素と酸素が選択的に燃料極側に移動・蓄積するため燃料極側排ガスの二酸化炭素濃度は80%程度にも達する。この性質を利用し、MCFCで二酸化炭素の回収を行うことが試みられている。日本国内では経産省補助事業として中国電力中部電力が共同実施している[出典 1]

固体酸化物形燃料電池 (SOFC)
固体酸化物形燃料電池(SOFC, Solid Oxide Fuel Cell)は、固体電解質形燃料電池とも呼ばれ、動作温度は700-1,000℃を必要とするので高耐熱性の材料が必要となる。また、起動・停止時間も長い。電解質として酸化物イオンの透過性が高い安定化ジルコニアランタンガリウムペロブスカイト酸化物などのイオン伝導性セラミックスを用いており、空気極で生成した酸化物イオン(O2-)が電解質を透過し、燃料極で水素あるいは一酸化炭素と反応することにより電気エネルギーを発生させている。そのため、水素だけではなく天然ガス石炭ガスなども、脱硫処理は必要であるが、簡単な水蒸気改質処理(一酸化炭素の除去が不要で、燃料中に若干の未改質ガスを含む改質)により燃料として用いることが可能である。活性化電圧降下が少ないので発電効率は高く、すでに56.1%LHVを達成している例もある。家庭用・業務用の1kW-10kW級としても開発されている[3]。 原理的には発電部分における改質(ニッケルを含む燃料極における直接内部改質)が可能であるが、吸熱反応による発電部分の極端な温度変化を防ぐために、プレリフォーマー(発電反応による熱や反応後の燃料を燃焼した熱を利用した間接内部改質)を採用するのが一般的である。燃料極としては、ニッケルと電解質セラミックスによるサーメット、空気極としては導電性セラミックスを用いる。大型SOFCは、燃焼排ガスをガスタービン発電や蒸気発電に利用すれば、極めて高い総合発電効率を得ることが出来ると予測されるため、火力発電所の代替などの用途が期待されている。[4][5]
日本ガイシ株式会社は2009年6月11日に独自構造のSOFCを開発し、世界最高レベルの63%の発電効率(LHV)と90%の高い燃料利用率を達成したと発表した。[6]
2011年10月、JX日鉱日石エネルギーが市販機としては世界で初めてSOFC型エネファームを発売[7]


アルカリ電解質形燃料電池 (AFC)
アルカリ電解質形燃料電池(AFC, Alkaline Fuel Cell)は、水酸化物イオンをイオン伝導体とし、アルカリ電解液を電極間のセパレータに含侵させてセルを構成している。PEFCと同様、高分子膜を用いるタイプも報告されている。最も構造が簡単であり、アルカリ雰囲気での使用であることから、ニッケル酸化物等の安価な電極触媒を利用することができること、常温にて液体電解質を用いることからセル構成も単純にできるため、信頼性が高く、宇宙用途などに実用化されている燃料電池である。一方、改質した炭化水素系燃料から水素を取り出す場合、炭化水素が混入しているとアルカリ性電解液が炭酸塩を生じて劣化する。同様に空気を酸化剤として用いると電解液が二酸化炭素を吸収して劣化するため、純度の高い酸素を酸化剤として用いる必要がある。水素の純度を高めるためには、パラジウムの膜を透過させることにより純度を高める。電解質が水溶液であるため、作動温度域は電解液が凍結・蒸発しない温度に制限される。また、温度によりイオンの移動度(拡散係数)が変わり、発電力に影響するため、温度条件が厳しい。ニッケル系触媒は配位性のある一酸化炭素、炭化水素、酸素および水蒸気等により活性が下がるので水素燃料の純度は重要である。これらを不純物として含む改質水素の使用は望ましくない。
21世紀現在の燃料電池の研究開発上ではほとんど目を向けられることはないが、年少向けの教材から、アポロ計画スペースシャトルまで広く「実用化」されている。アポロ13号における事故はこの燃料電池に供給する液体酸素供給系統の不具合に起因したものであり、燃料電池そのものの問題ではない。
ダイハツ工業産業技術総合研究所と共同で水加ヒドラジン(N2H4・H2O)を燃料として0.50W/cm2の出力密度を達成したと発表している[出典 2]。この場合、燃料電池への炭化水素の混入はなく、排出物は水と窒素のみとなる。


直接形燃料電池 (DFC)
直接形燃料電池(DFC, Direct Fuel Cell)は、改質器を介さずに燃料を直接セルスタックに供給し、液体燃料であるメタノールジメチルエーテルヒドラジンを使用するものが開発されている[8]。つまり、DFCは燃料電池それ自身の方式を指す言葉ではない。燃料として用いる物質はいずれも炭素を含む化合物であるため、反応(発電)によって二酸化炭素が生成して排出される。燃料供給ポンプや放熱ファンを使うかいなかで、パッシブ型とアクティブ型に区分される。1. 燃料極の白金に反応中間体である一酸化炭素が強吸着してしまい反応速度が遅く、2. 水溶性の高い燃料を用いた場合では燃料のクロスオーバーが起こるため、電力・発電効率とも低いが小型軽量のものが作れる。例えば、直接形メタノール燃料電池(DMFC)では、数十mW-10W程度の小規模小電力発電に適している。これらは、小型携帯電子機器の電源としての用途が考えられている。米国では2008年には出力1Wのものが販売されていた。

バイオ燃料電池
食物からエネルギーを取りだす生体システムを応用した燃料電池である[9]酵素の働きにより糖分を分解し、電気エネルギーを取りだす。環境の変化に対しても安定して働く強力な酵素が不可欠であり、研究開発では、酵素の寿命を伸ばすことなどが課題となっている。血液中の糖分を利用する体内埋め込み型ペースメーカーや、ノートパソコンや携帯機器の電源などへの応用が期待される。また類似の研究には、光合成による植物の生体システムを応用した「太陽光バイオ燃料電池」もある。

4方式の比較
21世紀初頭現在、研究開発が進められている主要な4つの方式について比較を示す。

4方式の比較
PEFC
固体高分子形
PAFC
りん酸形
MCFC
溶融炭酸塩形
SOFC
固体酸化物形


電解質材料イオン交換膜りん酸炭酸リチウム、炭酸ナトリウム安定化ジルコニアなど
移動イオンH+H+CO32-O2-
使用形態マトリックスに含浸マトリックスに含浸、又はペースト薄膜、薄板

触媒白金系白金系不要不要
燃料極H2→2H++2e-H2→2H++2e-H2+CO32-→H2O+CO2+2e-H2+O2-→H2O+2e-
空気極\tfrac{1}{2}O2+2H++2e-→H2O\tfrac{1}{2}O2+2H++2e-→H2O\tfrac{1}{2}O2+CO2+2e-→CO32-\tfrac{1}{2}O2+2e-→O2-
運転温度(℃)80-100190-200600-700700-1,000
燃料水素水素水素、一酸化炭素水素、一酸化炭素
発電効率(%)30-4040-4550-6550-70
想定発電出力数W-数十kW100-数百kW250kW-数MW数kW-数十MW
想定用途携帯端末、家庭電源、自動車定置発電定置発電家庭電源、定置発電
開発状況家庭用は実用化、自動車用は2015年に実用化の予定下水処理場、病院、オフイスビルなど常時稼働形緊急電源として多数の実績がある日本以外での実績があり、拡大中家庭用は実用化、大型定置用は開発中
[出典 3]


歴史
燃料電池の原理は1801年イギリスハンフリー・デービーによって考案された。現在の燃料電池に通じる燃料電池の原型は1839年イギリスウィリアム・グローブによって作製された。この燃料電池は、電極白金を、電解質に希硫酸を用いて、水素酸素から電力を取り出し、この電力を用いて水の電気分解をすることができた。
その後、燃料電池は、熱機関により動かされる発電機の登場によって発電システムとしてはしばらく忘れられたが、1955年、米ゼネラル・エレクトリック社(GE社)に勤務していた化学者であるW. Thomas Grubbはスルホ基で修飾されたスチレンによるイオン交換膜を電解質として用いた改良型燃料電池を開発した。3年後、GE社の別の化学者であるLeonard Niedrachは、触媒である白金の使用量を減らすことに成功し、Grubb-Niedrach 燃料電池として知られる事となった。GE社はこの技術の開発と利用を、当時進行中だったアメリカ航空宇宙局のジェミニ宇宙計画に働きかけて採用され、これが燃料電池の最初の実用となった。1965年アメリカ合衆国の有人宇宙飛行計画であるジェミニ5号で炭化水素系樹脂を使用した固体高分子形燃料電池が採用され、再び燃料電池が注目されるようになった。1959年、フランシス・トーマス・ベーコンは5kWの定置式燃料電池の開発に成功した。1959年、Harry Ihrigが率いるチームによって15kW出力の燃料電池トラクターが米国ウイスコンシン州のアリスシャルマーズ社の米国横断フェアーで公開された。このシステムは水酸化カリウムを電解質として使用して、圧縮水素と酸素を反応させていた。1959年、ベーコンと協力者は5kWの装置で溶接機の電源として使用できることを示した。1960年代、プラット&ホイットニー社は米国の宇宙計画に於いて宇宙船の電力と水を供給する為にベーコンの米国での特許の使用許諾を得た。アポロ計画からスペースシャトルに至るまで燃料電池は電源、飲料水源として使用された。その際は材料の信頼性による検討の結果、アルカリ電解質形燃料電池が採用された。
民生用燃料電池として、住宅用のコジェネレーションシステムや発電施設向けに研究開発が続けられた。日本においては、通商産業省の省エネルギー政策「ムーンライト計画」に基づき、リン酸形、溶融炭酸塩形燃料電池、固体電解質形燃料電池の開発が始められた。1991年には、東京電力五井火力発電所で、出力1万1000kWのリン酸形燃料電池の実証運転が行われた。
1987年カナダバラード パワーシステム社がフッ素系樹脂(Nafion)を電解質膜に用いた固体高分子形燃料電池を開発した。この電解質膜の耐久性に優れていたことから、燃料電池が再び注目されるようになり、研究開発が盛んになった。
米国防総省と国防総省高等研究事業局(DARPA)のローレンス・H・デュボワは、様々な液体炭化水素(メタノール、エタノールなど)で動く燃料電池に着目して、南カリフォルニア大学(USC)のローカー炭化水素研究所に所属していたの専門家スルヤ・プラカッシュと、ノーベル賞受賞者のジョージ・A・オラーに声をかけた。USCはジェット推進研究所カリフォルニア工科大学の協力の下、液体炭化水素が直接酸化するシステムを発明し、のちにダイレクトメタノール燃料電池(DMFC)と名付けられた。
1994年、ダイムラーベンツ(当時)が燃料電池自動車の試作車を発表した。また、トヨタは、1997年東京モーターショーに燃料電池自動車の試作車を発表し、2005年までに量産化することを宣言した[10]
2001年にはソニー日立製作所日本電気が相次いで携帯機器向けの燃料電池の開発を発表している。
2002年12月には、トヨタ・FCHVおよびホンダ・FCXの燃料電池自動車の市販第一号が日本政府に納入され、小泉純一郎首相が試乗を行った。これらは首相官邸経済産業省で使用され、24時間のフルメンテナンス体制付きのリース契約となった。2003年には東京都交通局にトヨタ・日野自動車製FCHVが納入、2004年末までお台場周辺で運行された。2005年には愛知万博で日野製FCHV-BUSが納入された。また、2004年には日産も横浜市などへ納入した。2006年からは愛知万博で使用された水素ステーションが移設された中部国際空港でも運行されている。これらの公共バスは、一般人が乗る事が出来る燃料電池車であるといえる。
主に1980-1990年代に、燃料電池の開発段階に応じて、リン酸形燃料電池を第1世代型燃料電池、溶融炭酸塩形燃料電池を第2世代型燃料電池、固体酸化物形(固体電解質形)燃料電池を第3世代型燃料電池と呼んでいた時期もあるが、固体高分子形燃料電池が開発の主役となってから、21世紀現在、この呼び方が用いられることはほとんどない。
燃料電池の実用化には消防法高圧ガス保安法電気事業法及び建築基準法(メタノールを燃料とするものは、さらに毒物劇物取扱法)などの法的規制緩和が必要であるとされ、電気設備技術基準などの見直しが行われた。2002年10月には米国運輸省が燃料電池の飛行機内持ち込みを許可するなど、燃料電池普及に向けた規制緩和の方針をいち早く打ち出している。また、安全基準や性能評価について国際的な基準制定の動きもある。
 
国際標準化
1998年に、国際電気標準会議(IEC)内の105番目の専門委員会であるTC105が発足し、燃料電池に関する電気分野での標準化が話し合われ、すでに8つの規格が規定されている。また、電気分野以外での標準化は国際標準化機構(ISO)で行なわれている[出典 3]

普及への課題
燃料電池を普及させるための最も大きな課題は、コストである。購入時の初期コストと使用期間にかかるランニング・コストが共に高いため、普及を妨げている。さらに耐久性・発電効率の向上・電解質の長寿命化やインフラ整備等の課題が指摘されてきた[出典 4][出典 3]。こうした課題を乗り越えるための努力が官民双方で続けられている。自動車用に自治体と企業が連携してインフラ構築に乗り出す例[11]が見られる他、家庭への設置に対しても補助金が支給されている[12]。特に2011年3月の震災以降は人気が高まり、現時点では光熱費の節約になるとは限らない状況にもかかわらず、補助金の予算枠を追加するほどになっている[13]。価格の低下に合わせ、補助額も低減している。太陽電池・蓄電池と共に装備した住宅を発売する例も見られる一方、これら”3電池”のさらなるコスト低減の必要性も指摘されている[14]。近年はコジェネレーションの一種として、固定価格買取制度の対象に加えて支援する国も見られる[15]

実用化
2007年現在、欧州のキャンピングカーにおいて、メタノールを使用したものが開発され、2009年春、日本仕様として、エタノール濃度を調整した製品の販売が開始された。また、液化石油ガス (LPG) を使用するものが、数年の間に採用される[16]。また、りん酸形燃料電池であるUTC Power製の400kWPAFCが、ニューヨークのフリーダム・タワーに12台設置される。
なお、2009年6月4日に放送されたテレビ東京ニュースモーニングサテライト」で、京都のベンチャー企業が携帯電話デジタルオーディオプレーヤーの充電用として、水から水素を分離して燃料とする小型の燃料電池を2010年春にコンビニエンスストアで「高校生の小遣いで買える」価格で発売を開始すると報じられたが、詳細については不明である。[出典 5]
2009年10月22日東芝がモバイル機器の充電用としてメタノールを燃料とする小型のモデルの販売を、台数限定で開始した[17]。IEC (国際電気標準会議) の安全性規格 (暫定版) に準拠、としている。

用語
燃料電池の説明では、いくつか特有の用語を使用する。一般的な用語もあるが、燃料電池だけの独自の意味を持つものもある。

セル
電池の分野において"cell"は、両電極と電解質、セパレータを含む最も簡単な電池を表す。一方"battery"は、組みあがった電池全体を指す。燃料電池においては通常、積層などしない単体の燃料電池のことを「単位セル」、「単セル」もしくは単に「セル」と呼ぶことが多い。
スタック
単板形状の単位セルでは、それらを積層したもの。円筒横縞型や円筒縦縞型の単位セルでは上下に重ねたり数珠繋ぎにしたもの。いずれも直列接続される。「セルスタック」とも呼ばれる。
燃料極
陽極(アノード)のことであるが、電子を失う側の電極を意味するアノードを電圧の極性を意味するものと混乱しないように、水素などの燃料を供給する側を意味する「燃料極」と呼んでいる。電気化学の分野では、電気工学での「電極端子の電圧の極性に基づく陽極や陰極といった名称」とずれがあるため、混乱を避けるために供給ガスを電極の名前に選ぶのが一般的になっている。
燃料極=陽極=アノード=負極である。つまり通常の電池でいうマイナス極である。

空気極
陰極(カソード)のことであるが、電子を得る側の電極を意味するカソードを電圧の極性を意味するものと混乱しないように、酸素を含む空気を供給する側を意味する「空気極」や「酸素極」と呼んでいる。
空気極=陰極=カソード=正極である。つまり通常の電池でいうプラス極である。

セパレータ
セルの主要な構成要素であり、一方の面に水素、逆の面に酸素をはさんでこれらを分離する(Separate)のでセパレータと呼ばれる。出来るだけ低い電気抵抗で両面間に電流を流す必要から薄い方が良いが、水素や酸素、冷却水の流路の溝を備えるために厚みのあるものが多い。高濃度の水素イオンは強酸性であるため、グラファイトや耐食性を持つ金属で作られることが多い[出典 3]
電子伝導性があり、イオン伝導性がなく、剛直であり、ガス・液体を通さないことが必要である。 リチウムイオン電池などにおいては「セパレータ」はイオンの通過する部分の正負極を、静電的に絶縁する層を指し、燃料電池においては電解質層に当たるものであり、注意が必要である。 

最終更新 2013年8月10日 (土)

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電池

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電池(でんち)は、何らかのエネルギーによって直流電力を生み出す電力機器である。化学反応によって電気を作る「化学電池」と、熱や光といった物理エネルギーから電気を作る「物理電池」の2種類に大別される。

化学電池
「化学電池」は、物質自身が持つ化学的なエネルギーを化学反応によって直流の電力に変換する電池である。 以下に化学電池の分類を示す。

一次電池
一次電池は、放電と呼ばれる化学エネルギーを電気エネルギーに一方向に変換することのみが一度だけ可能な電池である。一次電池の内、電解質不織布(セパレーター)に染み込ませるなどの処理をして固体化したものは、一般に乾電池と呼ばれる。

マンガン乾電池
アルカリマンガン乾電池
ニッケル系一次電池
オキシライド乾電池→パナソニック(旧松下電器産業、以下旧松下)の商品名で、ニッケルマンガン電池に含まれる
酸化銀電池
水銀電池
空気亜鉛電池
リチウム電池
海水電池

二次電池
二次電池は、放電過程では内部の化学エネルギーが電気エネルギーに変換されるが、放電時とは逆方向に電流を流すことで、電気エネルギーを化学エネルギーに変換して「充電」という蓄積が可能な電池であり、一般には「蓄電池」や「充電式電池」と呼ばれる。

鉛蓄電池
リチウムイオン二次電池
ニッケル・水素蓄電池
ニッケル・カドミウム蓄電池
ナトリウム・硫黄(NaS、ナス)電池
ニッケル・亜鉛蓄電池
酸化銀・亜鉛蓄電池
レドックス・フロー電池

燃料電池
詳細は「燃料電池」を参照

燃料電池は、メタノール天然ガス水素などの燃料から触媒を用いて発電を行う発電装置である。反応に高温を必要とするものが多い。使用する電解質や燃料の種類により以下の5種類に分類される。

リン酸形燃料電池 (PAFC):電解質にリン酸を用いるもの。100℃-1,000℃の中温域で使用する
固体高分子形燃料電池 (PEFC):電解質に水を含む高分子を用いるもの。100℃付近の低温域で使用する
溶融炭酸塩形燃料電池 (MCFC):電解質に溶融したアルカリ金属炭酸塩を用いるもの。100℃-1,000℃の中温域で使用する
固体酸化物形燃料電池 (SOFC) :電解質に酸素イオン伝導性セラミックスを用いるもの。1,000℃付近の高温域で使用する
直接メタノール型燃料電池 (DMFC) :燃料にメタノールを使用する。

化学電池の基本構成
化学電池の中でも一次電池と二次電池では共通する基本構成を持っている。また、燃料電池についても概略においては化学電池と共通する部分が多い。生物電池はこれらとはまったく異なる。
電極/活物質
電池は直流電力を生み出し、その電流の取出口として「正極」「負極」の2つの電極がある。電位の高い方が正極であり、電位の低い方が負極である。電池では正極側で還元反応が起こり、負極側で酸化反応が起こる。還元反応が起こる正極を「カソード」と呼び、酸化反応が起こる負極を「アノード」と呼ぶ[1]。電極は「集電体」とも呼ばれる。また、「活物質」は電池反応の中心的役割を担い、電子を送り出し受け取る酸化/還元反応を行う物質である。実際には活物質だけでなく活物質の凝集を防ぎ分散させるための分散剤や電解液と良好に接触させる濡れ性を維持するためのレベリング剤に導電性を向上させる導電助剤やバインダーと呼ばれる結着材が混合されてスラリーとなったペースト状のものが用いられ、これは「合材」や「合剤」「ミクスチャー」とも呼ばれる。電極には電気伝導率が高く、活物質や電解液に対して化学的に安定であることが求められる。活物質にはグラム当量の小さなものが望まれる。出力される電圧は2つの電極電圧の差が主要な要素であるため、正極側の活物質は電極電位が高い方が良く、負極側の活物質は電極電位が低い方が良い。単純な構造の電池の中には電極が活物質を兼ねているものがある。
電解質
「電解質」はイオン導電性が高いものが求められ、電解質が電気分解されない電圧である「電位窓」も広い方が良い[2]。活物質などに対して化学的に安定であることも求められ、生物毒性や発火性も無いことが望まれる。電池の電解質は電解液と呼ばれる液体のものが多いが、固体の固体電解質もある。
セパレータ
「セパレータ」は「隔膜」とも呼ばれ、正極と負極を分離する機能を担っている。熱や応力に対する耐久力と同時に電池内の他の物質に対しても化学的にも安定でありながら、電解液中のイオンの移動を妨げないように多孔質で薄い膜が求められる。
容器
「容器」は電池の外形を成し、電極/活物質、電解液、セパレータといった内部の構成物質を収めて閉じ込める役割をする。力学的に丈夫で耐薬品性に優れた素材が求められる。
上記の要素全般は、安価で軽量、加工性・生産性が良く、環境汚染を起こさないリサイクルに向いた材料が求められる。

標準電極電位
化学電池は2つの電極の活物質の電位差によって起電力が生じる[3]。各々の活物質はその物質の濃度や温度などで電極電位が変わるが、標準的な状態での電極電位はそれぞれ一定の値であることが知られている。標準的な状態での電極電位を下表で示す。標準的な状態とは25℃での活量1での値となる。活量が1とは、物質の濃度を示しており、固体と液体はそのまま全量、気体は1気圧であり、溶質はモル濃度が活量にあたる。濃度や温度による電極電位の変動量はネルンストの式によって算出できる[4]
負極電極電位(V正極電極電位(V)
Li+/Li-3.040Cu2+/Cu0.347
Zn2+/Zn-0.763Fe3+/Fe2+0.771
Cd2+/Cd-0.403Br3-/Br-1.087
Pb2+/Pb-0.126O2/H2O1.229
CdSO4/Pb-0.355Ce4+/Se3+1.61
H+/H2-0.000PbO2/PbSO41.685
H2SO3/CH3OH0.044MnO2/MnOOH0.15
ZnSO22-/Zn-1.22Ag2O/Ag0.342
H2/OH--0.828O2/OH-0.342
Cd(OH)2/Cd-0.825NiOOH/Ni(OH)20.49
化学電池の性能
電池に何も接続されていない状態での端子電圧が「起電力」であり、電池が外部の回路に接続されて電流が流れると起電力より端子電圧が低くなる。この現象が「分極」であり、低くなった分の電圧は「過電圧」と呼ばれる。過電圧は内部抵抗とも呼ばれ、流れる電流に応じて増大することで端子電圧は低下する。過電圧は以下の3つから構成される[5]

過電圧
抵抗過電圧:イオンが電解質中を流れる時や電子が電極内を流れる時に生じる抵抗によるエネルギー
活性化過電圧:反応物質と電解液との間での電子移動のために消費されるエネルギー
濃度過電圧:反応物質が電極表面に移動するためや電極表面で生じた生成物質が電解液へ拡散するために消費されるエネルギー

電池の端子電圧は使用温度や接続先の抵抗値とそれによる電流値が不明であるため、仮に製造誤差などに起因する製品ごとのバラツキが無くても、厳密には起電力や過電圧は定まらないが、電池の使用環境を想定した上で目安として「公称電圧」を定めている。端子電圧は使用温度や流れる電流の他に、電池の残量によっても変化する。

主な電池の公称電圧

一次電池
マンガン乾電池:1.5V
アルカリマンガン乾電池:1.5V
酸化銀電池:1.55V
空気亜鉛電池:1.4V
フッ化黒鉛リチウム一次電池:3V
塩化チオニルリチウム一次電池:3.6V
二次電池鉛蓄電池:2.0V
ニッケルカドミウム蓄電池:1.2V
ニッケル水素蓄電池:1.2V
リチウムイオン蓄電池:3.7V

二次電池
鉛蓄電池:2.0V
ニッケルカドミウム蓄電池:1.2V
ニッケル水素蓄電池:1.2V
リチウムイオン蓄電池:3.7V
二次電池では一般に「充電電流」と「充電時間」が標準と急速のそれぞれに存在し、最大充電電圧も定められている。「最大充電電圧」を越えて充電しようとすると「過充電」となって電池が劣化したり最悪では破壊に至る危険性もある。一次電池と二次電池では放電終止電圧も定められている。一般に「放電終止電圧」はその電圧に至った時点でそれ以上放電してはいけない電圧であり、放電終止電圧を越えてさらに放電状態を続ければ「過放電」となって電池が劣化したりする[6]。

容量
電池が供給可能な電力の総量をその電池の「容量」と呼ぶ。基本的に電池の容量は活物質の種類と量に従い、「1グラム当量の物質が析出するのに要する電気量は、物質の種類によらず一定(=ファラデー定数=約96,500 C/mol)である」というファラデーの電気分解の法則によって決まる。 グラム当量とは、1mol分の質量、つまり原子量の数に等しい数値を、1つの原子あたり反応に関与する電子の量、つまり原子価で割った値を指す。マンガンの例では、原子量が約54.9であり、電池で用いられる場合には原子価は一般に2価であるので、54.9/2=27.45程度になる。同様に亜鉛では32.7ほどになる。これらのことから、マンガン27.45gや亜鉛32.7gを完全に電気分解すると約96,500クーロンの電荷が生じると計算される。
1クーロンの電荷量とは、1秒間に1Aの電流が流れる電荷を指すため、96,500クーロン分であれば1時間当たりでは3600で割ると 26.8Aになる。電池内での化学反応は電気分解の逆であるが、電荷量は正負が反転する他は同様の計算が用いられ、このように活物質の種類と量に応じて容量の限界値が定まる。また、化学反応は常に理想的な状態下で全ての反応が行われるとは限らず、実際は反応せずに残る物質もあるなど計算上の能力と差異が生じる。電池の容量は、1時間で放電し使い切ってしまう場合を想定した電流量で表示されることが一般的であり、「Ah」や「mAh」という単位が用いられる。720mAhと表記されている電池なら、720mAなら1時間、360mAなら2時間程度持続することが期待できる。
主な活物質の重量当りと体積当りの容量を以下に示す。一般に電池は軽量で小さな体積が求められるため、重量当りや体積当りの容量

容量
〔Ah/g〕〔Ah/cm3
Li(固体)3.862.06
Al(固体)2.988.06
Na(固体)1.171.08
Fe(固体)0.967.52
Zn(固体)0.825.85
Cd(固体)0.484.12
Pb(固体)0.262.93
Ch3OH(液体)5.023.97
H2(気体)26.30.00216
正極容量
〔Ah/g〕〔Ah/cm3
(CF)n(固体)0.862.56
Ag2O(固体)0.433.24
MnO2O(固体)0.311.55
NiOOH(固体)0.292.03
Li(0-1)CoO2(固体)0.272.89
PbO2(固体)0.222.10
Li(0-1)Mn2O2(固体)0.150.74
SOCl2(液体)0.600.98
O2(気体)3.360.00439
[7]

エネルギー密度
電池のエネルギー密度には「重量エネルギー密度」と「体積エネルギー密度」の2つがある。 ここでのエネルギーは〔Wh〕や〔J〕で表現されることが多く、電池のエネルギー密度は一般に〔Wh/kg〕や〔Wh/L〕で表される。実際の電池のエネルギー密度は活物質以外の構成要素も含まれることもあり、活物質だけの計算値の20-40%程度の値になる。
負極電極電位(V正極電極電位(V)
Li+/Li-3.040Cu2+/Cu0.347
Zn2+/Zn-0.763Fe3+/Fe2+0.771


物理電池
「物理電池」とは、などの物理的なエネルギーを電気エネルギーに変換する電池である。 以下に物理電池の分類を示す。

太陽電池
「太陽電池」は、光エネルギーを直接、電気エネルギーに変換する電池であり「光電池」とも呼ばれる。

熱電池

「熱電池」は、熱エネルギーを直接、電気エネルギーに変換する電池である。
原子力電池

「原子力電池」とは、放射性元素原子核崩壊を起こす際に発生する原子力エネルギーを電気エネルギーに変換する電池である。
関連項目
電気化学
乾電池
一次電池
ボルタ電池
ボタン電池
エネルギー
二酸化マンガン
腐食電池
標準電極電位
エネルギー貯蔵

最終更新 2013年9月30日 (月)

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海水電池

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%B7%E6%B0%B4%E9%9B%BB%E6%B1%A0

海水電池(かいすいでんち)とは、海水電解質として発電を行う電池のこと。
通常負極にマグネシウム、正極塩化鉛塩化銀を用い、海水に電池を浸すことにより発電を開始する。原理的に充電は出来ない一次電池である。
通常の一次電池に比べ耐圧性にすぐれ、長期間にわたりほぼ一定の出力を得ることができるという特性のため、電源の交換が困難である深海の海中測定機器の電源等に用いられる。
また、海水に浸すことで電気が生じることを利用して、船舶用の緊急信号発信装置の電源としても使われる。この場合、装置(に組み込まれた電池)は通常は船内に設置されており、当然ながら海水は入らないために発信することはない。しかし、船舶が極度に浸水したり沈没した場合には、海水が電池に流入して発電が始まって自動的に緊急信号を発信する仕組みになっている。そのため、設置と点検さえしておけば、船員が緊急信号を発信する暇もない場合であっても、ほぼ確実に緊急信号を発することができる。
余談だが、海水電池はその原理から人間の尿でも発電することが可能なため、「小便電池」「ションベン電池」と呼ばれることもある。

最終更新 2009年7月28日

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ゼーベック効果

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BC%E3%83%BC%E3%83%99%E3%83%83%E3%82%AF%E5%8A%B9%E6%9E%9C

ゼーベック効果(ゼーベックこうか、: Seebeck effect)は物体の温度差が電圧に直接変換される現象で、熱電効果の一種。逆に電圧を温度差に変換するペルティエ効果もある。類似の現象としてトムソン効果ジュール熱がある。ゼーベック効果を利用して温度を測定することができる(→熱電対)。ゼーベック効果、ペルティエ効果、トムソン効果は可逆であるが、ジュール熱はそうではない。
ゼーベック効果はエストニア物理学者トーマス・ゼーベックによって、1821年、偶然発見された。ゼーベックは金属棒の内部に温度勾配があるとき、両端間に電圧が発生することに気づいた。
また、2種類の金属からなるループの接点に温度差を設けると、近くに置いた方位磁針の針が振れることも発見した。これは2種類の金属が温度差に対して異なる反応をしたため、ループに電流が流れ、磁場を発生させたためである。

荷電粒子の拡散
物質中の帯電したキャリア(例えば金属中の電子半導体中の電子と正孔イオン導体中のイオン)は、導体の一端が異なる温度のときそちらへ拡散しようとする。熱い端にいる熱いキャリアは冷たい端のほうへ拡散する。なぜならそこでは熱いキャリアの密度が薄いからだ。同様に、冷たいキャリアは熱い端のほうへと拡散する。
導体を平衡状態に達するまで放っておくと、熱は導体全体に一様に分配される。熱を蓄えたキャリアによる熱の輸送は熱流と呼ばれる。帯電したキャリアが動く場合、これは電流そのものである。
導体の両端がそれぞれ一定の温度に保たれていれば、キャリアは一定の割合で拡散する。もし熱いキャリアと冷たいキャリアが等しく拡散するならば、電荷の正味の移動はゼロである。しかし拡散する電荷は、物質中の不純物、欠陥、そして格子振動フォノン)によって散乱を受ける。 散乱がエネルギーに依存するならば、温度の異なるキャリアは異なる割合で拡散することになる。このため一方の端でキャリアの密度が高くなり、プラスとマイナスに帯電した両端の間には電位差が生じる。
この電位差は拡散の不平等を妨げるように働く。そこで一方向に拡散するキャリアの総数から電位差を受けて逆方向へ移動するキャリアの総数を差し引いて平衡状態に達する。物質の熱電効果は不純物や欠陥、構造の変化の影響を強く受ける。熱電効果は多くの異なる効果からなる現象である。

最終更新 2013年9月25日


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Fuel Cell Demo  



公開日: 2013/02/04
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http://vespr.org/videos/5130b7d29d534...
Using an analogy to hormonal 16 year-old summer campers, we discuss the chemistry and physics of how fuel cells work.

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